第50話「それは悪魔の後悔 5」
アオ:初めてロトを人だと認めたけど、いつもは虫としてみている。
ロト:自分がまさか虫だと思われていたとは。でもそんなところも好き。
ジョン:アオの親友。平和な西の領地で焼きたてのパンを食べている。うまいうまい。
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前回のあらすじ。ロトはようやくアオから人として認められたよ。やったね!
この第1騎士団に来てはや数ヶ月。基礎課程を終わらせたオレはこの数ヶ月で任務を何個かこなしながら、それなりにこの生活を謳歌できるまで余裕が出るようにまでなった。最初はどうなるかと思ったが、人付き合いもそれなりになって充実している。
ただ……。
「アオ、明日休みだったよな? 俺と一緒にデートでも」
「行きません」
「アオ、明日は俺と一緒に任務だが少し遠出をするらしい。お泊り楽しみだな。観光は」
「行かない」
「アオ今日は」
「行かねぇっつってんだろ!!」
この男の猛攻が本当にうざったい! なん何だこいつは! ここまで断られといてなんで未だに引っ付いて来るんだ! 好奇心とか興味本位かもしれないとほっといていたけど、収まるどころか過激になっていくし!
「うざい」
「……ふむ」
「いい加減にしてくださいとお伝え下さい。本気でうざいです、団長」
「と、私に言われてもねぇ」
ニコニコと柔らかな微笑みを浮かべるのはここ第1騎士団の団長、クリア・ガーデー。つまりはオレの上司でもあり、あのストーカーの上司だ。ちなみに性別は知らない。オレ以上に中性的、いやどちらかと言うと無性的なお人だ。
「どうしてオレに引っ付いてくるんです? 暇なんですかあの男は。昔からああなんですか?」
いい加減この生活にもウンザリしてきたオレはついに団長に相談することにした。副団長だからって遠慮してきたけど、もう我慢ならない。
「ふふ、昔から……ねぇ?」
「? なんです?」
「いや、私もね実はとても驚いているんだよ。あのロトがここまで変わるなんて、てね」
意味深に笑う団長は、紅茶の入ったカップを見つめて懐かしそうに語る。それは、オレが見たことも聞いたこともない副団長の話だった。
「彼はむしろドライな人間だよ。君と会うまで特定の女性を作った記憶はないし、あんなに面倒に引っ付いているのも見たこともない。職権乱用も多いしね?」
「……誰の話をしているんです?」
「ロトの話だよ?」
ドライ? むしろ粘着質な性格だろう。というか職権乱用していることに気づいてなんで止めないんだよ。どこか納得できず、モヤつく思いながらに団長を見ていれば全てを見透かすような目で団長はこっちを見ていた。
「……わかっているよ、君の出自は。どういった経緯でここに来たのか、ある程度推測できる。だからロトを信用できないのもわかっている」
「!」
オレの出自は誰にも言っていない。ただの平民とだけだ。それにある程度の推測だって? 推測されるほど証拠は……、いやそうか。あの火事か? あれはもう何年も前の話。記録に残ったとしてもオレとの関係性を示すほどのものじゃないと思っていたのに。
「……」
「大丈夫、安心してくれ。私がこのことを誰かに、特にロトに言う気はないよ。君は知られたくないようだからね、アオくん」
「……そうですか」
「でもね。代わりと言っては何だけど一つだけ、私の言葉に耳を貸してくれるかい?」
団長室から出ていこうとしたオレに、団長は笑みを浮かべなが長い髪をかきあげていた。紅茶の香りが鼻を妙にくすぐったような、それともオレの手汗か。よく覚えていない。
「彼は、君を裏切らない。絶対に」
けれどもその言葉どうしてか、妙に頭に残ったんだ。
****
「今日こそ一本取らせていただきます。副団長」
「まだまだひよっこが何いってんだか。あと副団長じゃないから。俺のことは名前か旦那様か、それか「あなた」って呼べっていつも言ってるだろ」
「行きます!!」
「聞いてぇ〜?」
あの時からずっと続いている剣術の修行。この修行を始めてからオレの剣の腕は見違えるほど成長した。養成団に居た連中だったらすでにオレは剣術でも首席を取れただろう。
だけど……!
「ハァッ!!」
何度隙をつこうとも、何度攻めようとも、何度絡み手を使おうとも。この男に今まで一本だって取ることはできなかった。
「はいはい、まーた腹ぁがら空きだ、っぞ!!」
「グッ!?」
横腹に入る衝撃にオレはふっとばされる。蹴られた、それがわかったときには遅かった。受け身を取れどしばらく起き上がれなかったオレの首に置かれた木刀。そこで負けが決定した。
「また俺の勝ち。まだまだだなアオ」
「ゲホゲホッ……そう、ですね」
これで何度目の敗北だろうか。剣術でこの人に一本も取れない。魔法アリで戦うならまた別の結果が生まれるだろうが、オレはそれが気に食わなかった。この人には剣で勝ちたい。
だけど、どこかで団長の言葉が響く。そしてオレは気づいていた。
「今日はなんだかいつもより気が散っていたな? なにかあったのか?」
「……なんでもないですよ。流石に疲れました、今日はおしまいにしませんか」
「え、ああ……」
オレはこの人を信用していない。誰も信用できていないのだと。
「ダンジョンで魔物の討伐任務、ですか?」
「ああ、ここ最近巨大迷宮でナイトメアが現れたらしい。そこらにいる冒険者じゃあ手も足も出ない大物だ。私たちの出番だよ」
「ナイトメア……確かにあのダンジョンはよく悪魔系統の魔物が湧くが……ナイトメアなんて何十年ぶりだよ」
「最近ダンジョンの動きも活発みたいだしねぇ。それも調査してきてよ」
あの時からだからだろうか。それとも、生まれたときからだろうか。オレは女としての自分すらも殺したときから、人を信じたくなくなったと思っていた。けど多分違うんだろう。
「アオとロト。君たち二人で」
母親に捨てられたときから、オレは人を信じるのが怖い。それが紛れることもできない、オレの本音だった。
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