第44話「その男、公爵家当主」
カンナ:公爵家の権力を目の当たりにした。もはや王族でしょこれ。
アオ:公爵家の力に普通に引いた。そりゃ王族も警戒するわな。
ネネ:誕生日にもらったプレゼントは南の領地。スケールの違いを久々に見せつけられた。
ヴァン:幼い頃から見ているから感覚狂ってる人。誕生日プレゼントでもらったのは馬。
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前回のあらすじ。公爵家はブルジョワでリッチでセレブだった。
公爵家の力を改めて知ったわたし達はネネの家についた。もう本当に広い。家につくだけで1キロぐらいは歩いたんだけど。
「さて、これでいいか」
「しっかり眠っていますわね。ここまで騒がしくして起きないなんて」
「ダンジョンに居たときは仮死状態に近いからな。今は体を回復してんだろ。そのうち起きる」
客室の寝室に王子様を寝かせながら話す二人。なんでもないようにそのままソファとかに座るけど、なんでアオは普通にくつろげるの? さっきまで一緒にビビってたじゃんこの裏切り者!
「このソファ座り心地いいな」
「客室ですから生半可なものは置けません。それでも本邸に比べればグレードはかなり下ですよ」
「ヒッ、こんな芸術品みたいな装飾がいっぱいついたこのソファが低いって……本邸パないって」
あと出された紅茶めちゃくちゃいい匂いするしすっごい美味しい。こう、お金をかけている味がした。多分わたしじゃ絶対に買えないと思う。それとカップも凄い。凄いなんか……お金持ち! って感じがする。嫌味なタイプじゃなくて、高価なものが当たり前みたいな……。ここまで来ると尊敬しか無いです。
「持つ手が震えるぅ……」
「それでアオ、そろそろいいんじゃないかしら。なぜあの王子を連れてきたのかしら?」
「!」
優雅に紅茶を飲んでいたネネは、この部屋の主か? と聞きたくなるほど不遜な態度で座るアオに疑問を投げかけた。
「すでに滅んだ国の王子を連れ出して……アオは何を企んでいる?」
「……企み、ねぇ。じゃあもし」
にやりと笑いながらスッとアオの目が鋭くなる。その目にネネの体が強張るのを感じた。というより、わたしも強張った。なにか、嫌な予感がして。
「あの王子を使ってこの国滅ぼすって言ったら、どうする?」
そしてそれは当たってしまったんだ。
****
「なに、いって……」
紅茶を飲んだばかりなのにのどが渇いて仕方ない。アオは確かに、この国を滅ぼすと口にした。そしてそれが、嘘のように見えなかったことも確かだった。
「どういうつもり」
「どういうも何も、私は元からこの国が嫌いなんだよ。なんせ恨みしか無い。特に初代の女王とやらにな。だからこの王子を滅んだ国の正当な王太子であることにして、反乱起こしてぇヤツらの神輿として担いで滅ぼす……って言ったらどうする」
「っ……」
この時わたしは思い出した。アオと一番最初にあったときのことを。
『――貴様もあの者たちと同じような気配と魔力を感じる。非常に薄いがな。となれば、私が貴様を生かしておく義理もない。しかも貴様は光魔法の使い手、非常に厄介な存在だ。ここで』
そして殺意とともに向けてきた水刃。圧倒的な実力と恐怖で怯えていたことを思い出した。気配と魔力……それってつまり初代の女王様の血が、わたしにも僅かに流れていたからってこと?
「うまくいくと思って?」
「行くかもしれんだろ。それに私の実力なら、お前が止める前に国を滅ぼせると思うんだが、どう思う?」
「殺す」
「!」
ピリつく殺気にわたしは動けなくなる。こんなネネは初めて見た。それはまさに国を守護する影の姿そのもので、何度も修羅場をくぐり抜けてきた強者の姿だった。
って、言ってる場合じゃない! この二人を止めないと!
「ま、ふたりとも待って――」
「一体何の騒ぎだ」
まず初めにわかったのは、わたしの後ろにいつの間にか男の人が立っていたという事実。次にわかったのはその人から溢れんばかりの威厳と冷徹さが、顔全面に出ていたということ。
そして最後にわかったのは、
「状況を説明しなさい。ネネ」
この人が、めちゃくちゃ強い人だということだった。
****
突然現れた黒髪の男の人に、この場に居た全員が動きを止める。もしこの国に来たのが初めての旅人さんならまず間違いなく勘違いするだろう。この人がこの国の王だと。それぐらいの威圧感があった。
「ごきげんようお父様。珍しいですね、ゴールデン家のご当主様がこんなところにまで来るとは」
この状況でいち早く状況を察せたのはネネだった。すぐに立ち上がり完璧な笑顔と所作で挨拶をするネネに、その人の正体を察する。この人が、この国宰相でゴールデン家の当主……。めちゃくちゃ渋いロマンスグレーだっ!!
「挨拶はいい。それよりもなぜ、この場にこれほど人がいる? それに」
ちらりとネネのお父さんはアオを見ては眉をひそめる。絶対に友好的ではないその表情にアオはにこりと笑った。
「はじめまして、ご機嫌麗しゅうございます。ゴールデン家当主様。私とそこにいるカンナ・リーブルはご当主様の姫君であるネネさんと友人なのです。どうぞよろしくお願いしますね」
「……ほう、友人だと?」
アオをまじまじと見ていた、というより観察していたネネのお父さんはわたしには一瞥もよこすことなくひと通り見た後、めちゃくちゃ悪そうな顔で笑った。
「ええ、なにかおかしな点でも?」
「嗚呼。部屋の外からでも漏れるような殺気をぶつけ合って友人とは、面白い関係だと思っただけだ」
「ィっ!」
バレてた〜〜! そりゃバレるよねだって国の番人その人ですもんね〜! というかやっぱりネネのお父さんだわこの人。こんな悪い顔で笑うのなんてネネのお父さん以外ありえな……あ、やばいネネがこっちを見ている。大変清らかで美しい笑みだと思いマスッ!!
「ただのじゃれ合いですよ。遊びです遊び」
いや殺気をぶつけ合う遊びって何? そんな遊びがあって堪るか。
「……」
「……」
アオとこの国で2番目に偉い人が睨み合う。決して目をそらさない二人だったが、結局折れたのは向こうだった。
「……まァいいだろう。ネネ、お客をもてなすように」
「はいお父様」
「……ではな」
ちらりとわたしとアオを見た後、何しに来たのかわからないけどゴールデン家のご当主様はそのまま部屋を出ていった。しばらく黙っていたアオとネネだったが、気配が完全になくなったとわかった瞬間同時にため息を付いた。
「はぁああああああ、全く。とんだ親父だな、お前の父親」
「ハァ、本当ね。気配が全く無かったわ。ほんととんでもない曲者よ」
「あれを倒して当主になるんだろ。がんば」
「安心なさい。その時は存分に巻き込んであげる」
嵐が過ぎ去った後のような静けさの後に、アオとネネが顔を合わせて笑っている。どうやらネネパパの登場は二人の喧嘩というか言い争いを止めるのに一役買ったようだった。
「はぁ、良かった……」
取り敢えず、よくある仲違いによる悲しき戦いが起きることはないようだ。
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