第55話「それは悪魔の後悔 10」

アオ:騎士団長の仕事が忙しすぎて騎士団長辞めたくなってきた今日このごろ。

ロト:アオについていくために必死に自分を鍛えた。純愛です。

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 前回のあらすじ。久しぶりにカンナ達が登場した。


 始まりは私が騎士団長になって、約3ヶ月経った頃に起きた些細な事件だった。


「……なんだこれは?」

「レオン殿下に送られた恋文と贈り物です。そしてこちらは見合い書になります」


 部下から言われたそれらは、私が普段処理する仕事の書類よりも遥かに多い恋文と絵姿のついた見合い書。そして贈り物の数々だった。


「なるほど、さすがは王族と言ったところか……」


 正直に言って舐めていた。たしかに近衛騎士、それも王族付きの騎士だからそれなりにこういうこともあるのだろうとも思っていた。だがそれでもここまで山を築くほどの数は来ないと高を括っていたのだ。


「辞めたい騎士団長」


 だからこの現実を前に弱音を吐いても仕方ないと思ってほしい。こんなの騎士のすることじゃないもんっ。


「おお、凄いぞアオ! このハンカチに女性の髪が縫われているし、このクッキーには血入りのジャムが」

「ああああああ!! なんでこう、やばめのが多いんだ! どういう考えを持っていたらそんなイカれた真似ができる!」


 思わず頭を抱えたくなってしまうほど送られた品々には、本当に効果があるのか怪しい呪術の類が盛り込まれていた。大方、両思いになれるとかそういう恋愛沙汰に決まっている。無論そういうのは絶対に殿下の前に出せないため、危険と判断されたものは全て処分していた。


「よしロト、全て燃やせ。跡形なくな」


 が、今の私は疲れているので選別したくない。


「アオちゃん忘れてると思うけど俺の魔法属性土なんだよね。火は出せないよ」

「何甘ったれたことを言っているんだ。行ける。ロトなら行ける。今こそ限界を超えろ」

「さては疲れすぎてるな? ちゃんと休んでないでしょアオ」

「だいたいおかしすぎるだろ。こういうのは入ってくる前に検分しておけよ! なんのための衛兵だ! 因みに3徹だ」

「はいはーい、アオちゃん休もっか。おいでお兄さんの胸の中に」


 誰が行くか。というかもうお兄さんっていう歳じゃないでしょうが。三十路近いくせに。


「とりあえず異物混入しているものの類はすべて取り除くぞ。恋文の内容も見とかないとな」

「それが終わったら必ず休ませるからな。さーてどれどれと……うん?」


 ありえない内容の恋文や甘ったるい愛の言葉に辟易していた私。ロトは嬉々として贈り物の類を検分していたがその途中で声を上げた。


「? どうかしたか、ロト」

「うーん、いやこれなんだろうかと思ってな。わかるか、アオ」


 そう言って出してきたのは、子どもの拳ほどの大きさの水晶玉。その水晶は青く輝いているが、なにか文様のようなものが見えた。何かの魔道具か?


「特に危険そうなものには見えないな」

「そうなんだよなぁ。何かができるように見見えないし」

「……ふむ」


 しかしこれほどの大きさの魔道具、しかも宝玉を使っているものはかなり高価なものではないだろうか? 捨てるのがもったいないほど魔力を含んでいる。だがこれ……。


「差出人不明じゃないか?」

「どこにも名前がないし、これだけむき出しというのもおかしな話だよな」

「危なそうだが捨てるのもな……だが危険なものだった場合殿下には渡せない」

「なら処分するか?」

「うん。そうして」


 これが、差出人不明で送られてきた魔力を含んだ魔石の本当に些細な事件。だがこれだけにはとどまらず、この些細な違和感をきっかけに謎はさらに加速する。魔石はこの先も送られるようになり、何個か盗まれる事件が起きるのだった。


 ****


「殿下、本日のご予定ですが」


 次の事件はおかしかったと言うより不思議というものだった。それは穏やかな朝の日に、今日の護衛を任されていた私が殿下に予定を伝えていた時のこと。


「今日は宰相との会食があるんだったか。後は何が」

「レオン殿下、ご機嫌麗しゅうございます」


 レオン殿下の言葉を正面に居た女の声が遮る。その声はどこか聞いたことのあるようなもので、思わず殿下も私もその声の主に視線を向けた。


「あ、貴女はカルミア嬢ではありませんか」

「お久しぶりですわアオ様。その白い甲冑、よくお似合いです。白百合の麗人と噂されることはありますね」


 どこか白々しい褒め言葉に私は頬を引きつらせて感謝を言う。やはりこの女はどこか変だと本能が言うが、見た目はどこにでも居る甘やかされたお嬢様という感じだったために、警戒がしづらかった。


「カルミア嬢、本日もご機嫌よう。こんな朝早くから侯爵家の貴女が王城で一体何を?」

「実はお父様の付き添いできておりまして。わたくしとしても、王城の中庭に興味がありましたのでつい」


 殿下に話しかけられてカルミア嬢の目が光る。やはり彼女も例に漏れず殿下を狙っているようだ。貪欲に殿下の地位を狙うところを見ると、カルミア嬢もまた人間のようだ。人形のような美しさを持つから忘れそうになる。


「そうでしたか。たしかに城での庭は見事なものですから、きっとカルミア嬢のお眼鏡に叶うかと」

「あら、それは楽しみですわ。ねぇ殿下。よろしければわたくしと」

「申し訳ありませんカルミア嬢。殿下はこれからご予定がありまして」


 そっと伸ばされた手を優しく拒み、私は殿下を後ろに隠す。勿論身長差があるからそう簡単には隠れないが、殿下を軽々とくれるわけには行かない。守らなければ怒られるしな。


 既成事実って本当に恐ろしいからね。身を持って経験しているし。


「折角のお誘いではありますが、また次のご機会に」

「……それもそうですわね。申し訳ありません、レオン殿下。わきまえずお誘いして」

「いえお誘いしていただき感謝しますよ。また次の機会にお願いします」

「そうですわね。また次の機会に」


 侯爵家で、しかも権力がある家柄だが、彼女は次女だ。そう簡単に会えるわけではないというのに、殿下も人が悪い。だがこうして既成事実でも作られると王宮内のパワーバランスが崩れる可能性が高まる。全くもって身分が高い人は大変だ。


「それでは、御機嫌よう」


 もうあまり会うこともないだろう。彼女の柔らかな雰囲気とよく似合う薄緑色のドレスの裾が、まるで花弁のように広がっていくのを見て、私はそう思っていた。


 しかしその期待は裏切られるように、彼女のアプローチが激化していくのだった。

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