旅のお供は魔族の奴隷
第14話 主人様
《sideルナ》
私の主人様は、不思議な人です。
魔王軍で、魔王になるために訓練をしている時、私たちの最大の敵は人間族の勇者であると何度も教え込まれてきました。
魔族は強さこそが正義で、私もずっと弱い自分に価値がないと思ってきました。
傷を負って戦えない私など生きている価値など存在しない。
そう思っていたのに、奴隷として売れていた私を買われたのは、意外にも勇者ザイール様でした。
私は魔族の奴隷として、主人様に買われて、不思議な力で体を治してもらったことに驚きました。
あの日、私は絶望の中にいたのです。
奴隷として商館に囚われ、体はボロボロで、希望を失っていました。
片足を失い、左腕は焼け爛れ、瞳も光を失っていて生きる希望はありません。
私の存在はただの負担でしかなく、きっと酷いことをされて殺されると思っていた。
彼は私を見つけると、無言で聖剣を抜き、その力で私の体を治してくれました。
傷ついた体が瞬く間に回復し、失った四肢が再生し、瞳に再び光が戻ったのは奇跡です。
「どうだ、これで大丈夫だろう」
彼の言葉に、私はただ驚きとどうしてこんなことをするのかわからない気持ちでいっぱいでした。
勇者が魔族を助ける? これほど不思議なことはありません。
そして、あの光は温かくて、不思議な気持ちが心に広がっていきます。
街に出て子供を見ていると涙が止まらなくなりました。
こんな私を助けてくれる人がいるなんて、信じられなかった。
「……」
こんな時になんて言えばいいのか、私はわかりません。
♢
しばらく二人で旅を続けていると、魔族の女性が近づいてきました。
私は知らせなければならないと思う気持ちと、自分の正体がバレるかもしれないという恐怖で、何も言えませんでした。
ですが、主人様は、魔族を鋭い観察眼で見抜きました。
見抜いた上で、魔族と共に旅を続けることになったのは驚きました。
彼女はレイナと名乗り、補助魔導士として私たちに加わったのです。
彼女の美しさと優雅な雰囲気に、少しだけ私は不安になりました。
私はいらなくなって捨てられてしまうのでしょうか?
「サキュバスか…興味深い」
主人様もあんな女性が好きなのでしょうか? 勇者はまだ怖いけど、なんだか胸がモヤモヤとしてます。
鋭い観察眼と冷静な判断力に、私はドキドキしてしまいます。
普通の人間では彼女の正体を見抜くことはできません。
「レイナ、少し話があるんだが」
主人様は彼女を呼び出して二人で話をしています。
私は捨てられることなく一緒に旅をすることになりました。
♢
仲間が増えて、旅を続けていると魔物が襲撃してくると、レイナが言いました。
「問題ない」
勇者様は魔王軍に対して、一切恐れることなく、むしろ魔王軍の幹部を瞬殺してしまいました。
その瞬間、勇者が魔王軍の最大の脅威であるという事実を目の当たりにしたのと同時に、魔族は強い者に惹かれる性質が私の体に変化をもたらしました。
私たちは辺境の村で魔王軍の幹部であるレヴァナントを倒して、私はその力に圧倒され、足がすくんで動けなくなりました。
「邪魔だな」
主人様はそう言うと、聖剣を抜き、一瞬でレヴァナントを討ち取りました。
その力強さと決断力に、私は言葉を失い、勇者の強さに身も心も服従してしまう自分がいます。
主人様を好きになったことで体が進化しました。
自分にこんな性質があったとは知りませんでした。
目が覚めると、体は成長して大人になっていました。
進化して力が強くなっているのを感じます。
ですが、私の心は強さよりも主人様への気持ちが溢れてしまいました。
「主人様」
「うん? ルナ?」
変化を遂げた私を見てご主人様は驚いた顔を見せました。
「はい。主人様」
「お前、話せるようになったのか?」
私の姿よりも、話せることを喜んでくれる主人様に、ますます体が熱く火照っていきます。
「いくら子供だからって、ベッドに潜り込んで一緒に眠るのはどうかと思うぞ。しかも、なんだそのけしからん成長の仕方は?」
「私にもわかりません。主人様のことを考えていると、こんな風になってしまったんです」
主人様に対する感情が日に日に強くなる中で、私は自分の体に変化が訪れて喜んでいました。
主人様のベッドにそっと潜り込んで、驚いたように目を開けたのが嬉しいです。
私は彼の胸に顔を埋め、その温もりを感じながら眠りについた。
「主人様、ありがとうございます」
「なんだ? 急に」
「いえ、もしも主人様がよろしければ、私を可愛がって欲しいです」
「おいおい、突然だな。それはお前の望みか?」
「はい!?」
「俺も男だ。それに自由を愛している、だらしない奴だぜ」
「構いません! どこまでもお供します!」
主人様は、優しく私を包み込んでくれました。
私は心から安心することができます。
もうどこにもいきたくありません。
勇者が魔族の敵なんて、知りません。
魔族が勇者の敵になるなら、私は魔族を滅ぼしても主人様の側にいます。
共に旅を続け、主人様の傍で生きていきたいと強く思ったのです。
主人様が、私のすべてになりました。
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