第18話「その令嬢、策士失格」
カンナ:遊びに行くときは自分で決めない。どこへでもついていきますワン。
アオ:アイディアは出すけど、いろんな手配は他人にやらせる。後はよろしく。
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前回のあらすじ:カンナ、また誘拐されたってよ。アオは激おこぷんぷん丸。
「思った以上に簡単に隙を見せたわね、あの悪魔は」
あの警戒心、そう簡単に解くはずがないと思っていたけども拍子抜けするほど席を外しカンナ・リーブルを明け渡した。何かを企んでいるとも思っていたけれども、その様子もなかった。ただの油断っていったところかしら。
「あの悪魔の力を使えば、私は私の自由を少しだけ手に入れられる。……あの人達は、きっとこんなことで私を認めたりしないだろうけど」
「――失礼いたします、お嬢様」
「ヴァン、あの悪魔の動向は?」
「ターゲットはまっすぐこちらに向かっています。もう間もなく着くことでしょう。如何なさいますか」
闇から出てきた従者、ヴァンに私は一瞥もやることなく考えを巡らす。やはり悪魔、思っていた以上に動きが早いが想定の範囲内。カンナ・リーブルには封魔鋼をつけていない。前回の誘拐では封魔鋼をつけている場合、魔力探知や悪魔の契約紋でも追えないことが分かっていましたからね。置き手紙を置かずとも、きっとすぐに来ていたことでしょう。
「迎え撃つわ。……逆らう気が起きないほど、徹底的に打ちのめして」
「かしこまりました。では、そのように」
「…………」
わかっている。こんなことに、一体どこまで価値があるのか。それでも私は、この方法でしかやり方を教えてもらってない。権力や富ではひれ伏さない相手には、交渉できるほどのカードを持てと言われた。なら多くのカードを用意したうえで、更に絶対的なカードを手に入れる。それがゴールデン家のやり方。
「でも……カンナさん、貴女が悪魔と契約していなかったらきっと……初めての友達になれたのかも知れないですね」
なんて、それらすべてを壊したのは私だというのに。おかしなことを言う自分を嗤う私を慰めるような人はいなかった。
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「うーん……うーん……やめて……アオ、そこの本棚は絶対に見ちゃ……駄目だから……――その本は年齢制限に引っかかるから音読はやめろぉおおおおお”!! はっ!!」
悪夢から飛び起きた私は、眼の前の見たこともない天井を見て少し困惑する。え、これがかの有名な「見たこともない天井だ」というやつなのか? スゴい! でもこれ二度目だから感動薄れるっ!!
「って、もうそろそろ現実逃避もやめるかぁ。うん、誘拐だねこれ」
しかもネネさんが誘拐してくるなんて。理由についてはまぁ、十中八九アオのことだと思う。実際にアオのことを悪魔って呼んでいたし。つまりわたしに近づいた理由は、アオの力が目的か、それともアオを殺しに来たのか。どちらであろうとも、わたしがそれを許すはずがないし、アオは必ずその要求を突っぱねるか倒してしまう。
「わたしは……人質っていうことか」
「その通りですカンナ・リーブル」
「!」
固く冷たい声に顔を上げる。そこにいたのはいつになく剣呑な顔をするネネさんが、見たこともないような服装で現れた。あれって、東方を書いた本で見たことがある。確かニンジャってやつだ。めちゃくちゃかっこいいっ。
「貴女にはこれからあの悪魔が私の要求を飲むためのカードになっていただきます。嗚呼、ご安心ください。貴女に危害を加える気はありませんよ。……大人しくしていれば、ですが」
「ネネさ……っ」
「それでは、悪魔が来るまでしばしお待ち下さい。……そうだ」
冷たく見下ろしたネネさんがわたしの声を無視し部屋を出ようとしたが、何かを思い出したかのように振り返った。
「今度は見張りをつけることはしませんが、逃げるなどと無謀なことを考えないように。……死にたくなければ」
「それって」
「では、失礼します」
扉が閉じられ、一人になった空間。静寂がキンっと耳を刺すような嫌な雰囲気の中で、わたしはさっきの言葉の意味を理解していく。今度はって、ネネさんが言っていた。つまり、前回の誘拐の首謀者はネネさんだったんだ。うわーっ! じゃあ本当にヤバい人だったっていうことじゃん! アオの言う事聞いておけばよかった!
「うーん、でもこのままじゃわたし、結構アオの足を引っ張る形になっているよね? またアホって言われるぅ」
しかも、なんで気づかなったのかよくわからないけどネネさんの魔力量が凄まじかった。わたしの何倍もある魔力量は、前回の誘拐犯のようにいかないことを示唆していた。
「……うん、決めた」
脱走しよう!
****
大きな鳥が空を切るような鋭く大きな音が響く。いつからあるかわからないダンジョン遺跡の周りの危険な森を無視し、空から現れたそれに緊張が走った。
『――おい、来たぞ。さっさとカンナを出せ』
怒りで魔力を溢れさせるアオの冷たい視線がその場にいる全員の動きを鈍くさせる。カンナは忘れているのだ。いつものアオは魔力を漏らすこともせず飄々とした態度で、悪魔としての姿を見たのが初対面の時と一回目の誘拐のみ。それでもアオの本気の怒りは見たことがなかった。
だが、今回は違う。
「それは、貴方の出方次第ですアオ」
『ネネ・ゴールデン……お前、死ぬ覚悟はできているな?』
今回の、カンナの友情を利用し近づいたこと。誘拐を二度も行ったこと。それらすべてがアオの怒りに触れる行為だった。戦闘態勢で現れたネネを睨みアオは刀を手の中に生み出し、ネネの首元にそれを置いた。いつの間に近づいたのか、いつから魔法を使っていたのか。それすらも周囲にはわからせないほどの高度な技術だった。
「死ぬ覚悟? ハッ、面白いことを聞きますね。……――そんなもの、とっくにできている」
『そうか、ならば死ね』
戦いの火蓋は落とされた。
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