第20話「その女、公爵令嬢失格 1」

カンナ:歌は普通にうまいけど、何故か声が死んでいる。

アオ:下手の横好き。若干音程が外れる。

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 前回のあらすじ。ネネの魔法が炸裂、どうなるアオ! 一方カンナは普通に捕まった。


全魔断裂アンチ・マジック

『何――っ!!』


 異質な黒い穴が現れた瞬間、私の手元にあった刀が黒い穴の中に吸い込まれていく。この魔法、まさか闇魔法か! 最悪な魔法属性じゃねぇかっ。


『とんだ隠し玉だな。闇魔法、魔法使い殺しだ』

「奥の手というのは、ここぞというときに使うものですからね。さて、ここからどう動きますか? アオ」

『チッ……』


 魔法属性は基本、火・水・風・土の基本四属性の魔法と、そこから光・闇がある。この2つは特別魔法属性と呼ばれ、魔法の祝福を受けたものとして地位が確立するほど強力な魔法だ。他にあるのが、無属性魔法。こいつはどの魔法属性にも属さないため様々な憶測を呼ぶ異質な魔法として知られている。その中で、無属性魔法と同じぐらい異質な魔法として知られているのが闇魔法だ。


 闇魔法の本質はアンチマジック。魔法という全ての魔法を強制的に消してしまう魔法使い殺しの魔法だ。闇魔法使いと対峙したら、まず間違いなく魔法使いは使い物にならない。そう言われるほど強力なのだ。


『闇魔法使いとあったのは初めてだ。たしかにこんな力、魔法での攻略は基本不可能だろうな』


 でもこっちだって、何も魔法のみを鍛えていたわけじゃない。魔法が使えなくなる場面は色々ある。魔力切れだったり、魔法を使ってはいけないときだってな。

 私は周囲に視線を配らせ、近くにいたネネ・ゴールデンの部下の一人の後ろに回る。クソ、身体強化魔法も若干ラグつくようになっているな。こんなに離れていてもアンチマジックの範囲内ってことかよ。つくづく最悪な魔法属性だ。


『おい、これもらっていくぜ』

「なっ、俺の剣が!!」

「……なるほど、そう来ますか」


 男が持っていたロングソードを奪い、私はなるべくアンチマジックの効果範囲から離れる。流石に身体強化で逃げていると言っても、無理やりアンチマジックが体から魔力を引き剥がすとは思えない。魔力消費は早いが、それも問題ない範囲だ。


「そんなに離れたら、その剣では決して私には届きませんよ」

『そーかい。じゃあこんなのはどうだ?』


 ネネの挑発を躱し、持っていた剣を地面に突き刺す。身体能力で強化された腕力はそのまま岩盤を砕きながら周囲を破壊していった。割れた地面の亀裂がネネの近くまで伸びていく。


「こんなもの、届くわけがない! あなたはこの魔法の前では無力なのですよ!!」

『……』


 知っている。お前が空中に跳んで逃げることだって。この岩盤崩しがうまくいかないことだって。だがな、空中で逃げたらアンタの魔法属性やその技量程度でどうやって次の攻撃を避けるんだ?


『私の狙いは亀裂による攻撃じゃねぇ、この石だよ』

「――まさか!」

土砲撃アース・バレットってね』


 拳よりも少し大きい石を掴み、ネネに向かって全力でぶん投げる。本来のアースバレットよりも速く高威力のそれにネネの腕がかすれた。


「こんなっ、ふざけた攻略で!!」

「これは魔法じゃねぇからな。闇魔法じゃあ、対処不可能だろ」


 闇魔法は魔法全般に圧倒的なアドバンテージを誇る。が、代わりに物理による攻撃を防ぐことは、ある条件を満たさなければ出来ない。そこが闇魔法使いの弱点だ。ただ……。


『なんつー身体能力だよ。お前本当に公爵令嬢か?』

「あら、一芸だけじゃ公爵家の娘は務まらなくてよ」


 私の強化魔法や身体能力には劣るが、それでも圧倒的な身のこなし。どう考えても公爵家の箱入りお嬢様の動きじゃない。幼い頃から何度も鍛えられ、そこらにいる兵士よりも過酷な訓練をしなければこうはならないだろう。


『……お前、そこにいる部下の連携といい誘拐までのスムーズな動きといい。公爵家の娘にしてはどうにもおかしな点が多いな』

「何が言いたいのかしら?」

『闇魔法は、魔法に対して圧倒的なアドバンテージを誇る。そこは有名だ。だが、闇魔法は他の魔法にはない特質がある』

「!」

『闇魔法は遺伝子によって相伝していく』


 そう、親が闇魔法使いならば子供にも同じように相伝していくことがある。その特性故に、闇魔法使いの一族はその魔法属性を維持していくために異常なまでの子どもへの魔法操作技術と、闇魔法の弱点である物理攻撃への対処を叩き込む。その過程で、裏社会に片足突っ込むのはどこの時代でも一緒らしい。


『戦って分かった。お前はこの国にとっての影……暗殺者だな』

「……御名答です。しかし、随分と博識なのですね。悪魔という存在は皆そうなのですか?」

『さぁて、他の悪魔なんぞ知らねぇな。……ただ勉強しろって言ってくるお節介なアホがいただけさ』

「そうですか。随分と愛されていたんですねアオは。……私とは全く違う」


 その言葉を吐いたネネ・ゴールデンは酷く暗い顔をしている。その顔はまるで母親からしっかりとした愛情をもらわずにいた子供が、必死に何かを取り戻そうとしている顔だった。


『お前……』

「公爵家の娘が暗殺者として生きる。そんな家に生まれた子が、普通の思考を持っているとでも?」


 吐き捨てるようにそんな事を言ったネネ・ゴールデンの雰囲気が、少しだけ変わる。何だこいつ。まるで自分だけが不幸の絶頂にいるかのような言い方だな。短剣の振るう速度も上がり、苛立ちをこっちにぶつけてくるようなお粗末で単調な動きに変わっていく。こいつ、まさか。


「私だって……私だって!!」


 そう叫んだ瞬間、アンチマジックを多く展開し始める。アンチマジックは魔力の消費量が半端ない上に、維持が難しい。精神力を多く必要とする。この女意識が混濁してやがるな!? だが、これでは無属性魔法を使ったら一気に魔力を失うっ。しょうがねぇ、魔法無しで戦うか。


『クソガキが、いいぜテメェの今までぐらい聞いてやる。ただし、全部が終わったらな!!』

「うぁああああああああああ!!!!」


 全くこれだから年頃のガキってのは面倒なんだよ。

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