第49話「それは悪魔の後悔 4」
アオ:男が好きだから告ってきたのかと思い女だとカミングアウトしたが更に引っ付かれることになった。どんまい。
ロト:女でも男でもどっちでもいいが、この国では同性結婚は認められてないからラッキーだった。アオを振り回せる唯一の存在。
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前回のあらすじ。昔のアオは不憫枠だった。そしてロトはストーカーだった。
東方の地出身の祖父から剣術を教わったらしい副団長の剣は、見たことのない剣を使っていた。
「カタナ?」
「おう、刀。片刃の剣で、アオの使うようなロングソードと違ってこれは「斬る」ということに長けている。叩き斬るじゃなくてな」
「斬る……確かにこれで叩くように斬れば刃こぼれ……下手したら折れてしまいます。斬るにもコツがいりそうだ」
副団長の持つ刀をマジマジで観察する。あまりにも繊細な刃。刀に広がる刃紋がとても美しい。まるで芸術品だ。
「でもかなり年季が入ってますね、これ」
「ジジィからもらったんだ。一応形見か? 剣術の皆伝でもらったんだが、まぁ使い勝手がいいから使ってる。名刀「
「そうですか……いい剣です」
「ふふん、だが流石にそれをアオにあげるのはちょっとなぁ〜。結婚するなら話は」
「結構です」
結婚が嫌なのも確かだけど、形見で大事なものをオレごときが触れるべきじゃない。この人は祖父を大事にしている。……母親をなんの躊躇なく殺したオレがもっていいものじゃない。
「……アオ、」
「それよりも早く剣術の修行をしましょう。お願いします」
「お、おおそうだな。……よし、じゃあまずは剣の型と基本を教えてやる!」
「はい!」
暗い感情が顔を見せる。もう忘れていたともっていたのに、未だにしこりのように残る母親の面影を追い払い剣を握った。
「まずアオ、その剣の太刀筋自己流だろ?」
「ん、そうですが」
「だろうな。動きに無駄が多い。それに無駄に力が入りすぎてるし剣を叩くものとしか認識してない」
ぐ、グサグサ刺さるな……。たしかにオレが使う剣術は我流だ。それどころか我流にすらなっていない。そもそもオレは。
「剣の扱い方がよくわかってねぇな?」
「……そのとおりです」
そう、オレは養成団に居たときでも剣の扱い方がよくわからなかった。魔法のほうがよくわかったし、使うのも慣れたけど剣だけはどうしても理解できずに終わった。
「その危機察知能力と優れた動体視力のお陰で5位以内に入ったって言ったところか」
「……」
「はは、まァ俺に任せろ。しっかりと俺の剣術を叩き込んでやる。――よぉく見とけ」
「!!」
縁を握る副団長の空気が変わる。一気に空気が張り詰めて、音がいつもよりも大きく聞こえてくる。心音が早くなっていくのを感じた。
「大和流壱の業『
キンッと涼しくも硬質的な音が聞こえた。風が涼しく吹いたかと思えばオレはいつの間には地面に座り込んでいた。腰が地面に根を張ったように抜けて動けない。副団長が刀を振った先にあった木は、その断面すらも美しいと思えるほど綺麗に斬られていた。
「とまぁ、こんな感じだがどうだアオぉおおおおお!? だ、大丈夫か!?」
腰の抜けたオレに驚いたのか刀を離した瞬間空気が一気に軽くなる。そこでようやく気づいた。オレはいつの間にか息をすることすら忘れていたのだと。
「どうした具合でも悪くなったか? 俺という旦那が側に居ながら気付けないなんて、今すぐ医務室に」
「す……凄い」
「え?」
「凄いです! 本当に、初めて見ましたあれほどすごい剣は!」
まさに天才。いや、これを天才の業として言ってはいけない。まさに神業だった。一切見えなかった。いつ斬ったのかさえ、その動き一つも。でも最後に構えたときの、まるで一本の剣、いや刀のように構え続ける副団長は本当に美しかった。
「えっと……?」
「あ、あれをオレに教えてくれるんですか!? ほんとうに!?」
「そ、そりゃ勿論だが。具合は悪くないのか?」
「全くです! ああ、どうしよう。まだ心臓がどくどく言ってる! 今すぐ始めましょう! ね、ね!」
今まで剣の何が良かったのかわからないけど、今になってようやくわかった。あの剣がほしい。何としてでも、自分のものにして見せる。
「ま、待て待て! まずは基礎からだ! 基礎をしっかりぃいいい!?」
「わかっています! ぜひご享受を!」
「あ、アオちゃんが手、手を握ってる……。俺の手をっ。あのウジ虫のように俺を見てきたあのアオがっ」
思わず掴んでしまった手だが、それに触れてわかった。この人はただの天才じゃない。努力し続けてきた本物だ。この何度も潰れてきたであろうタコでわかった。この人ならば、きっとオレはあの剣を使えるまで成長できる!
「まずは素振りと筋トレからですね!」
「待ってぇ……今ちょっと心臓が暴発しそうだから。何なら今すぐ死にそうだからちょっとまって。そのキラキラとした可愛い顔を俺に見せるのはちょっと待って理性飛ぶからっ」
オレはこの変態と会って初めて良かったと思った。あの美しい剣技を教えてもらえるなんて、まさに幸運だと。
「オレ、このときばかりは副団長を人として認めてもいいです!」
「待ってじゃあ俺今までどんな扱いだったの? まさか本当に虫だった??」
「本当に本当にすごかったです!」
「なんだろう、嬉しいのにすっごい微妙な気分になった。俺って虫扱いだったんだ」
そうして、オレは副団長に剣技を教えてもらうための特訓が始まったのだ。
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