第3話「その悪魔、シリアス失格」
わたしの知る鬼ごっこってのはさ、夕暮れの公園の中、みんなで親が迎えに来るまでタッチしたりされたり、転ぶことはあっても安全な遊びなんだよ。決して剣が顔をかすめたり、殺意マシマシのウォーターボールが飛んできたりすることはないんだよ。まぁわたしに友達なんていなかったんだけどねハハハハ!
「だからもうゆるじでくだざーい!!」
『それはこっちには関係ねーだろうがよ!
「危ない!!」
軽い魔法で塔が崩れかける。これで封魔鋼の影響を受けているなんて冗談じゃない。そして鬼ごっこの鬼がそんな悪魔だなんてもっと冗談じゃない。こいつ悪魔じゃなくて鬼だ。鬼悪魔だ。けどこのままじゃ、殺られてしまう! でも魔法使えないんだったらどうしようもない。つまり詰み!!
「って、あら?」
『! あの小娘、魔法が』
ただのヤケクソだった。そのヤケクソの魔力が手の中で溢れている。鬼悪魔が嫌そうな顔をしているのを見つけ、ようやくわたしは転機が来たことに気づいた。
『封魔鋼の檻を壊しすぎたか。チッ、流石に遊びすぎたな』
そうか! 今までの攻撃で建物が壊れかけたから使えるようになったのか! これはラッキー! 光魔法はこういう悪魔とか鬼とかの弱点だったはず! つまりどっちの属性も持つやつにはこれで勝てる!
あふれる魔力と魔法が手のひらから溢れていく。まばゆい限りの黄金の光が段々と強く……。いや、強すぎない? ちょっとまって、わたしこれさっきから見てて……っ。
「ああああああ! 直視しすぎて目が潰れたーー!」
『アホかお前ーー!!』
目が、目がぁあああああ! と思わず目を手で抑えたわたし。光が溢れて仕方ないゼ! と言わんばかりの光魔法。直撃する攻撃ならぬ光撃。あああああ!!! 太陽を見たときと同じみたいになってる! 目が痛い!! あっ、目が落ちた。
「あ、あ、目が、目は落ちていませんか……?」
『いや落ちて……あった。ほら慎重にはめろよ。ズレたらイタタだぞ?』
「うっ……は、はまった……」
まだ黒いもやもやってした物が視界に。あのほら、太陽見た後のあの黒いもやもや。あれが視界を全体的に塞いでいるからどうなっているか全くわからないけど、多分この背中さすっているの鬼悪魔さんだ。間違いなく。
何この状況。
『というか光魔法は最強の魔法属性なのに、めちゃくちゃ有利な状況になったのにお前……。自分の魔法で目を潰すとか本気でアホなんじゃねぇの?』
ぐぅの音も出ないとはまさにこのこと。もう何も言えないよ。なんとか、なんとかしないとなんか、もう、何もかも駄目になる!
「……さぁ、ラウンド2と行きましょうか!」
『仕切り直してんじゃねぇよ。いや、もういい。見てて哀れだ。というかやる気なくした』
「え、じゃあこのやる気に満ち溢れた魔力はどうすれば?」
『食べれば?』
「人間やめてないわ」
といったものの、正直このまま戦えるかどうか分からなかったので助かった。いや本当に。だってわたし攻撃魔法とか習ってないもん。ずっと補習しかしてない。でも何もしないのも正直気まずい。話すことって何? いい天気ですねって鬼悪魔に言えるやついる? いねぇよな? だって、コミュ障だもの。カンナ。
「ぃい天気……デスネッ」
『お前悪魔相手に何言ってるんだ? アホなのか?』
ほらねぇ〜〜! アホだってねぇーーー!! うっ、もう死のう。
『んなことよりお前、死相が出てるぞ』
「え? 思想? 宗教か何か? すみません、神様は都合の良いときにしか信じていません。怖いもの見たときとか!」
『誰が怪しい勧誘だ。違う、死相だ。つまりお前の顔全体が死にそうってことだ』
「死相の意味はよくわからないけど、そうじゃないことだけはわかる」
なんだ顔全体が死にそうって。失礼にもほどしかないでしょ。けど、つまり何? わたしは死ぬってことなの? 今助かったばかりなのに?
「いやぁああああ!! 死にたくないーーー!!」
『うるっさい!! 喚くな小娘!!』
「でも死相って死ぬってことでしょ? 騒がないはずがなくない!? だって死ぬんだよ!?」
『……たしかにな。ふむ……』
長考する鬼悪魔は、わたしをじっと見つめていく内にだんだんと口角が上がっていく。なんだろう、たしかにずっとここに来てから嫌な予感しかないけど、今回はさらに嫌な予感しかしない。もうお家帰りたい。
『いいことを思いついた』
「お断りします」
『まだ何も言ってねぇだろうが聞け』
「はい」
勇気と希望を振り絞ったわたしの渾身の拒否を、優しさのかけらもなく捨てる眼の前の鬼悪魔は悪魔だ、鬼だ、その通りだうへぇん。
『お前、この私と契約しろ。そしたら私が守ってやる』
「え……え??」
なんかわたし、いつの間にかさっきまで殺しにかかってきた悪魔と契約されそうになっているんですが。とりあえず保険に入らなくていいみたいってことだけはわかった。
****
静かで穏やかな緑の庭園には、様々な花が咲き乱れる。しかしその咲き乱れる花たち。それらすべては貴重故に栽培の難しい花ばかり。その花を、道端で見つけるような雑花と同じように見る男のそばに、何者かが近寄った。
「陛下。シーレント学園に封じられた悪魔が解放されたかもしれません」
「……なんといったか? あれはそう簡単に解けるものではない。あれを封じていたのは魔導書であるグリモワールじゃぞ」
「ですが確かに封は破られ、悪魔は解放されています」
「…………そうか」
美しく咲き誇る大輪の花は、男の手によって潰され見るも無惨に散っていく。花弁が地面の土をつけて悲しくうなだれた。
「早急に、手を打たねば」
序章の音が、静かに鳴り響いた。
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