第46話「それは悪魔の後悔 1」

カンナ:アオが女性であることを知って固まる。え? まじで??

アオ:もう、隠すことはなにもない。すべてを話そう。

ネネ:アオが女性であることを知って固まる2。まじ??

ヴァン:女性であることもそうだし、女性にとんでもないこと話(恋バナ)をしたような気がしなくもない。嘘だと言ってくれ……。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 前回のあらすじ。とうとう判明したアオの性別。まさかの女の人。


 わたしの超どタイプ、王子様の言葉がずっと頭の中で反響している。そう、女騎士という言葉が。


「女、騎士?」

「女の、人?」

「女……」


 女って、わたし達と同じ性別って意味だよね? だって女だもんね。女、おんな……アオが。


「「「女ぁああああああああああああああ!?」」」

「……あーあ」


 アオの、ついに知っちゃったかぁみたいな声と顔にそれが事実であることをわたし達は思い知らされた。嘘でしょ、あのアオが女の人ぉおおおお!?


「ホ、ホントなのアオ!? 女の人って、そのイケボで!?」

「まぁ……そうだな」

「あなたその顔と体付きで女性だというの!? 信じられない!!」

「っ……、」

「ああ! ヴァンクーーン!! 気絶しちゃ駄目〜〜〜!!」


 駄目だ、ショックでヴァンくんが遠い彼方に! 駄目よヴァンくんここで死んだら駄目だって!!


「……クロード」

「なんですか」

「お前、秘密主義にもほどがあるぞ」

「……善処します」


 ****


「もう気は済んだか?」

「本当になかった……認めざる終えない……」

「本当にアオって女性だったのね」


 何を確認したのかとかは言わないでおくけど、取り敢えず本当にアオは女の人だった。あんなに筋肉ムキムキなのに……あんなにイケメンなのに……あんなにイケメンボイスなのにッ。


「何もついてなかったッ」

「やめなさいここでそういう事言うのは。本当に見事に何もついてなかったけれども」

「ネネ、お前も何も言えないぞ」


 だから、だからか! わたしがアオのことを男の人だと思って接していた時にアオが微妙な顔をしたのは! ちょこちょこ変な返し方してたのは! そりゃそんな反応になるわ!


「というより半年も一緒にいたのに気づかなかったって、どんだけ鈍感なのよ」

「素晴らしいアホですね」

「カンナだしな。今更だろ」


 何だここには敵しかいないのか?


「というより、話を戻しましょう。衝撃の事実で頭から聞きたいこと全てが抜けてしまったけれども」

「何きりっとしてんだ。1時間ぐらい騒いでいたり人を裸にしたくせに」

「だまらっしゃい。それで王子様」

「どうした?」

「アオが悪魔になった理由も、貴方様がダンジョンの最奥で眠らされたのも、王国が一夜にして滅んだのもなにか理由があるのでしょう?」


 そうだ。アオの性別の件で驚きすぎて忘れちゃったけどアオの隠し事はそれだけじゃない。


「たとえ準備が整っていたとしても、一夜にして国が滅ぶなどまず普通に考えてありえない。それこそアオのような人智を超えた力がないと」

「……たしかにそのとおりだ。たとえ国の中枢を担っていたとは言え、それでも対立した派閥や厳重な警備を抜けて1日で滅ぼす。不可能と言ってもいいだろう」


 それが、ふつうの手段であればの話だが。


「え、じゃあつまりふつうの手段ではない方法で国は滅ぼされたということ?」


 王子様の言葉をそのまま鵜呑みにするというのであれば、わたしが今考えていることなんてみんなわかっているはず。人智を超え、何もかもしがらみを抜けてできた国家転覆。 そんな方法、一体どこに……?


「グリモワール」

「……! グリモワールって、それって!」


 アオを封じていた悪魔の書! 学校の東の塔の地下に隠され、わたしが不注意で封印を壊すまでアオを閉じ込めていた禁書だ!


「グリモワールは召喚者が代償を払うことによってその力を召喚者自身に与えることができる。代償はグリモワール自身が決めるが、気分によってはない場合もある。そしてグリモワールが叶えることができるのは3つまで」


 アオが言うには、その中でも叶えられないのは人を生き返らせること。不老不死にすること。過去を変えることだそうで、それ以外だったら何でも叶える事ができるらしい。なにそれやばすぎ。


「つまりそのグリモワールによって国が滅ぼされたということ?」

「そういうことになるな。グリモワール自身は封じることができない神出鬼没の厄介者だが、誰かを封じているときはその場から動かなくなる。つまりただの本になるわけだ」

「あ、だからあの場所で鎖でグルグルにされて放置されていたのか。アオを封じていたから」

「むしろそのグリモワールの封印が簡単に破られたことのほうが驚きなのだが……」


 そこはほら、アオだから。アオって理不尽なんですよ王子様。


「まァでもそうだな……。殿下もお目覚めになられたし、そろそろ話すとしよう」

「話すって」

「そりゃ決まってる。つまらん私の過去話だ。もう黙っていてもしょうがないだろ? 色々バラされた後なんだし」


 諦めたように笑うアオは、だらんと寛いでいたソファから起き上がり改めて座り直した。その表情には今まで見たこともないほど真剣さが伺える。


「アオ、話す気になったの?」

「まぁな、それにネネがうるさそうだし。この際全部ゲロってやるよ」


 ちょ、そんな言い方したらまたネネと喧嘩になるでしょうが! やめてよここで喧嘩するのはっ。


「うーん少し長い話になるが、まずはそうだな」


 私の幼少期から、話すとしようか。その言葉を皮切りに騒いでいたわたし達は口を閉ざしアオの過去を聞くことになる。

 それはわたしが今まで生きてきて想像することのない、暖かくて優しくて、悲しいお話。


 一人の悪魔の、後悔のお話だった。

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