第36話

 オオカミのモンスターはシルクに攻撃を受けて俺に追撃を行なえる状況ではなかったようだ。


 今も投擲されたナイフがオオカミのモンスターの目に突き刺さり、オオカミのモンスターは痛みに唸り声を出しながら目から血を流してシルクを睨み付けている。


 あれだともう俺がいくらオオカミのモンスターの注意を引くような行動をしてもこちらに見向きもしないでシルクを狙うだろう。


 だが俺もこのままシルクとオオカミのモンスターとの戦いを観戦しているだけではない。


 すぐに身体の痛みを取るために傷も体力もHPも回復させるポーションを飲み干して、俺もシルクとオオカミのモンスターとの戦いに参戦する。


 オオカミのモンスターはシルクを執拗に狙っているお陰で、俺は無防備なところを攻撃して鉄の剣で切り裂いた。


 切り裂いた影響でオオカミのモンスターの血が飛び散り、俺の身体にも降り掛かる。


 そこでようやくオオカミのモンスターの意識もシルクだけでなく俺にも向くのだが、その隙をすかさずシルクが突いた。


 距離を詰めたシルクが短剣をオオカミのモンスターの鼻頭に突き刺したのだ。


 もちろんすぐにシルクは短剣を引き抜きながら後方に下がるのだが、オオカミのモンスターはあまりの痛みに突き刺された鼻を押さえるように膝を付いた。


 ここだ。俺はそう思い鉄の剣を下がったオオカミのモンスターの首筋を狙って振るう。


 深く切り裂けたのか鉄の剣を握っている手のひらからザクリと切り裂く感覚がした。


 しかもオオカミのモンスターの血管を傷付けたのか、俺に大量の血液が土砂降りの雨のように降り掛かる。


 全身から血の臭いが鼻をつく中で俺はすぐに下がろうとした。


 だが、その前にオオカミのモンスターがふらつきながらも首を横に振るって頭部を俺に叩き付けてきた。


 大きな身体に見合った大きさのオオカミのモンスターの頭部をなんとか鉄の盾で防いだが、踏ん張りも効かない状態で尚且つ最後の攻撃だったからか、俺は鉄の剣を手放しながらかなりの距離を吹き飛ぶ羽目になる。


 「がはっ!?」


 「ご主人様!?!?」


 背中から地面に叩き付けられた俺は遠くでシルクの声が聞こえたような気がする中で地面を転がりながらなんとか止まろうとする。


 鉄の盾を使ってなんとか転がっていくのを止めるが、先ほどから身体のあちらこちらを打ち付けて呼吸もままならない状態だ。


 こひゅーこひゅーと変な呼吸をしながら意識朦朧な状態でもこのままだと不味いと意識しながらも、俺はインベントリを開いてポーションを取り出そうと試みる。


 けれど、身体も意識もままならない状態のせいでインベントリからポーションを取り出せなかった。


 「ご主人様!今からポーションを飲ませます!!」


 視界が滲んでいる俺の隣でシルクと思わしきシルエットが浮かんでいる。


 そしてシルクはポーションを飲ませようとしているのだろう。俺の口元にポーション瓶があてがわれているが、国の中に流し込まれたポーションを俺は上手く飲めなかった。


 「ごほっ!ごほっ!」


 ポーションを飲むことが出来ずに咳き込むと同時に口の中からポーションが吐き出される。


 「仕方ありません。」


 口元からポーション瓶が無くなると、滲む視界に映るシルクがポーションを口に含む様子が伺えた。


 そして俺の唇にシルクは唇を重ねると、そのまま口の中に舌を入れて俺の口内にポーションを流して込んでいく。


 最初は上手く飲み干せなかったポーションもシルクが無理矢理に飲ませていくことで、俺の身体の傷は少し治ってHPが回復していった。


 ポーションを飲んだことで意識も回復したが、未だに俺はシルクからポーションを口移しで飲まされている。


 「シルク、もう良いから。」


 「いえ、ご主人様。しっかり回復しなければいけません!!」


 それから俺もシルクも傷を完全に癒やしHPも満タンまで回復するまでの間、お互いにポーションを口移しで飲むことになった。

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