第10話「その二人、友情失格」

「アオ……どうやってここに……」


 そういえば、よく考えればここにアオがいるのがおかしい。だって魔力を追って探そうにもわたし封魔鋼の手枷付いてるし。後タイミングめちゃくちゃ良かったところも怪しい。


『まぁ、探すのにはかなり苦労したぞ。ただその男、移動魔法の痕跡の消し方が甘かったからな。そこから何百メートル離れた場所か魔力量である程度わかったし、あとはそこ近くで人目が少ない場所。隠れ家、廃墟を虱潰しで探しただけだ。後タイミングは別に狙ってない。まじで本当にギリギリだった。なんせ契約紋でも追うのが難しかったからな』

「えっ……」


 そんなに苦労してわたしを見つけたの? だって範囲はわかっても方角だって、細かいところまでわからないはず。それなのに、この短時間でそれ全部を調べ尽くしたっていうこと? そんなの。


「めっちゃ脳筋のやり方みたい」

『シバかれてぇのか小娘が。助けに来てやったんだから感謝しろや』

「いや、そもそもアオのせいでこうなったんだから! 全部、アオのせいだからァ!!!」


 なんでわたしが礼儀知らずみたいになってんだ! アオがいなかったらこうなってないわ! と怒るわたしに、またアオが嫌味なことをいうか呆れた顔をするか、それまた聞かないフリをすると思っていた。

 そう、思っていたんだけど。


『……そうだな』

「え、アオ……?」


 あまりにも素直に肯定するその言葉に驚いてわたしはアオの顔をまじまじと見つめる。そこにいたのは、悔しそうに顔を歪めるオアが立っていた。


『私がいなきゃ、お前はこんな事に巻き込まれてなかった。済まない』


 頭をまっすぐ下げるアオは、見たこともないほどしおらしい態度をしていた。よくよく見れば、髪がいつになく乱れているし服だってかなり乱していた。自分の格好すら気にする余裕がないほどの速さで、ずっとわたしを探していたんだ。

 アオが顔を上げ、わたしの手枷を持ち上げる。バキィ! という破壊音とともに粉々に壊れた手枷を投げ捨てるアオの顔は本当にしおらしい。行動は恐ろしいのに。例えるならそれは、いたずらして怒られた後の子犬のような顔だった。


 いや、天上天下唯我独尊の鬼悪魔がなんて顔してるんだ。


「〜〜っもういいよ! 許すよ! こっちも色々言ってごめん! だから、もう仲直り!!」

『……カンナ』

「それと……助けてくれてありがとう!! 本当に嬉しかった! めっちゃカッコよかったよ! 騎士みたいで!!」


 本当は、アオが来てくれたことですごく安心していた。だって、しょうがないじゃん。あんなにかっこよく助けてくれて、一瞬で敵を倒したんだから。こんなのカッコイイと思わないほうがおかしいじゃん! 惚れたっておかしくないよ!

 でも、でもわたしは……っ。


「でもごめん! タイプじゃないんで!!」

『は?』


 そう、ここでラブアンドストーリを期待しているみんなには申し訳ないけど、タイプじゃないんです! わたしは褐色白髪の包容力たっぷりのイケメンがタイプなんです! だからどんなにかっこよく助けられても意地悪なアオのことは好きになれません! ごめん!


『……こいつやっぱり変な勘違いしてやがるな』

「え? なんか言った? っていった! なにすんだー!」


 ポツリとつぶやいたアオの声が聞き取りづらくて、わたしは顔を寄せる。するとアオの長い指が近づきそのままわたしの額にデコピンをかました。わ、割と痛い威力なんですけど!!


『こっちだってお前みたいなアホなんぞ願い下げだっつーの。乳臭いガキが』

「誰がおこちゃま体型のたぬき顔だって!?」

『言ってねーよ』


 痛がるわたしに、にやりと意地悪な笑みを浮かべるアオ。様になるようなその姿に思わず見惚れ……ないな! 本当に痛いデコピンなんだけど! 後からじわじわくる!


『カンナ』

「なに!?」

『此処から先も、私のせいで巻き込まれる事件がいっぱいあるだるし、元凶が何いってんだとも思うだろうけど……。これだけは覚えておいてほしい』


 真剣なアオの表情にわたしは押し黙る。膝をつきわたしの手を取るアオの姿が、まるで忠誠を誓う物語の騎士のようだった。


『カンナを守るのは私だ』


 天上天下唯我独尊で、横暴で、暴君な鬼悪魔アオ。そのはずなのに、執事服のような服を着ていたアオが、灰色の空から入ってくる太陽に照らされたその一瞬だけ…………――長い髪の騎士の姿をしていた。


「え……」

『それだけだ。じゃ、帰るぞ。ぽけっとしてるんなら置いていくからな』

「ぅえ!? ちょ、待って!! この状況で普通置いていこうとする!?」


 立ち上がったアオはいつもの姿をしていた。黒い羽も、黒い角も確かにあったし、そもそもアオの髪は短い。……何だったんだろう。さっきのは。


「まぁ……いいか」


 結局、契約を破棄しようとしていたことも忘れわたしはアオと一緒に学園に戻ることにしたのだった。


 ****


「あ! というか今すぐ人間に擬態して!」

『チッ、鬱陶しいな。はいはい』


 学園前まで空を飛んで来たわたしは、空の散歩でテンションが上っていたが思い出す。アオの姿が、羽も角もバッチリな悪魔の姿であることに。そういや擬態が解かれちゃってる!


「――そういや、なんでお前外にいたんだ?」

「え?」

「家があったっていうことはお前その中にいたんだろ? 脱出したのか?」

「え? ……あっ」


 擬態し終えたアオがわたしに振り返り、キョトンとした顔でさっきの状況について聞いてきた。それでわたしもああなった理由を思い出す。

 ……そういえばあのとき、アオがひどい目に合うかもって逃げ出したんだ。でもこれ言える? この場合、理由を言ったらなんて言われる? 「お前危ねーだろうが。私が来るまで大人しくしてろよ」かな? それとも「ハッ、なんだやっぱり実は私が好きなんじゃねーか? このアホ女」か? いやもうこれ後者でしょ。


「そ、それはぁ……」

「まぁいいか、無事だったし。二度目はないしな」

「え」

「怪我なくてよかったよ」


 そう微笑むアオ。言わない場合を考えてなかった。まさかそのパターンが有るなんて。いや、あの鬼悪魔がずいぶんと優しい反応をするなぁ。いやいや、はは、実はアオがわたしのことが大好きなんじゃないのってね!


「おい、顔真っ赤だぞ。大丈夫か?」

「〜〜っそんなわけ、ない!!」

「ぶっ!!」


 覗き込むアオに、わたしは頭突きをかます。受け身を取らず、避けもしなかったアオの顔面にわたしの頭突きが綺麗に入った。


「てめぇ!! 何しやがる!」

「べーっ! ザマァ!!」

「このっ、待てやこのクソガキぃ!!」


 逃げるわたしに怒るアオが追いかけてくる。多分、アオはこれからもわたしのそばにいると思う。何でかはわからない。何をそうさせるのか、何を考えているのかも理由もわたしは知らない。けどどこかで、こういうのが続いてほしい。



 そう、思っちゃったんだ。



_____________________


これにて1章完結です! ありがとうございました!

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