第36話「巨大迷宮『栄華の夢魔』 2」

カンナ:スライムはスライムでもキングとビックがつくスライムだった。これに勝てと……?

アオ:別に嘘は言ってない。私にとっては雑魚だし、お前らにとっても雑魚だよ。

ネネ:どうせそんなことだろうと思った。骨がある相手ね。

ヴァン:お嬢様に怪我さえなければどうでもいい。それにしてもカンナの騙されやすさはどうにかしたほうがいいのでは?

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 前回のあらすじ。10階層のボスはスライムだった! めっちゃ強かった!


 無理無理ムリムリムリムリ勝てるわけない帰りたい!! 今すぐお家に帰りたいよママー!


「魔法でもあまり効果はなくて、物理は大方弾く? じゃあ何が有効打だよ!」

「それを考えろ。3人いればそれなりに知恵が出るだろ」

「アオ、3人じゃなく2人よ」

「あ、そっか」


 それは一体どういうことだ? なんで1人消えた? 3人だよ?? 3人で合ってるよ??


「さて、それでは作戦会議と行くわよ。幸いにして、スライムはまだ気づいてないようだし」

「まずはあの粘液が厄介です。あれほどの量では核に攻撃が届きません」

「え、じゃあどうしよう。そもそもスライムって何に弱いの?」


 粘液とかだから蒸発させるために炎? それとも流すための水とか? 炎が弱点ならネネで対抗できるかもだけど。


「さて、そもそもよく見るスライムは弱すぎて弱点攻撃がわからないのでは?」

「一撃で終わるせいでそこがわからないとかバカが過ぎる……」

「言ってても仕方ないわよ。一つ一つ整理していきましょう。まずスライムの攻撃方法は粘液による攻撃。絡みつき粘液を飛ばす。ぐらいだったわね」


 その攻撃方法があのビックキングスライムでも同じなのかわからないけど、取り敢えず同じと仮定しといたほうがいいかも。考えても仕方ないし。


「アオは絶対に助けてくれないからさ、とりあず一番効きそうな炎で攻撃してみるのはどうかな? このまま考えても埒あかないかも」

「カンナにしてはいいこと言うじゃない。そうね、では作戦はこうしましょう」


 にしては、っていう言葉いらないから。わたしだってやればできるのだよ。というツッコミをしながら、わたし達は作戦を練り込んでいく。


「……ふぁあ、あ”ー暇だ」


 途中でムカつく鬼悪魔が戯言ほざいたような気がするけど、それを無視して作戦は決まった。


 ****


「それでは、行くわよ」


 ネネの言葉に、私とヴァンくんが動き出す。スライムの視界がどうなっているのかわからないため、わたし達は三方に広がった。まず、この部屋を入ってもこのスライムは攻撃してこなかった。つまり半径二十メートルがこのスライムの感知範囲内。ならばそれまでに入ってこなければこのスライムは攻撃してこない! はず、多分……。


「それじゃあまずは先制攻撃。ファイアーボール!」


 ネネのファイアーボールが炸裂。それまでうねうねと何をするでもなかったスライムの触手が反応を示した。


「! 防がれた!」


 まるで防ぐように触手を固めたスライム。そのせいかファイアーボールでは触手を3本吹き飛ばすだけしか効果がなかった。やっぱりダメか!


「カンナ! 避けなさい!!」

「え? って、うわぁあああああああ!?」


 と思ってたら何故かスライムがわたしに襲いかかってきた。なんで!? 攻撃したのはわたしじゃないでしょうが!! しかもこっちはスライムの視界範囲内に入ってないはずでしょ!


「あ、言うの忘れてたけどスライムは別に視界とか関係ねぇよ。魔力探知で周り見てんだ。攻撃はランダムだしな」

「先に言えぇえええええええええええええ!!!」


 あの鬼悪魔、自分だけ安全圏でくつろぎやがって! どこにあったそのお菓子は! お前だけ遠足気分か!!


「くっそ〜! さっきからわたしばっか狙いやがって! これでも喰らえ! ライトボール・改!」


 苛立ちのままに放ったわたしの魔法。そう! この地獄の修行を乗り越えついにわたしは攻撃魔法を扱えるようになったのだ。その名もライトボール・改。旧ライトボールは光源としか使い道がなかったが、このライトボール・改は違う! こいつはネネの使うファイアーボールのようにしっかりと攻撃することができるのだ。これがわたしが新たに覚えた魔法よ!


「つまりはただのライトボール……」

「違う! ライトボール・改だから!」


 ネネの呆れたような言葉を遮る。どうしてこの素晴らしさがわからないのか。この、わたしが、攻撃手段を持ったということだよ! ちなみに威力としては木の的を少し焦がした程度だけど!


「じゃあダメじゃない! カンナ!」


 ネネの焦ったような声に気づいたときは遅かった。スライムの触手がわたしの頭上からまっすぐこちらに振り下ろされている。ネネの攻撃は防いだくせに、なんでわたしの攻撃は無視するんだ!?


「え、あ、まっ!」


 思わず頭を手で守るが、このまま溶けるのは必須。ああ、このまま逃げとけば!


『……っ!』


 このとき、後悔しながら頭を防いでいたわたしは知らなかった。スライムにすら脅威に思われていなかったライトボール・改は、触手によるガードをくぐり抜け本体にそのまま吸い込まれるようにぶつかっていたらしい。


『〜〜〜〜〜〜ッッッッ!!!』


 スライムの声なき絶叫が形となってフロアを揺らす。わたしは瞑っていた目を開けてスライムを見れば、……なんということでしょう。あれほど攻略が難しいと思われていたスライムのボディが完全に消滅し、核が丸見えになっているではありませんか。


「え? ……え??」

「なん、ですって?」


 消滅したスライムボディは回復することなく核は丸出し。完全に隙が生まれたうえに、スライムの動きは鈍くなっていた。その瞬間を、驚いて固まっていたはずのネネが素早く短剣を取り出し破壊する。

 ビックキングスライムは、そのまま消滅していった。


「……え?」


 その間、わたしは何が起きたのかわからないまま突っ立ていただけだった。

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