第24話 戦艦

《sideザイール》


 俺たちは王女セリーヌを救出した後、彼女を連れて行くつもりはなかったので、適当な街に放置することにした。


 そんな俺の決断に対して、彼女は明らかに不満そうな表情を浮かべていた。


「ザイール様、お願いです。このまま私を一人にしないでください」


 セリーヌが俺の腕を掴み、縋り付いてくる。

 その必死な姿に、俺は冷静に答えた。


「いや、普通にウザい!」

「なっ?!」

「俺には自由に生きるっていう目的がある。お前を連れて行くことはない!」

「くっ! わっ私の見た目は悪くないはずです」

「えっ? 見た目? いや、普通にルナとレイナの方が美人だと思うぞ」

「主人様、好き」

「ふふ、私も褒めていただきました!」


 王女の手を振りほどいて、置き去りにしようとするが、セリーヌはさらに強く掴んできた。


「でも、私はあなたが助けてくれたから生きているんです。どうか、もう少しだけ一緒にいさせてください」

「ええええ!」

「どうして、そんなに嫌なのですか?! あなたは勇者で、私は王女です! 王女が助けていただいて、何も恩返しをしないのは貴族としての礼儀に反するのです!」


 うわ〜出たよ。貴族のルール。そういうしきたりとか苦手なんだよな。


「うん。無理。そういうの受け付けない体質だから」

「なっ!?」

「セリーヌ王女、俺が助けたのは事実だが、それでお前を守り続ける義務はない。お前は王女だ。この領地の貴族にでも守ってもらえ。王国に戻って、お前の務めを果たせ」


 俺の言葉に、セリーヌはしばらく黙っていた。

 彼女の瞳には絶望が浮かんでいるように見える。


「わかりました……。あなたの言う通り、私は王女としての務めを果たします。でも、もう一度だけ言わせてください。あなたがいてくれたおかげで、私は本当に助かりました」


 その言葉に、俺は一瞬だけ彼女が本心からお礼を言っているように思える。

 だが、それが本心でも王族は勇者を利用しようとした奴らだ。


 関わらないのが一番だな。


「じゃあな、セリーヌ」


 俺は背を向けて歩き出した。


「ありがとう、ザイール様……」


 魔王領へ入るためには海を越える必要がある。

 魔族は空を飛んでやってくるが、俺としては船の旅が出来てワクワクしている。


 正直、海の旅なんてロマンがあるし、異世界を満喫するにはもってこいだ。


「ザイール様、本当に魔王領へ向かうのですか?」


 ルナが心配そうに尋ねてくるが、俺は笑って答えた。


「ああ、もちろんだ。でも、その前に豪華な船旅を楽しもうと思ってな」


 港に着くと、そこには海を渡る豪華な戦艦が停泊していた。

 甲板には旗がはためき、乗船する人々の賑やかな声が聞こえてくる。


 戦艦と言っても、魔王領との国交を繋ぐ船なので、頑丈に作られているのだ。普通の乗客も乗せてくれる。


「これが俺たちの乗る船か。なかなかいいじゃないか」


 俺はルナとレイナを引き連れて船に乗り込んだ。甲板では船員たちが忙しそうに動き回り、乗客たちは不安と期待を浮かべる様子が窺える。


「ザイール様、これは王国の戦艦なのですね」


 レイナが感嘆の声を上げる。彼女の目にも、この船の屈強さに興味があるようだ。


「そうだな。こんな船旅、滅多にできるものじゃない」


 ルナは無言で俺の袖を引っ張り、横で落ち着かない様子を見せていた。

 あれだけの強さを持っている彼女でも、船旅に少し緊張しているのかもしれない。


「大丈夫だ、ルナ。これはただの旅だ。楽しむだけさ」


 俺は彼女の頭を撫でて安心させると、船内へと向かった。


 船内はまるでホテルのように、広々としたロビーに客室は綺麗に整備されている。


「ここが俺たちの部屋か」


 俺たちの部屋は広く、大きなベッドに家具が並べられていた。

 ルナと俺は同じ部屋で、レイナは隣の一人部屋を予約してある。


「すごい……」


 ルナが小さな声で感嘆の声を上げる。彼女もこの部屋に感動しているようだ。

 うんうん、初彼女と船旅とか、豪華でいいんじゃね?


「気に入ったか、ルナ?」

「はい、すごく素敵です」


 彼女の笑顔に、俺も満足感を覚える。

 世界でのんびりとした船旅を楽しむのも悪くない。


「ザイール様、私たちも少し船内を見て回りましょう」


 レイナの提案に、俺たちは船内を探索することにした。


 客室のある場所は、戦艦とも思えないレストランやカフェ、プールにジム、さらに演劇場まである。この船はまさに移動するホテルだな。


「ここで何か面白いものでも見つけるかもな」


 俺は船内を歩き回りながら、船旅を満喫していた。

 途中、甲板に出ると、海風が心地よく吹き抜け、広がる青い海が一望できた。


「こんな景色、見たことないな……」


 ルナもその景色に見とれているようだ。


「ここで少し休もうか」


 俺たちは甲板のデッキチェアに腰を下ろし、海を眺めながらのんびりとした時間を過ごした。ルナは俺の肩にもたれかかり、静かに目を閉じている。


「ザイール様、この旅は本当に素晴らしいです」


 レイナが微笑みながら言う。彼女もこの船旅を楽しんでいるようだ。


「そうだな。異世界に来て、こんなにリラックスできる時間を過ごせるとは思わなかった」


 俺は海を眺めながらそう答えた。

 異世界の冒険もいいが、こうしてのんびりとした時間を過ごすのも悪くない。


 次は魔王領で何が待ち受けているのか、ワクワクして胸が高鳴る。


「さあ、次はどんな冒険が待っているんだろうな」


 俺はそう呟きながら、再び船内を探索することにした。異世界の旅はまだ始まったばかりだ。

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