第42話「それは、眠れる迷宮の」
カンナ:目が眩んでいる間にすべてが終わっていた。わたし、活躍、ほしい。
アオ:まさかここまでやれるとは思っていなかった。流石は最凶の女。
ネネ:あれぐらい余裕よ。次はあなたの番よアオ。
ヴァン:お嬢様のためならばどんなことでも。ちょっと活躍できて嬉しい。
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前回のあらすじ。ネネの初火魔法登場でマインドミラーの核の破壊に成功!
マインドミラーの核が散り、魔物は動きを止めた。
「はぁ……はぁ」
マインドミラーは視覚でもそうだけど魔力で人の位置を把握する。だからカンナに最大出力のライトボールを出させて魔力探知を乱した。その間、私は魔力を完全に抑え込んで瓦礫裏に隠れてマインドミラーが大魔法を使うまで待機。狙い通りマインドミラーがカンナに向けて魔法を使い隙を見せた。
「アオじゃなければ、たとえ同じ魔法が使えていても敵じゃないわよ」
マインドミラーはアオの能力を完全にコピーしているけど、アオの強さの本質を理解できていなかった。アオの強さの本質は諦めの悪さと敵が本当に嫌がることを全力でするその性根の悪さにある。その悪知恵が無いのであれば敵ではない。
「え、え? なに、何がおきたの? マインドミラーは??」
「はあ、終わりましたよカンナさん。お嬢様が仕留めました」
「え!? ほんと!」
さすがカンナ。未だに目がくらんで何もわかっていないみたい。実はとんでもない大物ではないだろうか?
「全く、でもよく」
『デット・ライン』
「「「!?」」」
ガタガタと壊れた人形が動くような音ともに聞こえた、硬質的な声。目の端にいたのはたしかに私が倒したはずのマインドミラーだった。
完全に敵の攻撃の範囲内に入ってしまっている。まさかまだ倒しきれていないなんて。いや、それよりもこの位置はまずい。良ければカンナに攻撃が。しかしこのままではっ……!
「しまっ」
「――はーい、そこまでだ」
『ッ!』
ガキンと刃物同士がぶつかる音が響き、私はアオの腕の中にすっぽりと覆われていた。ほんと、いつもタイミングのいい悪魔ね。
「死にぞこないが。てめぇの番は終わりだ、端役は退場してもらおうか――デット・ライン」
本物の太刀筋の美しいこと。全く何がコピーか。全く別物じゃない。
『……』
ガシャンと音を立ててマインドミラーが魔力の粒子となって散っていく。アオ、あなたのほうがよっぽど強いわ。
「……このカッコつけ。マインドミラーが倒して切れてないことわかっていたのでしょう?」
「はは、まぁ最後まで油断すんなってことだよネネ」
「何が起きたんだ……わたしをおいていかないでぇ」
「……ふぅ」
たったの一撃でマインドミラーを倒しきったアオは、静かな笑みを浮かべて瓦礫の上に立っていた。
****
「はーい、ダンジョンクリアおめでとー。これで魔法実技の再試は問題ないだろう。どうだった? 実際に魔法を使った戦闘は」
「頭おかしいと思いました」
「先生を二度とやるんじゃないわよ、アオ」
「全てにおいて巻き込まれた。お覚悟を」
「全員感想おかしくね?」
何がおかしいのだろうか。何もおかしくないよこのアホ鬼悪魔め! 最後の最後にとんでもないやつと戦わせて!
「本当に死ぬかと思った!」
「死なないように私が居るんだから最悪なことは起きねぇよ。……さて」
崩れた部屋の中をまっすぐとアオが歩く。出口であろう扉を素通りし、アオはまた何の変哲もない壁に手を当てた。
「そろそろ、ここに来た理由でも話でもするか。ご褒美にな」
「ここに来た理由って、実力を図るためじゃないの?」
「そんなことでこんなところ来ないし、実力を図るだけなら50階層ぐらいで十分だろ」
え、そうなん? ……そういえばアオの昔話ついでここでしかできない話をするためにここに来たんだった。うん、別に話は聞きたくないかな。巻き込まれたくないし。
「よーしそうなれば今すぐここから帰ろう! ね!」
「レッツゴー!」
「本当にわたしの意見も聞けよ鬼悪魔ぁああああああ!!」
アオがいつの間にか開いた隠し扉にアオが入っていく。……いつの間にか水縄でわたしを縛って。ぽっかり口を開けた暗闇はそのままわたし達を吸い込んでいった。
「――さて、この間話したのは国が滅んだ理由だったな」
「ええ、そういえば聞くのを忘れてしまっていたのだけれど。その時の王家は何も対策しなかったの? されるがまま?」
確かに。されるがままで国を滅ぼされるものだろうか? いやわたしが何か分かるわけでもないけど。
「する暇がなかったって言ったほうがいいかもな。それぐらい用意周到だったし、それぐらい一瞬だったんだ。だが、それでも時の王家は抵抗した。……小さな抵抗だったし、すぐに意味をなすものではなかったがな」
話しているうちに階段の材質が一気に変わる。大理石のようなきれいな床と壁。そして明るい光に包まれながらその扉は顔を出した。
「ここは」
「ここは、王家の間だ」
「は!?」
大きい声で驚くわたしと、声なく驚く二人。いつもと変わらないのはアオだけだった。混乱するわたし達を横目に開かれた扉。その先にあったのはガラスで作られた棺だった。
「そして、その棺の中にいるのが王家のせめてもの抵抗……時の王太子だ」
その中で眠る褐色肌の美青年に、アオはそう言った。え、今なんて?
「おう……じさま?」
「名前をレオン・ハイド・ノーブル。ブレンスノーブル王国の正当な王太子であり、――今は亡き亡国の王子だ」
****
「これは、死んでいるのかしら」
棺の中で横になっている王子様を見ながらネネが生存の有無を聞く。滅んだ国の王子様なら、ここに居たのは二百年っていうことだ。生きているとは言えないかもしれない。
「生きている。寝ているだけだ。……祝福でな」
「! 祝福ですって?」
「え、なにそれ? 祝福って」
「魔法とは違う人智を超えた力です。祝福は他人の命を代償に発動する呪いと違い、祝福は術者本人の命を犠牲に発動する。それ故神の力とも言われています」
え、つまりこの王子様がずっとここで眠れていたのは、王子様を眠らせた人の命を代償にしたっていうこと。それは、まさか。
「カンナに頼みたいことがある。光魔法でこの王子にかかった祝福を解呪してくれないか?」
「う、うん! ……ええ!? わたしが!?」
「祝福も呪いも本質は同じだ。術者と代償が違うだけでな。そして光魔法は魔を払う。光魔法は、こういうのを解呪するのに向いてんだ」
アオの言うことにわたしは慌てる。いや、分かるよ? でもわたし一回も解呪したことがないんだけど!
「大丈夫だ、もう随分と術がもろくなっている。お前の魔力を流すだけでも簡単に解呪できるさ」
「で、でも」
「頼む、カンナ。お前にしかできない」
うう……アオがそう言うならできるのかな? 初めてここまでアオにお願いされたし、取り敢えず魔力を流すだけならとわたしは王子様の近くに来る。
「……綺麗な人」
近くで見ればあまりにも美しい顔に思わずそんな言葉が出てくる。こんな人が、ずっとここで眠らされていたなんて。
「……よし、やるよ」
そうして王子様の体に触れながら、わたしは魔力を流した。
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これにて3章おしまいです!
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