第41話「巨大迷宮『栄華の夢魔』 最終」
カンナ:よくある修行の最後の敵は師匠という展開に白目をむいている。最悪だ!
アオ:まさか自分が出てくるとは。勝てるかな〜?
ネネ:このどぐされ悪魔をどう始末するか頭をフル回転させている。いいでしょうやってやるわよ!
ヴァン:本当に最悪の敵すぎて心労が凄まじい。殺したい、この悪魔。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
前回のあらすじ。ダンジョン最後の敵はアオのコピー!? 一体どうなる!
「い、いやいやいやいやいや無理だから!!」
今の今までだって結構無理な魔物だったよ? でも心のどっかで勝てると思ったから戦ったわけなんだよ。でも今回の敵に関してはおかしいから! 誰が勝てるかあの鬼悪魔に!!
「なんだよ、勝てる敵じゃないと戦わねぇのか?」
「一般的な回答をするとだね、普通の人は命を賭けてまで負けるとわかっている戦いには参加しないもんだから! 絶対に嫌だ!」
「たく、ワガママだな」
ワガママじゃないです〜。普通の人代表としてわたしは自分の命が一番だと叫んでやる!
「たかが実技補習のために命は賭けられません! 命、大事に!!」
「……ん? それもそうか」
敵を前に何を呑気な会話をしているんだと、頭の片隅で思いながらもわたしは自分の安全のために全力の抗議をアオにする。そのかいあってか、このダンジョンに来た意味を思い出したアオが顎をさすった。
「じゃあこうするか。そいつに10分間生き残れ」
「んな、10分も!?」
「これ以上は譲歩しない。それに、マインドミラーは私の強さそのものを忠実に再現できるわけじゃない」
「?」
「言っただろう? マインドミラーは敵対した相手の記憶を読み取るって。つまりそいつはお前らが記憶した私の強さしか知らない」
アオの言葉にわたしは首を傾げる。えっと、つまりどゆこと?
「つまり、私達の前で見せた実力程度しかあの魔物は再現できていない。本気を知らないということ?」
「そゆこと、さすがネネ。お前らが見たことある技しか出さないから、今すぐ死ぬ! なんてことはない。安心して戦い生き残り給え」
いや、それってつまりわたしが今まで見ためっちゃ強いアオの魔法がバンバン出てくるってことでしょう? 十分死ねるが?
「さ、来るぞ。対策を講じながら10分間頑張れよ」
****
アオは言った。対策を講じながら10分間生き残れと。その言葉にわたしは是非ともこう言い返したい。
――できるかい! と。
「来るわ! カンナ避けなさい!!」
「! あ”〜もう!!」
ネネの声にわたしは悪寒の走るような嫌な場所から急いで飛び避ける。その瞬間飛んできたのは水の刃だった。
『
「相変わらずとんでもない威力だよ! そこも忠実ってわけか!」
わたしがさっきまで立っていた地面に大きな切れ込み。砂場にスコップを入れ込んだように大きな亀裂が入っている。間違いなくそれはアオが使う水魔法デットライン。マインドミラー、思っていた以上の再現率っぷりにわたし達は完全に苦戦していた。
「違うところといえば、表情がないってところね」
「それで勝てる見込みってありそう?」
「たった2分でこんな有り様。表情一つの違いがわかったところで逆立ちしたって勝てないわ。勿論、生き残ることも」
硬い表情で真実を言うネネに、わたしも頷くことしかできない。あんなに綺麗だった部屋がもう見るも無惨に変わってしまっているのだから。まじまじと見ても無事な場所がどこにもない。
「というかあんなに魔法を使ってなんで魔力切れを起こさないのっ」
「それは、ここがダンジョンだからよ。魔物とダンジョンはつながっている。ダンジョン自体、膨大な魔力の塊、澱のようなものでできているから考えられないほど魔力があるのよ」
ネネが言うには、魔物とダンジョンはつながっていて魔力供給もダンジョンが各魔物たちにしているらしい。そんな莫大な量を持つダンジョンの最下層に居るラスボスなら、その魔力量は無尽蔵と言ってもいい。
「じゃあ魔力切れ狙うのはやっぱり!?」
「不可能ね! その前に私達との決着がつくかこっちが魔力切れ……よっ!?」
「お嬢様! 広範囲攻撃が来ます!!」
『デット・サーペンド』
どでかい水のヘビがわたし達を襲う。そう、ただでさえアオの攻撃は厄介そのものなのにこのマインドミラーは魔法の応用技を使ってくる。つまり進化しているのだ。これ以上戦いを長引かせたら確実に手に負えなくなる。
「10分生き残るとか無理ゲーもいいところじゃん! アオのバカ!」
「バカとは何だバカとは。生き残るのが無理なら頑張って倒せ。額の魔法石っていうもろ出しの弱点さらしてんだから勝てるだろ」
「そこまで届いたらの話でしょうが!!」
確かにマインドミラーの額に見える赤色の石。それが弱点だとこっちをのんびり見ているアオが言う。隙なんてどこにもないのにどうやって……っ!
「……そうか……カンナ!」
「うえぃ!?」
「ライトボール改を私の合図でアイツに向けなさい!」
「ま、まさか倒す気なの!?」
「ここまで言われて勝たないほうがおかしいでしょ! 絶対にぶちのめす!!」
いやだぁ、ネネさんが大変やる気になっていましてよ。お嬢様の皮が剥がれてますよ、ステイ! ステーイ!
「この勝負、私達が勝つ!」
「あ、駄目だこれ強制参加だ」
ほんと、このメンバーはわたしを本当に無視するんだから。わたし一応ヒロインですよね?
****
隙の無い敵。無尽蔵の魔力。人間を超越した肉体。空を切る黒い翼。全くもって敵として最悪で、相手にしたくもない相手。それが私達の前に居る。
「一見すれば無理ゲーよね、アオと戦うのは」
「それで、わたしはそれまでに何をすればいいの!?」
「派手に逃げて! 敵の注意を引き付けなさい!」
「なるほど、死ねって言うことね!」
今まで戦ってきた経験で、少しわかったことがある。魔物はカンナを必ずと言っていいほど執拗に狙う。きっとカンナの魔法である光魔法が原因と思われる。でなければ、カンナが狙われる理由がない。
「うぎゃああああああ!! 来たぁああああ!?」
『デット・ライン』
そして、このマインドミラーについてわかったことがある。こいつは、技の組み合わせをすることはできるが基本的に知能はない。本能で動いているのと一緒と見た。中身まではコピーできなかったのかもしれない。でなければ、アオがこんな単調に動くわけがないだろうから。
「ヴァン」
「はっ、ここに」
「カンナとともに動き、魔物を撹乱させて。アイツは魔力で人の動きを追っている」
「ではそのように」
さて、これで時間稼ぎはいいでしょう。あとは、あのマインドミラーの隙を狙うだけ。
「あ! ヴァンぐぅーーん!!」
「走ってください、カンナさん」
『千先・幽界渡』
マインドミラーはアオの能力をすべて引き継いでいる。ただし、私達が記憶している中の技という制限があるけども。そしてその技を好きなだけ、そして威力も桁違いに繰り出すことができる。そして核を壊さない限り、他の魔物同様決して死ぬことはない。十分すぎるほどの脅威と言えるだろう。
しかし、だからこそマインドミラーは倒すことができる。
「戦いというものを、教えて差し上げますよ。空人形」
私達が一体誰にこの半月鍛えられたと思っている。悪魔も悪魔、二百年の間も発狂するような鍛錬を積み続けてきた化け物。
アオから教えられた戦いの極意を、今ここに。
****
「よっと、さーて後5分だが彼奴等は生き残れるかなぁ?」
ボロボロに崩れた壁だったものの瓦礫の上で横になっているのはそう、みんな大好きアオ様だ。彼奴等に課した10分の生存、ここぐらいが最低ラインだがまさかマインドミラーがコピーしたのが私だと思わなかった。最悪の敵って、強いって意味だよな?
「ん? お、もしかして彼奴等倒す気か?」
暇すぎてお菓子食べようとしていた私だったが彼奴等の雰囲気が変わったことでその手を止めた。どうやら10分待たずに倒す気らしい。勇ましいし元気だな。カンナ泣いているけど。
「ふんふん、あの状況ならカンナは囮兼足止めって言ったところか。まぁ妥当だな。ヴァンがいれば最悪はなさそうだ」
作戦的には、カンナが敵を引き付けて注意をそらす。ヴァンはその補助と下準備。仕留め役と直接対決はネネという感じだな。カンナの光魔法は魔物にとって脅威だが、練度はまだまだだしな。仕留めるならネネだろう。
と考えているうちに事態は動き始めた。下準備を終わらせたヴァンがカンナを抱えて全力で敵から逃げ始めたのだ。
「なるほど、袋小路か」
マインドミラーを中心として、大きめの瓦礫が三方に置かれている。そして左右に配置された部屋にあった大きめの鏡2つ。それを障害物としてヴァンが騒ぐカンナを抱えて派手に動いている。
『デット・サーペンド』
「うわぁああああ来たぁあああああ!!」
一際大きい衝撃と魔力の塊。どうやらマインドミラーも苛つき始めているのか一気に仕留めにかかってきたようだ。ド派手に一発かましちゃってまぁ……。
「ハッくだらん……。にしてもネネの姿が見えねぇな。となると」
「カンナ! 最大火力で光魔法を放ちなさい! 上に!!」
「うぇはい!!! ら、ライトボール・改!」
ネネの声に反応したカンナが上に向かって巨大な光の玉を飛ばす。あまりにも強いその光で目がくらんだのかカンナが顔を手で覆ったのが見えたが、それは敵も同じ。配置されていた鏡によって光が収束、マインドミラーにちょうどぶつかるようになっていたようだ。それがなくともこっちにまでとんでもない衝撃が頭上から降って来ているというのに。鏡の中心にいるマインドミラーからしたらまるで地下に上がった太陽だろう。
「アンチ・マジック!!」
しかしそれも、聞こえたネネの声で消えていく。光が急に消えて眩んでいた目は完全に潰れた。突如現れた闇は感覚を狂わせ、防御するために動くはずの次の動きを封じた。
当然それは、反撃する暇すらも。
『でっと』
「随分隙だらけね、これでしまいよ」
闇の中から現れたネネはいつの間にかマインドミラーの懐に潜っていた。その手に握られていたのは短剣と銃。マインドミラーの反応はあまりにも遅く、魔法は全く練れてない。そりゃそうだ。無尽蔵に魔力を使えるとはいえ、あんな大魔法を使ってすぐに魔法が使えるわけがない。ネネはその弱点にしっかり気づいていたようだ。
「
短剣で四肢を切り裂き動きを封じ、核に一発。マインドミラーの額にあった魔石は完全に粉々にされた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます