第46話

 すぐに俺はその場から飛び退いて後退したのだが、目の前でガチンッと歯と歯が噛み合った音が響いてゾクっとする。


 あの場所から飛び退くのが遅かった場合、俺はあの嚙み千切られそうなアクナクの一撃を受けることになっただろう。


 内心でホッとしながらも俺は花部分が下がっていることにチャンスだとも思い、花部分に向けてフェアリーソードを振るって花弁を切り裂いた。


 花弁部分は厚みのある鋭い葉っぱよりもさっくりと切り裂き、そのまま追撃でもう一撃を与えようとフェアリーソードを振るう前に下がった花部分をアクナクが上げようとしてくるので下がる事を優先する。


 そんな風に俺が戦っている間にシルクは意識が俺に向いたアクナクの隙を付いて【ムーンスラッシュ】を月狼牙を振るって発動していた。


 月狼牙で行なえる通常攻撃よりも威力の高い月狼牙専用の武技の一撃がアクナクの太く硬い茎を切り裂いていく。


 半ばまで【ムーンスラッシュ】で切り裂かれたアクナクはピンッと茎を伸ばすと、今も残っている蔓の鞭はすべてシルクを狙って攻撃を行ない始めた。


 これは俺が脅威ではないとアクナクが思っている証拠でもあるのだろう。


 でも、これは俺が攻撃を行なえるチャンスだ。俺はまた弾かれることがあることを意識してフェアリーソードを振るって攻撃を行なった。


 意識を変えて振るった斬撃に寄って分厚い葉っぱの茎と繋がる根本部分を切り裂いていく。


 ポトンッと地面に分厚い葉っぱが落下していく。続けてすぐに渾身の力を込めてフェアリーソードでアクナクの茎を切り裂いた。


 ザクッと手から切り裂く感覚を感じながら、そのままフェアリーソードを振り抜いて切り裂いてしまう。


 俺の一撃では半ばまで切り裂いたシルクの一撃にはほど遠いようだ。


 それでもシルクばかりをアクナクは狙うのは不味いと気が付いて俺の方にも1本だけだが蔓の鞭が向かって来ていた。


 だが、もう蔓の鞭の一本程度なら簡単に余裕を持って回避することが出来るし、反撃も余裕で行ない蔓の鞭が宙を舞う。


 ピチピチと跳ねる切り裂かれた蔓の鞭を無視してフェアリーソードを振るってアクナクの茎や葉っぱを切り裂いていく。


 このままフェアリーソードの斬撃だけだと倒せない。シルクが手伝ってくれないかと、シルクの様子を見てみれば迫っていた蔓の鞭をすべて切り裂き終わっているところだった。


 このまま時間経過で蔓の鞭も元の数に戻るだろうが、今のうちにアクナクを倒してしまうべきだろう。


 それはシルクも同じなのか、シルクもアクナクの茎を狙って【ムーンスラッシュ】を含めて攻撃を苛烈に行なっていく。


 それから5分ほどで妖精花もどきのネームドモンスターアクナクは倒れたのだった。


 この5分の間に2回も蔓の鞭を再生させて襲って来たのには若干苦労したが、慣れもあって蔓の鞭は1分も掛からずに両断しアクナクのHPを削り切れたのだ。


 「ああ、疲れた。」


 「お疲れ様です、ご主人様。」


 「ありがとう。」


 シルクがスカートの中から取り出したポーションを受け取ってHPと体力を回復する。


 今回はアクナクからの攻撃を受けない様にして戦っていたからダメージはそれほど受けていなかったが、それでも精神的には疲労した。


 そんな状態で俺とシルクは分かれて行動する。俺はアクナクのドロップアイテムの確認を、シルクは宝箱の確認に動いていく。


 アクナクが先ほどまでいた場所の茎の根元にカードはドロップしていた。落ちているカードを拾ってどんなアイテムがドロップしたのかを確認する。


 「あ、スキルオーブだ!!」


 アクナクがドロップしたカードはスキルオーブだった。そのスキルは巨大化のスキルオーブ。あのアクナクは妖精花にしては大きかった個体だから、この巨大化のスキルオーブがドロップしたのかも知れない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る