第2話「その封印、柔にて失格」

「おぎゃあああああああ!!!」


 地面が抜けてわたしは暗闇に真っ逆さま。わずかに漏れる光でわかる地面とわたしの距離、そこから計算し地面激突まで残り3秒。わたしの命残り3秒!! パパママごめんなさい! わたしあと3秒で死にます! どうか理解のある我が両親は、人に見せられないタイプのお宝をぜひ捨ててください! それか燃やしてください!


「いやぁああーー! 死にたくなーーーい!!」


 今までの人生が走馬灯として流れてくる。生まれたばかりですでにコミュ障を発揮し、泣けずに病気を疑われた赤ちゃん時代。同年代の子供に話しかけられず本を読んで過ごした幼少期。コミュ障こじらせて友達ができなかった中等期。そして高等期は叱られ、面倒事押し付けられ、叱られ、叱られ……あれ? わたしの人生ろくでもない? あ、涙がちょちょ切れて……。


「そうこうしている内に地面がーーー!」


 激突する! 目をつぶったわたしは衝撃を待つが、いつまで経っても衝撃は来ることなく、恐る恐る目を開ける。地面にはとうについており、わたしはその地面に尻をついて呆然としていた。え? いつの間に座った? わたしの反射神経は猫だった?


「というか……あれ、何?」


 上とは違って何故か綺麗な空間には、壁一面にびっしりと謎の模様の書かれた紙が貼られている。多分東方にある御札ってやつ。なんで知っているのかって? それは人に見せられない系の同人誌ゲフンゲフン、……とある書物の知識で見たことがあるから。


 そしてその中心に何十にも重なった鎖のついた本が、台座の上に鎮座していた。


「あっ……絶対禁書だわたし知ってる。これに触ったら絶対に面倒なことに巻き込まれるんだ。なんか封印されている魔王とか出てくるんだ」


 もはや親の顔よりも見た展開。テンプレの王道。こんな見え透いた本に触るわけがない。さすがのアホの子と言われて16年のわたしだってわかる。というかさっきからなんか邪悪なオーラが出てる。さて、そうと分かれば早くこの場から脱出してさっさと学園に退学届をジジィに叩きつけよう。そうしよう。


「とりあえずこの謎にある本棚を登って足滑ったぁ」


 フラグを回収しました。と何処かで声が聞こえた気がした。結構な高さから滑ったわたしは、そのまま本に向かって落ちていき、そしてそのまま本に触れた。

 バキバキ! と音が響く。ちょっと触れただけで鎖は完全に切れ、本がひとりでに開かれた。わたしの背中は強打したまま展開は勝手に進んでいく。いや、ちょっと……。


「えぇ……封印よっわ……」


 ****


 そして1話に戻る。邪悪なオーラを発しながら出てきたのは、完全に悪魔っすね自分、と言わんばかりの存在。わたしの知る悪魔像とは若干違うけど、間違いなく悪魔のそいつは、その圧倒的な魔力を振りかざし嗤っていた。


 そしてわたしは泣き叫んでいた。


「おんぎゃあああああああ!! あああああああ!! あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”!!」

『えっ……ウルサッ。というか泣き声ブッサ』

「ごろ”ざな”い”でぇ”ぇ”ぇ”!! もうすぐで妹が生まれるんでずぅ”! この年で妹が生まれるということで知りたくない両親の仲の良さを知るけど、妹がぁ!」

『やめろ、そういうのはまだ知らないやつがいるんだから。というかうるせぇ!』

「なら優しくしてください……暖かい毛布とココアをくださいぃぃ……」

『こいつふてぶてしっ!』

「あ"あ"あ"あ"あ"あ"――」


 閑話休題。


『おい、ココアはもういいか?』

「ばい……騒がしくでずびばぜん……美味しいです。ズルッ」

『なら……ゴホン、貴様がこの私を解放したのだな? まずは礼を言おう。だが』


 スッと悪魔の目が細まり、先程のような威圧感が生まれる。その魔力は解放されたとき以上に強くのしかかってくる。とりあえずカップ落としそうだからおいとこ。


『貴様もあの者たちと同じような気配と魔力を感じる。非常に薄いがな。となれば、私が貴様を生かしておく義理もない。しかも貴様は光魔法の使い手、非常に厄介な存在だ。ここで』

「待ってください!」

『今度は何だ!!』

「なんでヤギの角じゃなくて東方にいる鬼と同じ角が生えているんですか!?」

『私に東方の血が流れているからだ! だから混じってるの! そろそろシリアス戻っていいか!?』

「死にたくないからヤッ!!」

『物語が進まねぇんだよこのアホ!!』


 くっ、メタいことを言われてしまったら黙るしかないじゃない。でも教えてくれるこの悪魔はきっといい悪魔だ。そう思っていた瞬間、わたしの後ろにあった本棚が崩れ、頬に生暖かい液体が流れた。


『外したか。やはり封印から解放された後だと魔力の練りが甘いなぁ』

「――」


 数センチずれてたら頭がふっとばされていた。そこでアホなわたしはようやく悟る、これこのままだと殺されちゃう。


「っ、死にたくなんて、ないっ!」


 抜けていた腰に力を入れて走り、魔法を錬る。けれども練ったはずの魔力は離散し、魔法が発動できなかった。じゃあどうやってあの悪魔は魔法を発動できたの!?


『ふぅむ、なるほど。ここにはどうやら封魔鋼が練り込まれた厳重な檻となっているようだな。……そこまでして私を綴じ込めるか』


 だが、と悪魔はにやりと厭な笑みを浮かべて魔法を錬られていく。黒い水がなにもない空間から湧き出て、そして硬質的な輝きとともに剣と変わっていく。水の剣だって!? めちゃくちゃかっこいいじゃん。


死水刀しすいとう。私ほどの魔力があれば、封じられる以上の魔力を練り魔法を発動できる。さて、覚悟はいいな小娘』

「あと200年待っていただくことは?」

『どれぐらい長生きするつもりだ。人間やめてるだろそれは』


 そうして、チート魔法使いである悪魔との決死の鬼ごっこが幕を開けた。


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見ていただきありがとうございます! 次回の投稿は来週の月曜日、18時です! 

基本投稿日は月・水・金の3日です!

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