第45話「その男、亡国の王子」
カンナ:最近ドキドキすることが多い。でもなんでだろう……? 全く甘くないのは……。原因は全て鬼悪魔のせい。
アオ:国なんて滅ぼして乗っ取るとかだるい。全部冗談。(悪質)
ネネ:Q.父親についてどう思っていますか?A,さっさと隠居して当主の座をよこせ。
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前回のあらすじ。ネネパパはロマンスグレーだった。
ネネパパの襲来により、ネネとアオの喧嘩は一旦収まりを見せた。喧嘩というか殺し合いっていうか、とにかく終わってよかったよ。でも一応ネネは確認でもするようにアオに聞いた。国を滅ぼす気はあるのかと。
「え? 結局国を滅ぼすかって? あんなもん冗談に決まってるだろ。めんどくさい」
ヌボーっとした顔で平然と言い返すアオにネネのコメカミに青筋がたつ。
「なんだコイツムカつくな」
「ネネ落ち着いて!!」
キャラ崩壊しちゃってるから! お嬢様キャラのネネが言っちゃいけない言葉使ったらだめだって!
「そもそも国を滅ぼしたところで気が晴れるようなもんでもないし。今の奴ら……王族含めてもう関係のない話だしな。やり返したところで虚しいだけだろ」
「……」
わたしはアオのその言葉を聞いて、なんとも言えない気持ちになってしまった。表現のしづらい、ウネっとした気持ち悪さがある。アオがこの国を滅ぼす気がないと聞いて安堵すべきなのに、どうしてわたしはこんなにも嫌な気持ちになっているんだろう。
「ではなぜ、国の歴史を教え、王子を助けたの?」
「歴史についてはお前が聞きたかったんじゃねぇか。アレだけ詰めといてよく言うぜ」
いやあの、やれやれだぜって言わんばかりに肩をすくめて首振っているけどわたし嫌がったよね? わたしに関してだけはなぜか無理やり教えてきたじゃん。何被害者みたいな顔してるんだよ。
「それにそこの王子を助けた理由はそんな大したもんじゃない。知り合いがずっと閉じ込められているのも後味悪いだろ? ……国を滅ぼすなんて言っていたが、もう私にはノーブル王家に対して忠義も何も無い。あの時やることはやったしな」
「そもそもあなたに忠義なんて言葉存在しているの?」
「失礼だな。これでも真面目枠で通ってたんだぞ」
いやそれは嘘でしょ。こんなチャランポランのくせに。
「……まぁいいわ。そこ含めて、アオの知り合いとやらに聞こうじゃない」
スッとネネの顔が悪役も真っ青なわっるい顔を浮かべている。うわぁ、清楚系が型なしだなぁ。って、聞くって誰に?
「さっさと出てきなさい。そこにいるのはわかっているわよ」
「…………」
「っ! 貴方は!」
部屋の物陰から出てきた人物。白髪に褐色の肌。ここらではあまり見ない特徴を持つその人は間違いなく今の話の主役。
「ノーブル王族の、王子様……」
見たこともないほどの美貌を持つ絶世の美青年は、まっすぐアオを見つめていた。その色に、悲しみを宿して。
****
「クロード、なのか?」
クロードって確か、アオの家名だったはずだ。王子とアオの関係。互いを知り名前を知りあっている。それも王族とだ。アオのや王子様の口ぶりから察するに、アオは相当王子の近くにいた人物として考えておかしくないだろう。
「お久しゅうございます、殿下」
「お前……どうし」
「どうして、私が生き残っているのか。そうお聞きしたいのですね」
その時のアオは見たこともないほどの無表情を浮かべ、まるで騎士のように王子様と接する。それは知り合いと言っていた人物との関係をあらわにした。決して友好的とは言えないだろう。それでも私達を使ってまでもダンジョンからこの王子様を助けた。……アオの考えが読めない。本当に何を考えているのかしら。
「――」
そうそう、わからないと言えば……。
「ゥハァ……ッ……フホォオオ……ぎ、銀髪褐色肌の美青年ッホオオオオオオ」
「何この化け物、怖い」
後ろで息を荒くしながらボソボソとなにかを言っているカンナ……いや化け物は決して私の前から出ることなく背中に張り付いていた。怖い。非常に恐怖を感じる。って、またなにか言っているような……。
「え? 何よ……。うんうん、ええ? タイプどストライクすぎてやばい? 見ているだけで動悸が? あの悲しげにたれた眉が性癖を壊す?」
いや、知らないわよ。
「……クロード、あそこに居る娘は大丈夫なのか?」
「殿下目を合わせてはいけません。目を合わせたら一生つきまとってきますよ。アレは特級呪物です」
「そうか、気をつけよう」
「おいこら誰が特級呪物だ」
アオの余計な一言でようやくカンナが正気に戻り、かけたけど王子と目が合いそうになってまた息荒く私の後ろに隠れる。さすが駄目ヒロインね。
「殿下、私が今生きているのは偶然です。ですが結果として、私は人ではなくなりました」
「! それは……っ」
「何が原因でそうなったかは知りませんが、おそらくあの呪いで間違いないでしょう。せめて貴方様だけでもあの呪いの影響を受けず無事であったこと、心より安堵申し上げます」
呪いの影響? それに人でなくなったって、つまりアオは元人であったということ? 今までの話を推測するに、アオは王族とかなり近しい立場にいるということは間違いない。どうして悪魔と王族が近い関係にいたのか、黒い想像をしてしまったけどここで前提は崩れた。アオが元人であり、あの騎士のような立ち居振る舞い。……つまり。
「アオは、元騎士ということなの?」
「……はぁ」
ため息を付くアオは、少しだけ嫌そうな顔をした後に頷いてそれを認めた。
「そうだ、隠していたが私は元人間で、人間時代では近衛騎士だった」
「「近衛騎士!?」」
近衛騎士、ってつまり王族を守護する騎士ということだ。生半可な実力程度じゃ絶対に就くことができないエリート中のエリート騎士。道理で強かったわけか。
「クロード、まさかこの者たちに自分のことを何も語ってないのか?」
「……」
王子の驚いた顔にアオが顔を背ける。秘密主義なアオだけど、これはまだなにかあるな。
「どういうことです?」
「あ、おい。それは良いだろっ」
「ちょっと黙っててアオ。この際全部言ってもらうんだから」
なにか言い出しそうになるアオの口を素早く塞ぐのはばけ、じゃなくてカンナだった。ナイスよカンナ。そのままあのアホ悪魔の口をふさいでてて。
「で、王子様。アオは一体何者なのですか?」
「……クロードは我がノーブル家の近衛騎士騎士団長にして」
嫌がるアオを全員でフル無視。もがく音が僅かに響く中、王子の言葉が部屋全体に響いた。
「ブレンスノーブル最強の女騎士だ」
そう、一言一句。間違いなく私達の耳に響いたのだった。
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