第25話 決断

《side魔王バカリス》


 我が名は魔王バカリス。魔王軍の頂点に立つ者であり、全ての魔族を統べる者である。


 しかし、近頃の魔王軍の現状は芳しくない。


 魔王軍が送り出した幹部を次々と討ち取られ、我が軍の勢力は日に日に弱体化している。今回の件もその一環だ。


 玉座に腰を下ろし、幹部たちが集まる大広間を見渡した。


 全員がこちらに対して不遜な顔を向けてくる。

 お前たちが不甲斐ないのであって、我が悪いわけではないのに、我を責めるような顔を向けてくるのは苛立ちを感じる。


 特に魔王候補のラガシュ、オルガ、フィルアの三人は、英雄トールとの戦いで勝利したと言うのに、その後に何者かに敗北し、その失態により肩を落としていた。


「魔王様!」


 突如、魔族を表すツノを生やした幼女が会議室に飛び込んできた。


「む?」

「私はバンパイアの女王エレナです!」

「なっ?! その姿はどうしたのだ?」

「申し訳ありません。実は……」


 我は英雄トールに続いて、力不足で離反されたと聞いていた勇者ザイールが、とんでもない強さを秘めていたことを告げられる。


 魔王候補として送り出した三人が倒されて、エレナは魔力を消費しながらもなんとか逃げてきたと言う。


「魔王様、我々は英雄トールとの戦いで勝利を納め、王女セリーヌを手中に収めたのですが、勇者ザイールはそんなことを意にすることなく、我々と戦いました。そして、幹部であれサキュバスのエレナは勇者ザイールに付き従っています!」


 エレナから告げられる報告に眉を顰める。


 強力な力を持つ魔王候補三人を失ったことは魔王軍の痛手だ。


「くだらぬ言い訳は聞きたくない! 事実、エレナよ。貴様は我が軍の顔に泥を塗ったのだ」

「なっ! 私に全ての罪をなすりつけるのですか?!」

「貴様の失態であろう!」

「くっ?! かしこまりました。では、再度、私は勇者ザイールの元へ向かいます」


 あまりにもあっさりと引き下がったエレナに違和感を覚えるが、飛び出していく幼女姿のエレナを見送って、幹部たちの中でも特に優秀なネクロマンサーのマルゴが口を開いた。


「魔王様、レヴァナントが討たれ、リリスが寝返った今、我々の戦力は大幅に減少しております。このままでは、我々の立場が危うくなります」


 マルゴの言葉に、我は苦々しい思いを感じた。


「分かっておる。だが、我は新たなる策を考えておる」


 我は立ち上がり、玉座から降りると、広間の中央に歩み寄った。


「次なる手を打つのだ」


 幹部たちは一斉に顔を上げ、我の言葉に耳を傾けた。


「先の戦いで、我々の戦力が大きく削がれたのは事実だ。しかし、我々にはまだ希望がある。新たなる魔王候補たちが、さらに成長し、次の魔王として覚醒した者が現れた」

「「「おおおお!!!」」」

「しかも二人もだ。奴らのうち一人を次の魔王とするため、奴らに英雄トール、勇者ザイールの討伐を命ずる。それが最終結果として、魔王の座を明け渡すつもりだ」


 我の宣言に幹部たちが盛大な拍手と、我の決断を讃える。


「魔王様、よくぞご決断されました!」

「魔王様、今までご苦労様でした」

「魔王様、お前が言ってこいよ」

「魔王様、早く辞めてしまえ!」


 うん? 声が重なって上手く聞こえないが、何やら不穏なことを言っているような気がする。


「我は、勇者ザイールを討つための最終手段を用意している。そのために、お前たちには再び力を見せてもらう必要がある」

「我々、幹部にですか?」

「そうだ。二人の魔王候補が動きやすいように、人間の王国に宣戦布告を行う!」

「なっ?!」


 マルコを含めた幹部たちが驚きの声を出す。


「しかし、前回の戦いでは敗北してしまったのです。それに再び王国に宣戦布告をするのは危険ではないでしょうか?」

「恐れるな。今回はお前たちだけではない。我も出陣する」

「おお! 魔王様が!」


 我は冷ややかな笑みを浮かべた。


「ならば、我々にお任せください、魔王様。私が全力でサポートいたします」

「俺もサポートします!」

「わしもじゃ!」

「あたいもサポートで!」


 サポート多くない?


「まぁ、よい。全員で王国を襲撃し、全てを終わらせてくれる」


 我の命令に、幹部たちは一斉に立ち上がり、それぞれの持ち場へと戻っていった。


 一人残った我は、玉座に戻りながら、これからの戦いの行方に思いを巡らせた。


「我の寿命は尽きかけている。しかし、我が軍の未来を託すためにも、勇者ザイールを討たねばならぬ」


 我の心には、死の恐怖が刻まれていた。

 しかし、それと同時に、新たなる魔王の誕生を見届ける決意もあった。


「魔王候補たちよ、お前たちの力が頼りだ。次の戦いで、我々の未来を切り開くのだ」


 我は静かに呟きながら、次なる戦いの準備を進める決意を固めた。


 

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