第46話 決着
玉座に座り、悠然と状況を見つめる。
今、俺は魔王ではなく、勇者としてこの場にいる。
目の前には、ついに決戦の時を迎えた英雄トールの姿があった。
しかし、俺はその姿を見て、思わず眉をひそめた。
トールは頭から足の先まで、完璧にツルツルの肌を露出し、全身の毛を剃り落としている。そして、全裸で体中から眩い光を放っていた。
「おい…なんで全裸なんだよ…」
ツッコミを入れずにはいられなかった。
この真剣な場で、真面目な顔をしているトール。
その体からは、強烈なオーラを纏っているのも事実だった。
「勇者ザイール、いや、魔王ザイール! 玉座に座って僕を待っているということはそういうことなんだな」
「どう思おうといいさ。俺はお前と決着をつける」
トールが鋭い目つきで叫び、拳を構える。その姿勢は完全に戦士のそれであり、全裸であることを忘れさせるほどの迫力を持っていた。
お前は補助魔導士だったことを忘れているんじゃないか?
「まあ…避けられない戦いだな」
俺は聖剣を引き抜き、玉座からゆっくりと立ち上がった。
ルナやレイナ、そして魔王城で仕えてくれているメイドたちが後ろで静かに見守っている。彼女たちの視線は真剣で、俺を心から応援してくれているのが伝わってきた。
「行くぞ、ザイール!」
トールが一気に間合いを詰め、拳を放つ。
全身がツルツルになった格闘家が、その拳から光の塊を放って、圧倒的な力を感じさせた。
「こっちもな!」
俺は聖剣を振りかざし、トールの拳に向かって斬り込んだ。
光と光がぶつかり合い、眩いばかりの閃光が辺りを包み込む。
「うおおおおお!」
トールがさらに力を込めて拳を打ち出すが、俺も負けじと聖剣で応戦する。だが、どちらも決定的な一撃を与えることができず、戦いは膠着状態に陥っていた。
その時、背後から声が響いた。
「トール、頑張って!」
かつての仲間たちが声を上げ、トールを応援していた。
彼らの声援はトールに力を与えるようで、その拳にはますます光が増していく。
「トール、負けるな!」
仲間たちの声に応えるように、トールは再び拳を振りかざした。
「くそ…やるな…」
俺はトールの圧倒的な力に驚きつつも、負けるわけにはいかないと決意を新たにする。そして、俺の後ろからも応援の声が上がった。
「ザイール様、負けないで!」
ルナの真剣な声が響く。
「ザイール、私たちがついています!」
レイナの応援が続き、さらにメイドたちも声を上げる。
「「「ザイール様、がんばってください!」」」
その声援を聞いて、俺の中に再び力が湧いてきた。
彼女たちの思いを無駄にするわけにはいかない。
「トール、決着をつけるぞ!」
俺は聖剣を再び振りかざし、全力で斬りかかる。一瞬の沈黙の後、再び激しい戦闘が始まった。
聖剣と拳がぶつかり合い、光の中で俺たちは激しくぶつかり合った。
戦いはどちらにも決定的な勝利をもたらすことなく続いていたが、俺たちの心はお互いの力を認め、そして全力を尽くす覚悟を持っていた。
応援の声が響き渡る中、俺たちは最後の一撃を放つ準備を整えた。
「ザイール…これで終わりだ!」
トールが全身の光を集め、拳に力を込めた。その光はこれまでの戦いの中で最も強烈であり、一瞬の油断が命取りになることは明らかだった。
「来い、トール!」
俺もまた、聖剣に全ての力を込めた。両者の最後の一撃が交錯するその瞬間、運命が決まる。
玉座の前で、全ての者たちが息を呑んで見守る中、最後の光が放たれる。
ぶつかり合いながら少しでも相手の気を逸らすために。
「おいおい、なんでお前は全裸なんだ? キモいぞ」
俺は彼の動きに合わせてかわしながら、突っ込みを入れる。
「これが俺の究極形態だ! 全ての毛を剃り落とし、余計な力を省いたんだ!」
「いや、それ負けるフラグだろ! 防御力どん底だぞ!」
トールは真剣な顔をしているが、その姿はやはり滑稽で、どうしても笑いがこみ上げてくる。だが、笑いながら戦うのは俺の性分じゃない。
「いくぞ、トール!」
俺は聖剣を振りかざし、トールの拳と激しくぶつかり合う。
光が迸り、玉座の間全体がまるで爆発したかのように光り輝いた。だが、トールはその瞬間、ふっと力を失ったように動きが鈍くなった。
「なんだ…? まさか、全裸だから寒くなったのか?」
そう、玉座の間は決して暖かい場所ではない。しかも全裸で戦い続けているトールは、どう見ても寒さに耐えられなくなったようだった。
「くっ、しまった…寒さが…」
トールが震えながら言葉を紡ぐ。
魔王に視線を向ければ、どうやら彼女が俺を助力していたようだ。
くくく、まさか温度を操る魔王が全裸の英雄を倒すために助力してくれるとはな。
「全裸で戦うからだよ!」
俺はトールの隙を突いて、一気に攻撃を畳みかける。
聖剣が英雄の拳を打ち砕き、最後の一撃を放つ準備が整った。
「これで終わりだ、トール!」
俺の声と共に、光が一閃し、トールは力尽きて倒れ込んだ。
全裸で挑んだ結果、寒さに耐えきれず敗北を喫した彼の姿は、どこか哀れで滑稽だった。
「まったく、馬鹿なやつだ…」
俺はトールを見下ろしながら、勝利を噛み締めていた。
その時、玉座の間に一人の女性が歩み寄ってきた。
それは王女セリーヌだった。彼女は静かに、しかし確固たる決意を秘めた眼差しで俺を見つめ、ひざまずいた。
「ザイール様…全てをあなたに捧げます。どうか、この世界をお導きください」
「おいおい、何言ってんだ?」
俺は驚きながら彼女を見下ろす。今まで俺に対して敵意しか持っていなかった王女が、今度は俺にすがってくるとは思いもしなかった。
「私はあなたを信じています。人類も、魔族も、あなたが新たな道を切り開いてくださることを…」
セリーヌの真剣な表情に、俺は少しの間言葉を失った。
そこへ魔王もセリーヌの横に並んで膝を折る。
「お前が作る世界なら私も見てみたい。従おう勇者ザイールに」
王国の王女と、魔王が俺に膝を折って頭を下げる。
そんな彼女たちに俺はふっと笑みを浮かべた。
「そうか…なら、俺が新しい道を切り開いてやるよ。勇者としてじゃなくて、魔王としてな」
俺は玉座に深く腰掛け、笑みを浮かべながら宣言した。
「人類も魔族も、俺が全部支配してやるさ。俺が魔王になって、この世界を思う存分楽しんでやる!」
その宣言に、王女セリーヌはさらに深く頭を下げた。
「ザイール様…全てをあなたに捧げます。どうか、この世界をお導きください」
俺の宣言とセリーヌの忠誠が響く中、玉座の間は新たな時代の幕開けを告げる場所となった。
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