第13話「その悪魔、優しさ失格」
カンナ:服装が子供時代から止まっている。オシャレって何……?
アオ:スタイリッシュな服装が好き。カンナの服装に割とガチで引いている。
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前回までのあらすじ。チャラ男全員アオが瞬殺した。(殺してはいない)
「さて、私に何も言わずに街に降りて問題事を起こしたカンナさん? 釈明はあるか」
「大変申し訳ございませんアオ様」
男たちを路地裏に捨ててきたアオさん。帰ってきた瞬間わたしの頭を鷲掴み尋問を開始した。見事な主従関係の逆転。なんとスムーズな動き! わたしじゃなきゃ見逃しちゃうね!
「普通あの状況で行くか? お前が行ったところで何が出来んだよ。肉壁? カカシ?」
「ぐぅの音も出ない……ぐぅっ」
「出てんじゃねぇか」
もはや正論中の正論で叱られるわたし。ぶっちゃけ割り込んだ時点でずっと思っていました。でも見捨てるのも無理だし、かっこよく助けるのも無理でした! わたしはかっこいい主人公のように追い払えなかったっ。だってわたしヒロインだもの!
「ま、無謀でも助けに行こうって言う意思は認めるよ。よく頑張ったな」
「あ、アオ〜」
「ただし2度目はねぇぞ。それと今度からは私も一緒に街に行くからな、この歩くトラブルメーカーが」
「……ウッス」
「えっとあの……」
はっ、しまったアオとの会話に意識取られてさっき助けた女の子のことを完璧に忘れてしまっていた! この状況で放置はさすがに可哀想だ。わたしなら空気に耐えられなくて死にたくなるっ。
「ヒ、あ……ア、ア、ア……」
「え、顔のない妖怪……?」
「あー、すまんな嬢ちゃん。こいつは初対面の人間に対しては、コミュ症拗らせて妖怪になる傾向があんだ。許してやってくれ」
「い、いえ! お構いなく」
クソ、その通りだけどうるさい黙ってて!! わたしのフォローしてくれるのは嬉しいけど、顔のない怪物に乗るんじゃない! 金が欲しいか? じゃないんだよ!
「助けて頂きありがとうございます。私、ネネ・ゴールデンと申します。カンナさん、アオさん。貴方たちは本当に私の命の恩人です」
「へっ……?」
そう頭を下げていた女の子の言葉とその名前に私の体は固まる。イマ、コノヒト、ナンテ、イイマシタカ? ネネ・ゴールデン???
「ヒョォ……ッ」
「ん、おいカンナ? カンナーーーーーー!!!」
気づいてしまったわたしはそのまま気絶する。気絶する直前、何も分からないであろうアオの叫び声を聞きこえていた。けれどもわたしの頭の中を締めていたのはただ一つの事実。
この人……公爵令嬢じゃないですかヤダー。
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目の前の女の名前を聞いた瞬間、白目を向いて気絶したカンナ。なんて顔で気絶してんだこいつは。ヒロインとして有るまじき顔だろこれ。とりあえず名誉のために隠しとこ。
しかしネネ・ゴールデン? 確かこの国ではひとつしかない公爵家の娘だったような。そんで、カンナと同じ学園に通う学生だったはず。なるほど。だからこいつ気絶したのか。
「あ、あの……カンナさんは大丈夫なのでしょうか?」
「大丈夫だ。ただ頭がショートしただけだろうさ。少し寝てりゃすぐ治まる」
その女を見た時の印象。黒髪の清楚な女で、いかにも男好みの容姿。それが第一印象だった。だが今は、よく見ればその目に何かを企てる特有のものを感じた。……なんだ、この女。
「……それにしても……公爵家のお嬢様がこんなところで何してんだ。さっきはただのゴロツキだったから良かったものの、もしアンタの家を狙う奴らだったら唯じゃすまねぇぞ」
「そうですね……私も軽率でした」
「ま、次からは気をつけろよ。じゃあな」
私の勘が告げている。この女に関わるなと。その通りでなんか関わったら面倒な気がするし、何よりも早くカンナを休ませるべきだ。アホなのに頭を酷使したからな。そう考えた私はカンナを抱え、アイツの買った同人誌をもつ。この時代でも男色文化ってあるんだな。随分と過激だ。
「ま、待ってください! せめてお礼をさせてください!」
「いらねぇ。別にアンタを助けたくて助けた訳じゃねぇし。このガキのついでだ」
「でも……」
未だ食い下がる女を無視し、さっさと歩く。もう面倒な予感しかしなかったし、何よりあの腹に一物どころか百物ありそうな女に関わりたくなかった。
「……」
それにしても、あの女。なんであんなところでゴロツキなんぞに引っかかってんだか。よくわかんねぇな。
――あんなに魔力があるくせに。
****
「……チッ、流石にこんな茶番劇では無理ね」
去っていくアオの後ろ姿を見て舌打ちをしたのは、先程まで清純な顔をしてたはずのネネ・ゴールデンだった。優しく甘い顔を流れ落とすように無表情に変えたその姿はまさに女優の鏡。女の二面性を体現したような姿だ。
「貴方たち、起きなさい。ゴールデン家の影が先あれ程度で倒れるなどあってはならないわ」
「「「は、はい……っ」」」
冷たい声で先程のチャラ男たちに声をかけるネネ。そう、今の今まで全て彼女の茶番。そもそもの話。王都の表参道から外れているとはいえ、ここに人が1人も歩かないことなんてまずあるわけが無い。カンナは欠片ほども気づかなかったが。
「でもいいでしょう。あの子の人となりはわかりましたから」
お人好しで警戒心皆無。きっと裏表のないタイプで間違いない。しかも単純な手に簡単に落ちるし、こちらのことも知っている。
「あの子にはすぐにでも接触できるでしょうね。明日にでも仕掛けましょう。――ヴァン」
「はっ、ここに」
闇の中から出てくるよう、誰にも気づかれずそこにたった男。名をヴァン。ネネの従者にし、気配を完全に消すことの出来る暗殺者のひとりである。
「いいわね、準備なさい」
「かしこまりました、お嬢様」
この男の気配は主人であるネネにすら察知するのが難しい。しかも近くには巨大な魔力を持つネネが居る。魔力に隠れて消えたヴァンを見つけるのは、砂漠に落ちた砂金を探すより難しいだろう。故にアオでも気づかなかったのだ。その男が最初から居たことに。
「けれども問題は本命の方ね。さすがに警戒心が強いわ」
けれどもそこまで深く考える質では無い。危険が起きなければ全て無視するスタイル。少し脳筋タイプだろう。ならば敵ではない。勘が鋭いのは厄介なところだけれども。
「――でも、この私に勝つには程遠い。狩るわ、悪魔」
必ずこの手中に収めてみせる。そう笑った女の顔は、酷く冷たい。なのにどこか危険な美しさのあるそれに手下の男たちは震えていた。
(こ、怖〜っ!!)
(俺、今月の給料貰ったらこの仕事辞めよう)
(出来たら苦労しねぇっての! 絶対に却下されるって!)
当然、受理されなかったという。
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