第19話「その悪魔、油断する」

カンナ:朝には割と弱い。休みは昼時まで寝ている。

アオ:朝に強い。休みの日でも割と早起き。

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 前回のあらすじ。アオとネネの戦いがついに始まった。


 わかっていた、眼の前の悪魔が「狂乱の悪魔」と呼ばれ封印されるほど恐れられていたことぐらい。だが、私はどうやら認識が甘かったらしい。この悪魔がカンナ・リーブルの前ではあまりにも腑抜けていたから、その実力を見誤った。


死水閃デット・ライン

「クッ!!」


 いつ魔法で作ったかわからない東方の刀という武器。そこから繰り出される水刃の斬撃は、その速さもさることながら威力が桁違いに強すぎる。後ろの建物が野菜を切るかのように切れ、粉々に崩れていった。


「本当に、化け物ですねっあなたは!!」

『その化け物に喧嘩を売ったのは貴様だ、ネネ・ゴールデン』


 強力な大魔法の連発。この悪魔の魔力総量は一体どのくらいなのか、考えたくないわね。分かるのは悪魔は余裕を残し、私は避けていくのに精一杯ということだけよ。攻撃が終わっても隙がない上に、反撃できるほど悠長に待ってくれない。


『遅いな。千先せんせん幽界渡ゆうかいわたり

「無属性魔法ですか。ただでさえ水魔法の対処にも追われているというのに」

『そうか大変だな。あれだったらカンナを連れてくるだけで半殺しで済むぞ。死ぬか病院送りか、どっちか好きな方を選べ』

「ふふ、お断りします」


 随分な余裕ね。でも、その理由だって分かる。今の悪魔に隙はない。圧倒的力とスピード。技の練度なんて数百年修行した仙人のよう。魔法の熟練度が卓越しすぎている。一体何をしたらこうなるのか。


「それでも私が勝つわ」

『随分な余裕だ。今すぐカンナを開放しないなら、テメェの目的を達成する前に死ぬことになるぜ』

「死なないですよ、私もあなたも。私の計画にはあなたの力が必要ですからね」


 短剣を握りしめる。私の手の中にはいつもこの剣があった。何度も何度も人を切り捨て、殺し続けて血を吸ったこの剣が。染み付いて取れない鉄の匂いとともに振り上げた短剣は、悪魔に触れることなく空を切り裂いた。


『遅い』


 その言葉通りだった。遅い、遅すぎる。これではこの悪魔を捕まえることなんてできない。部下ではもっと追えないでしょうね。ひらりと避けては、死の攻撃を降らせるその様子はまさに悪夢そのもの。未だ誰も死んでいないのはきっと、この悪魔が手加減している他ならない。


「それがあなたの油断ですよ、アオ」

『何――っ!?』


 息を詰める悪魔が見たもの。それは空に浮いてポッカリと口を開かせた黒い穴だった。そう、あなたは私には絶対に勝てない。だって私の魔法属性は。


全魔断絶アンチ・マジック


 すべての魔法の天敵、闇属性魔法なのだから。


 ****


「うーん、しかしどうやって脱出しよう……」


 今回は前回の誘拐と状況が違う。何よりも魔法が使えるのがでかい。まぁ、わたしはそんなに魔法の使い方うまくないんだけど。それに部屋の扉だってしまってない。まるで逃げてくださいと言わんばかりの対応だ。


「ふむ……じゃあ逃げようっと」


 そもそもまたアオの足を引っ張るぐらいならちゃっちゃと行動に移したほうがいい。だって今回に限ってはアオだって無傷で済むとは限らないし。罠の可能性が全然あるけども、それを恐れていて最悪の状況になっても嫌だしね。


「うわっ、外暗いなぁ……ここどこだろ」


 嫌だなぁ、わたしおばけって苦手なんだよ。でもわたしが誘拐されたときはお昼で、寝てたとしても2時間ぐらいと考えても明るくておかしくないんだけど……。まさかここ地下とか? じゃあ縛ってないのにも理由はあるのか。


「逃げられないだろうっていう意味で……」


 たしかにわたしは魔法なんてそこまでうまく使えないし、勉強だってできるわけじゃないし、そもそも強くないし。魔法属性が特別だからっていう理由でシーレント学園にいるだけだけども。なんか……ムカつく!!


「魔法は苦手だけど、こんな暗闇を照らすなんて訳ないわ! いでよ! 光球ライト・ボール!」


 そうして出来てきたのは光の玉。本来だったらアオのように攻撃魔法として使用される魔法だけど、わたしの魔法は一味違うのだ。こうして光源として使用することで松明やロウソク代を節約できる! みんなも真似してレッツ電気代節約!


「よーし! 冒険にレッツゴー!」


 暗い廊下を適当に右を選んで進むわたし。足はガクガクして腰は引けているけど大丈夫だ、問題ない。……あれ? 今私フラグ立てたんじゃ……いや、気の所為のはずだ。そうに違いない。


「人生なんとかなる!」

「あ! 脱走してやがる!!」

「……すぅーーーーっ」


 もうほんと、全く締まらないね!


 ****


 走る暗い廊下。もはや光源関係なしに走るので蜘蛛の巣に顔面が引っかかって仕方がない。それでも、それでも! 止まれない理由が、わたしにはある!


「待てや小娘ぇええええ!!!」

「イヤァアアアアアア!! 殺されるぅーーーー!!!」


 そう、後ろにいる男が鬼の形相で追いかけてくるのだ。というかどっかであったことの有りそうな雰囲気の黒尽くめの男だな! これでとまれるのなら止まりたい。でも止まったら絶対に殺される!! いやぁ! 誰かお助けーーー!!!


「いやほんと、ちょっと待て! 早いなこいつ!!」

「フハハハ舐めるな! わたしは学園の雷神と言われた女! 逃げ足だけならピカ一よ!」


 特にこの状況ならわたしが捕まる可能性は低い! このまま逃げ切ってやるぜぇ!!

 この数分後、普通に道に迷って捕まった。

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