第32話

 俺は決めていた作戦通りに傷痕のあるウルフに何かしらをする前に、他のウルフたちを倒すために動き出した。


 やはり危険度的には俺よりもシルクの方が危険なのだろう。先ほどから俺よりも意識はシルクに向かっている。


 それでも俺が鉄の盾を構えてウルフたちの邪魔をしているのが気に入らないようだった。


 傷痕のあるウルフが「ワァオオン!!!」と吠えると、傷痕のあるウルフ以外のウルフたちが俺に一斉に向かって攻撃を行なって来たのだ。


 俺を囲むようにして行なわれる攻撃に俺は鉄の盾での防御や受け流し、鉄の剣を振るった攻撃や牽制でウルフたちの猛攻を何とか耐える。


 そんな時に俺を守るために動いてくれるシルクは今も傷痕のあるウルフの対処をするのに忙しくて俺の元まで来るのに時間が掛かるだろう。


 だからこそ俺はとりかこんで攻撃して来るウルフを1匹でも減らそうと攻撃を俺自身から仕掛けることにした。


 3匹同時に攻撃して来たウルフの攻撃を鉄の盾で受け流し、受け流したウルフを攻撃して来た1匹のウルフにぶつけて、残り1匹のウルフに蹴りを喰らわせる。


 そしてタイミングをずらして攻撃して来たウルフに向かって鉄の剣を振るって致命傷になるだろう傷を負わせた。


 それでもHPの問題ですぐには死なないだろう。でも、あの傷ならばウルフが生きていられるのも残り数秒だろう。


 俺は瀕死のウルフにトドメを刺そうと動くと、周りを囲んで攻撃して来ていたウルフの動きが瀕死のウルフを守るような行動をし始めたのだ。


 こんな行動をしたのは初めてのことだ。もしかしたらあの傷痕のウルフがいることで起こっている現象なのかも知れない。


 だが、この行動は明らかに俺に隙を晒しているのと同じことだ。瀕死のウルフを狙うと見せかけて他のウルフにダメージをどんどん与えていく。


 「これで最後だ!!」


 傷だらけのウルフの死骸が俺の周りに転がっていた。これで俺が戦っていたウルフは0になり、残りは傷痕のあるウルフだけになった。


 シルクが結果的に押さえ込む形になった傷痕のウルフがどうなったのかと言えば、シルクとの一対一になったせいなのだろう。


 既にシルクの攻撃に晒されて重傷を傷痕のウルフは負っていた。このままシルクだけでも倒せるのだろうが、時間をかけることで周りからウルフが集まって来る前に仕留めたいところだ。


 俺も傷痕のウルフとの戦闘に参加すると二対一になったからか、傷痕のウルフの動きが慎重になった気がする。


 このまま慎重になって動けないのなら流失する血液の影響で傷痕のウルフは死ぬだろう。


 「シルク、ナイフは?」


 「まだ1本だけ残っています。」


 「それなら俺が隙を作るからあとは頼んだ。」


 鉄の盾を構えるとそのまま構えたままで傷痕のウルフへと向かって突撃した。


 真っ直ぐに突き進む俺に傷痕のウルフは横へと飛んで突進を回避することには成功したのだが、その後に行なわれたシルクの投擲用ナイフが傷痕のウルフの前足に深々と突き刺さる。


 これで傷痕のウルフの機動力が削がれた。これなら先ほどのような飛び退いての回避は難しくなるはずだ。


 俺はさっきと同じ通りに傷痕のウルフへと鉄の盾を構えながら突撃する。


 傷痕のウルフは今度こそ俺の盾での突撃を躱せずに草原を転がっていくことになった。


 転がって立ち上がろうとする傷痕のウルフにシルクが鉄の短剣を頭蓋骨を貫通するほど力強く突き刺すことで戦闘は終了する。


 そしてあの傷痕のウルフの正体が分かった。どうやら傷痕のウルフはネームドモンスターだったようだ。


 初めてのネームドモンスターを倒したことに喜びたいところだが、俺もシルクも身体のあちらこちらに傷がありHPも減っている。


 ドロップしたカードの回収を行ないながら俺たちは魔法薬を使ってHPと負傷を回復していった。

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