第39話「巨大迷宮『栄華の夢魔』 5」
カンナ:初戦闘に囮にされたり、前線に立たされたりされた。
アオ:ずっと休んでた人。がんばれー。
ネネ:ようやく50階層の攻略が終わった。ここからが本番。
ヴァン:せっかくの戦闘シーン全部飛ばされた。不憫な男。
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前回のあらすじ。大人の事情で50階層攻略完了まですっ飛ばされた。
「さーてアオ、約束通り50階層まで来たわ。あなたの秘密をここで話してもらいましょう」
アオの作ってくれた、というよりもってきてくれた携帯食も食べ終わりさて寝ようとしていたわたし達。が、そこで問屋を簡単に降ろさないと言わんばかりにネネが立ち上がった。大変元気なお嬢様である。
「アオの秘密ぅ? ってなんだっけ」
「200年前の空白の歴史に、アオが関わっているかもしれない。ということをお嬢様は知りたいそうなのです」
「ほう、なるほど」
ぶっちゃけわたしはそんなのにかけらほどの興味もわかない。というか寝たい。せっかく水魔法が使えるアオに身体を綺麗にしてもらって寝れる準備したのに、まだ起きるの? 修学旅行に来た学生みたいに。じゃあ恋バナでもする?
「しないわよ。そもそも主であるあなたがそんな消極的じゃ困るのだけど? 少しはやる気を出しなさい」
「やる気ならさっきまでの戦いで十分出したよ。だってだってもう眠いんだもん〜。ネネはめんどくさいことにこだわり過ぎだってぇ〜」
「だってよ、どーするネネオジョウサマ。プクク」
嫌がるわたしに乗っかるアオの煽り。二方からギャイギャイと責められるネネは黙ってわたし達の話を聞いて……。
「……ふふ」
拳を握りしめて笑った。
「――で、200年前に何があったのかしら。答えてくれるわよね、アオ?」
「もちろんですともお嬢様。お答えさせていただきます」
「アオのせいだ。アオが煽るから。頭痛いぃ」
思い切り殴られた。鉄拳だった鉄拳。拳に鉄の板入ってたよ間違いなく。鬼だ。アオ以上の鬼だ。
「なんか言ったかしら?」
「はっ、何でもございませんオジョウサマ!!」
ぎゅっと握りこぶしを作るネネにわたしは即座に白旗を上げる。これ以上その鉄拳でげんこつされたらわたしこのダンジョン出ることなく死んでしまいます。死因が魔物との戦闘じゃなくて、仲間の鉄拳制裁によるげんこつで死ぬとか洒落になりません。
「ま、話すけど。曖昧な部分があるからそれだけは覚悟しとけよ? なんせ200年も前の話だ」
「いいわ。話しなさい」
「そうか、それじゃあ一つ話そうかな」
タンコブをさすりながらアオが座り直す。焚き火が燃え上がる中、アオの思い出話はその一言で始まった。
「200年前、この国はある国を滅ぼしたことで誕生した」
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その国があったのは、今の時代から約200年前までのこと。その国の名は「ブレンスノーブル」。豊かな大地と、清らかな水。そして賑い活気する城下町。領土は広く、人々は真面目で実直なものが多い。国を揺るがすほどの事件が起きるわけでもなく、隣国との関係も良好。災害も起きづらく、軍事的脅威も政治的脅威もない。まさに祝福された平和な国だった。
「地上の楽園とすら言われた国は、200年前のある事件で滅んだ。それも、たった1日でな」
「い、1日!?」
「……ブレンスノーブル。聞いたことすら無いわね」
それはそうだ、だってそこら辺の歴史はすべて消えているからな。少なくともこの国での200年前は空白の歴史だ。
「つまり、誰かがブレンスノーブルという国の存在を消したってこと?」
「その通り。そしてブレンスノーブルという国の存在を消したのは誰でもない、200年前の当時のこの国の王だ」
まさかあいつが起こした国盗りが成功し、ここまで歴史を紡いできたとは。国が続くとは思ってもいなかったが、政治力だけは確かだったらしい。
「国王……初代国王といえば、女王陛下でしたね」
「そこは伝わってんのか」
「うん、確かとある邪悪な蛮族から国を救ったって言われているよ」
「この国の歴史で学ぶ、基礎的なことですわ」
蛮族から国を救った女傑って言ったところか。どうにもあの女が好みそうなおとぎ話だ。いや、あの女からすれば私達は蛮族以外の何物でもないのだろう。あれは人の話を聞くことがなかったからな。
「でも、なんでブレンスノーブルは滅びることになったの? 理由は?」
カンナの質問に、私は一度思考を止める。滅びた、いや滅ぼした理由か、これはどう説明しようか。
「そうだな。例えばカンナ、もしお前が平和な国で何不自由もなく生きていたとしよう」
「え、うん」
「そんな恵まれた状況下で、それでもお前は国を盗ったとしたら、お前はその状況で何を望んでいたと思う?」
「え、ええ……? そんな状況で国を滅ぼす理由なんて分かんないんだけど。と言うか例え話でもないんだけど!」
だろうな、お前にはわからんだろうよ。だってアホの子だから。……本当に幸せに生きて、まっすぐに生きているから。だからきっとあの女の気持なんてお前には理解できる訳が無い。
「……人の欲望は際限ない。それがたとえ、どれほどの地位と幸運に恵まれている人間だとしてでもだ」
聖人君主ですら欲望には勝てない。勝つことはない。なぜならそれが人間の持つ罪であり、今まで発展を繰り返してきた理由なのだから。
「カンナよく覚えておけ。初代女王がブレンスノーブルを盗ったことに真っ当な理由なんて無い。お前らがこの国の歴史を学ぶとき、何を言われたのか知らないがそれが全てとは思わないことだ」
ブレンスノーブルは豊かな国だった。それは確かだ。でも、強い光が王家にあるとしたら、闇は何処かに生まれる。光が強ければ強いほど、影は色の濃さを増す。隣国に侵略されることも、飢饉が起きるわけでもない。悪意も危機もない平和な日々からいつしか生まれる慢心は、いづれ生まれる闇に食い殺される隙を与えるだろう。
「あいつが起こした国盗りに正義なんて無い。あれはすべてアイツの欲望が引き起こしたことに過ぎないからな」
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