第29話「その悪魔、先生失格」

カンナ:日記は三日坊主になりやすい。日記ってどうやったら続くん?

アオ:律儀に毎日つける。たまに忘れる。

ネネ:日記はつけるけど重要なことは書かない。情報漏洩を防がなくては。

ヴァン:日記はネネのことでいっぱい。一番下までぎっしりと書かれいている。たまたま日記を拾ったアオに見られてドン引きされた。殺す。

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 前回のあらすじ。アオ、先生デビューした。


「まず、魔法というのについて説明しよう。魔法は奇跡。以上」

「いや待て!! 説明それだけ!?」


 魔法について云々カンヌンって長々しい説明を受けると思ったのに、奇跡ってなんだ奇跡って!?


「というか、他に説明ができないんだ。理由はわかるな、ネネ」

「魔法は神による祝福とも言われているけど、その実態は分かっていないの。いつからあるのかも。そもそも魔法と言われているだけで、その力が本当に魔法というのかすらも分かっていない。けれども、便宜上魔法と呼んだほうがいいと言うだけなのよ」

「そ、そうだったんだ」


 初めて知った。この力がそんなに曖昧なものだったなんて。そんな者をこの世界は自由に使っているなんて、なんか少し怖いな。


「というのを、最初の授業で勉強するはずなんだけど」

「へ!? そ、そうだったの?」

「聞いてなかったようだなこのバカ」


 なんてことだ。わたしが入学当初の授業を聞いていないことがこんなところでバレるなんて。ははは、よし次にいかなきゃね。ね!?


「ま、ネネの言う通り。それが魔法と呼ばれるものの正体。奇跡以上の説明ができないというのが現状だ」


 アオの手から出てくる水の塊。プカプカと光を反射しながら浮くそれは、段々と魚の形となって空中を自由に泳ぎ始めた。相変わらずすごい魔法操作能力。


「さて、そんな奇跡だが基本的に魔法は光、闇、火、風、水、土。そして無属性魔法に分けられるのは流石に知っているな?」

「ええ、勿論」

「属性魔法は個人に宿る魔法であり、血筋に左右されないとされている。が、その例外が闇魔法だ。突発的に宿ることもあるが、基本的には親に闇魔法使いがいるならばその闇魔法は子にも相伝される。だからこそ一概に魔法というのはこうだ、とは説明しづらい部分がある。無属性もよく分かっていないしな」


 説明聞いてる分本当に何も分かっていないんだ。うーむ、やっぱり少しは勉強しとこう。じゃないと怒られそうだし。


「さてここで問題だ。魔法を鍛えるには、同じ魔法属性を使える人間に見てもらったほうが良しとされるその理由は何だ? カンナ」

「え、えっと何だっけ?」

「ネネは」

「魔法属性によって力の相対、魔力の質が違うからよね。だから同じように使える魔法属性を持つ人のほうが教えに適している」

「その通りだ」


 やばいな。そろそろわたしの無能っぷりが全面に出すぎてここから何をしようとも挽回できない気がする。いや、気がするじゃないな、もうなってるわ。手遅れだわ。


「だからお前らの魔法をわたしが全部教えることは出来ない」

「え!? じ、じゃあどうするの?」

「……魔法の全部を教えることは出来ない。特に光と闇はな。難しいところがある。だから私が教えるのは基礎だ」


 アオの口からはっきり無理という言葉出て、わたしは多少なりとも驚いた。アオでも出来ないことがあるのか。でも、それもそうだよね。アオの属性魔法は水と無属性。一方教えるわたしたちは闇と光。後火属性。全然違う属性だ。


「それで、基礎っていうのは」

「さっきまでカンナがやっていた魔力循環と魔力増幅、そして魔力操作の3つだ」

「! 本当に基礎中の基礎じゃない。そんなことで魔法がうまく使えるっていうの?」


 驚いたような顔をしたネネがアオに詰め寄る。どうやらこれで強くなれるわけがない。そう思っているみたいだ。けれども、アオは違うみたいだった。


「私はその基礎を、今の今まで絶えることなく続けてきた」


 滑らかに動く流水と細かに再現された魚が本物そっくりに動く。よく見れば、アオの魔力は水のように動き一切の乱れがない。清流のような魔力操作は、他で見たことがなかった。それが、アオの言葉が真実であるという証明だった。


「!」


 アオが絶えることなくやってきたこと。きっと想像もつかないほどの時間なんだろう。言葉にするのは簡単なアオの時間は、わたしが絶対に体験することのできない、人を超えた時間だった。


「この時代の魔法使い共は、どうにもこの基礎を疎かにしている。結果、低い魔法練度で止まったままだ。――私の言ったことを素直にやるならば、必ず強くなれる。必ずな」


 アオの真っ直ぐな言葉に、一片の嘘もなかった。アオの強さがその基礎にあるならば、きっと強くなれるし魔法の使い方がうまくなる。それを言葉でわからせた。


「……わかった、信用するわ。そうしたら、アオにも勝てるかしら?」

「それはどうだろうな。私は強いぞ?」

「わたしも! わたしも頑張る!」

「当たり前だこの赤点女。しっかり励め」

「ヤダこの人叩くなんて、2世代前の教師かな!? もっと優しくしてよ!」


 アオは自分のデコピンの威力を知らないんだ! 本当に痛いんだぞじわじわあとから来るし! 教師なんて絶対にするなよ!?


「というわけで、カンナは魔力循環を。ネネとヴァンは魔力増幅の訓練を始める。キッツイが行けるな?」


 ニヤリと笑うアオ。その言葉通り、わたしたちは地獄を見るような訓練をすることになるのだろう。それでも、さっきみたいな反抗心はなくなっていた。


「私は最初っから行く気でしたよ」

「まぁ、赤点回避しないとだし頑張るよ……」

「……俺も?」

「よし、いい覚悟だ。じゃあ休憩は終わり。早速始めるぞ」


 こうして、鬼悪魔教官1名。やる気あふれる生徒2名。……巻き込まれた人1名の特訓は今日から始まったのだ。


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