第6話「その悪魔、大人失格」
簡単な、前回のあらすじ〜! 鬼悪魔であるアオが人間に擬態して学園の敷地をふっとばしたよ! 終わり!
「じゃなーーーーーーいぃいい!!!」
「うわ煩さ」
「何してるのなんでやったの何考えてるの!!」
「そんな英語5Wみたいな聞き方するな。3つだけど。オジョウサマ、はしたないですよ」
「そんな取ってつけたような敬語は今すぐやめろ!」
「そもそもこのガキどもが悪いんだろ? 喧嘩を売ったならその後に起こる全ての責任は待たなくちゃな?」
「正論であって正論じゃない。というか大人げない!」
そう学園の敷地がクレーターになったのには原因がある。本当に、あまりにもしょうもない原因が。
****
事件が起きたのは、アオが人間に擬態した直後の1時間目の授業。つまり実践魔法学の攻撃魔法の授業が始まりだった。
「あの……生徒ではない方の受講は校長先生の許可が必要でして」
「私はカンナお嬢様の従者としてこの場におります。それと許可でしたらこちらに。よろしいでしょうか?」
一体いつから校長先生に許可なんてもらってたのか。抜け目のないアオが出す証明書のサイン欄には、確かに校長先生のサインが間違いなくそこにあった。というかなんだろうこの口調。優しげでありながらどこか危険を振りまくその声。絶対に安心できない怪しさっていうのはこういう事を言うのだろう。今見たらアオって割と詐欺師みたいな見た目を。
「おいガキ。なにか言ったか」
「まだ何も言ってません!!」
な、なんて鋭い。もしやエスパー? 鬼悪魔だからそういう能力を持っていてもおかしくない。やばい。じゃあわたしがさっきからアホだの馬鹿だの詐欺師だの怪しいだの言っていたことがバレているんじゃ。
「お前が自分で声に出していってるんだよ。今すぐしばかれるか、授業を真面目に受けるかどっちがいい?」
「マジメニウケマスッ! だからやめてぇーーー!!」
「――おいおい、ここは託児所か? さっきからうるせぇんだよ」
「「うん?」」
わたし達の間に入ってくる男子の声。後ろを見ればそこには赤毛の気の強そうな、いじめっ子みたいな見た目をした子と、その彼の取り巻きみたいなのが立っていた。あっ、今の時代偏見は良くないんだった。ごめんなさい、底意地が悪そうな人とその取り巻きさん達です。
「「「変わってねーよ!!」」」
「ひょえ!!」
「一体我々に何でしょう?」
「なんでしょう? じゃねーんだよ! いきなり俺達の授業に割り込んできやがって! 従者だろうがなんだろうが知らねーけどな……お前、邪魔なんだよ。ここは学生が勉学を励むところだぜ。保護者は引っ込んでな!」
すごい、正直彼の意見のほうが真っ当な気がする。だってアオは普通に部外者だし、暇つぶしでここ来ただけだし。
しかしどうやらアオにとってはそうではないらしい。表情を無くし立ち上がったアオはその高身長を活かして男子生徒を見下ろした。……一瞬、一瞬ではあるけどアオ笑っていらっしゃいませんでしたか?? あ、嫌な予感。
「それは大変申し訳ありませんでした、お坊ちゃま。私は後ろに下がっていますのでどうぞお構いなく」
「はぁ!? 誰がお坊ちゃまだと!!」
「君ですが?」
「この方を誰だと思っているんだ! 子爵家の嫡子コノト・シデアテウーマ様なんだぞ!」
「めちゃくちゃ当て馬みたいな名前だな」
「何だと貴様ぁ!!」
ニコヤカに笑うアオの、絶妙に癪に障る煽り。さすが鬼悪魔、容赦ない。そう思っていた瞬間、コノト・シデアテウーマ君が私を見てニヤリと嗤った。もう嫌な予感が確信に変わったよ。もういやだぁ。
「つか、そんな落ちこぼれに仕えるやつの気が知らねぇな! お前もバカなんか? そんな魔法の属性だけが取り柄の女に従うなんてな!」
「……何だと?」
「だってそうだろう? 光魔法の持ち主だから特待生として選ばれたってのに、本人のスペックは下の下。この学園にふさわしくないアホだろうが! なぁ?」
「ええ、コノト様のおっしゃるとおり」
「こんなアホ女、この由緒正しき学園にふさわしくありません!」
クスクスと嫌なざわめきが起きる。そう、これだ。最近は減ってきたけど、入学当初のときはこういう事がよくあった。それでもわたしが、光魔法を持っているのに座学の成績も悪かったし、魔法だってうまく使えない。だから……これはしょうがない。
「てめぇは馬鹿か。座学の成績が良かろうと、魔法の扱いがどんなによかろうが、どんなことがあろうがてめぇみたいな10と、ほんの数年しか生きてねぇケツの青いガキが人の優劣を決めるんじゃねぇよ。――何様のつもりだ、お前」
しょうがない、そう思っていたわたしの頭をアオが、アオの言葉がぶん殴って覚まさせた。全くいい言葉じゃないのに、わたしの前に立つアオの頼もしさに涙が出そうになる。アオ……っ、わたしのことを庇っ「まぁアホなのは認めるが」一瞬で涙は引っ込んだ。
「なっ……」
「いいぜ? そこまで言うなら証明してやろうか? このアホで坊っちゃんの言うふさわしくないヤツの従者の力と、ふさわしい優等生のボクの力。どっちがいいか」
「えっ。待ってもう嫌な予感しかしないし何をするつもりで」
「いいだろう、お前よりも優れてることを証明してやる……ッ」
「待って話聞いて。お願いだからもう嫌な予感しかしないんだっ」
「吠え面をかくのはいっちょ前だって認めてやるよ、お坊ちゃん」
「何なのわたしもう空気なの? ねぇ」
「貴様みたいな礼儀知らずの庶民程度にコノト様が負けるはずがない!」
「せいぜい吠え面かけ!!」
もはや貶されたわたしそっちのけで騒ぐ四人。この後騒ぎを聞きつけた先生が来てなんとか収まったけど、それでは勝負の炎を消すのには足りなかったらしい。
その結果。
「
その言葉とともに目にも止まらぬスピードで飛んでいったウォーターボールが、的どころか地面をえぐって破壊したのだった。
今日からわたしのクラスでのあだ名は「お嬢」になったとさ。
「もう退学したい……」
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