第30話「その特訓、難解」

カンナ:居酒屋のメニューで好きなのはフライドポテト。未成年だから呑めないよ!

アオ:居酒屋のメニューで好きなのは焼き鳥。ザル。

ネネ:居酒屋のメニューで好きなのは枝豆。未成年だから呑んじゃダメよ。

ヴァン:居酒屋のメニューで好きなのはだし巻き卵。未成年、飲酒ダメ、絶対。

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 前回のあらすじ。ヴァンは理不尽に巻き込まれた。


 魔法向上に必要な基礎訓練は主に3つ。魔力循環、魔力増幅、魔力操作である。その中でいちばん大事なのは、一番最初の魔力循環だ。魔力循環は体内にある魔素を滞りなく循環させる、つまり言葉通りのことだ。


「私の中のイメージは流水。全身の神経を川としてイメージして底に水を流す感じにやる」

「り、流水……」

「私のイメージをそのまま使わなくていい。カンナの光魔法は、光はどうやったら体内に渡るんだ?」

「うう……もっとわからなくなった……」


 悩むように顔を伏せるカンナ。少し難しいことを言ったかも知れない。けれども属性が違う以上、アイツの中の光が巡るイメージを自分の中で確立しないといけない。でなければ、魔法はうまく使えない。


「なかなか難しいものだな……」


 思い起こされる、懐かしい記憶。そう言えば、あのときもこうして悩んでいたな。全くアイツと同じ顔で、本当におかしくて、そっくりなやつだと私は笑いをこぼした。


「あ! わかったこうだね!」

「ん? ……うん、出来てるぞ」

「へへん!」


 声を上げたカンナは、その言葉通り体内に魔力が廻り始める。さっきの魔力を錬るときとは打って変わった変化だ。たどたどしいが、それでもうまく行っている。


「どんなのをイメージしたんだ?」

「太陽の廻り。地面を滑るように廻って感じる光をイメージしたんだ」

「……ほう」


 なかなか壮大なイメージで、ここまで行くか。肌に感じる光を、地面に滑る光と熱をそのまま体にめぐらしているようだった。紛れもない、これはかなり。


「……いいだろう。それをしばらく続けろ」

「っうん! 割と厳しいけど!!」

「がんばれー」

「わたしの従者かなり酷いな!」


 ギャイギャイと騒ぐカンナを無視し、私はネネたちの方へ視線を向ける。カンナは私と違ってかなり魔法の才能があるみたいだな。さすがは光魔法の使い手といったところか。


「さて、ネネとヴァンはどうだ?」

「これ、本当にきついけど本当に何百年も続けたの? 魔力を限界まで圧縮して、自分の体内から魔力を一片も出さないように広げていくなんて……とてもきついのだけど」

「……っ」


 魔力の限界圧縮をしたあと、体から出さないように放出する。私達には魔力、魔素を作る魔力回路というのが存在する。その魔力回路を、こうして魔力の圧縮と放出を繰り返すことで酷使し、その量を増やしていく。言うのは簡単だ。ただし、やる方はたまったもんじゃないだろう。自分の心臓を無理やり速くしたり遅くしたりしているようなものだ。難易度はかなり跳ね上がるだろう。


「うまく行っている。そのまま続けたら魔力量は今の2倍近く跳ね上がるだろうよ」

「言ってくれるわね。やる気が上がっちゃうじゃない」

「そうかい。ま、頑張れよ」


 歯を食いしばりながら魔力を圧縮していくネネの頭をなでる。こういう積み重ねは大事だ、努力は必ず身になるからな。


「っ!」


 そう考えていた私の背筋に氷柱が突き刺さるような殺気を感じた。


「……」

「お前……ああ、そゆこと」


 殺気をぶつけていたのは、ネネの隣りにいたヴァンだった。その目の鋭さは尋常じゃなく、嫉妬という言葉すら可愛らしくなるほどだ。こいつ、そう言えば最初からこんな感じだったな。


「はいはい、お前もな」

「……」


 頭を撫でられているヴァンは、黙ってはいるがどこか驚いたような顔をしている。だがまぁ、お前の気持ちはわかったよ。ネネが好きなのかぁ、頑張れ頑張れ。若人はこうでなくてはな。


「いやぁ、青いなぁ。目が潰れそうだ」


 今日で魔法の修行3日目。コイツらもなかなか形になってきた。次の段階に移行するのも早そうだ。筋が良いから段階が移るのが早くていい。と思うが……。


「……その前に休息だな」


 ****


「やったー! 街だー!」


 ということで、少しつかれたわたし達を憐れんだアオが街に連れて行ってくれました。自由を感じる、これがシャバの空気ってやつか!


「全然違いますしそれで隣を歩かないでください。アホが移るでしょう?」

「いつになく辛辣!? アオ〜」

「アホが移るんで来ないでください〜」

「アオ!? お前はわたしの従者でしょうが!」


 全員、いや一人は黙っているけどもっ。辛辣すぎでしょ!


「もう……じ、じゃあどこ行こっか。どこ行きたい?」


 辛辣な人たちはもう何を言っても聞いてくれないので、わたしは諦めてどこに行くかを聞く。どこがいいかな。ネネなら服屋っていうかも。いや、アクセサリーかも。それか本屋かな。本屋がいいなぁ。


「いえ、カンナ。私と一緒に街を回りましょう。殿方たちはそちらで仲良くしていてください」

「え?」

「は?」

「なっ……!」


 ネネの突然の言葉に、3人別々の反応を見せる。ヴァンくんが、声を出しただと!?


「ということで、行くわよカンナ」

「え、あ、はい! じ、じゃあまた後でねアオ!」


 腕をとんでもない力で引っ張るネネのその意志は何者にも折れなさそうだった。ということにしておこう。別に怖かったわけじゃないです。ちょっと痛かっただけです。


 そしてわたしは、いつかと同じようにアオを置いて街に繰り出した。


 ****


「……ええ」

「……」


 というわけで、あのお転婆娘たちは要件だけを言ってそのまま街に行ってしまった。私と、この無口な男ヴァンを置いて。なんてこった。


「あーっと、どうする? どっか行くか、それともここで待つか?」

「……アオ様のお好きなように」


 その一言を言うだけで、そのままムッスリと黙り込んでしまった。置いていかれたことが本気で嫌なのか拗ねたような顔つきだ。マスクしているけど。


「はぁ、仕方ねぇな」


 このムッスリ少年、どうにかしてあやしてやるか。そう思いながら、私は近くの喫茶店に入っていった。



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