第34話「そのヒロイン、ダンジョンに向かう」

カンナ:シリアスな空気を察知。空気になることにした。

アオ:嫌な予感があたっちまったぜ。さてなんて返そうか。

ネネ:決して流されることも、騙されることもなくってよ。真実を聞こうじゃない。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 前回のあらすじ。ネネがとうとうアオの秘密に迫るらしい。


 ネネの言葉にアオの雰囲気が変わる。なんというか、ピリッとしたような居心地が悪くなるような、少し怖い雰囲気。感じるそれは間違いなく、シリアス展開!


「はい! 先生!」

「何でしょうカンナさん」

「わたしは黙っていたほうがよろしいでしょうか! それとも全力でヒロインムーブをするべきでしょうか!」

「うむいい質問だ。そのまま黙っていなさい」

「了解であります!」


 ビシッと、敬礼ポーズをとってわたしは空気と化す。その間もネネの目は射抜くようにアオを見ているし、アオもそれを受けるように冷笑を浮かべていた。


「さて何だっけな? 私のスリーサイズの話か?」

「今この状況でふざけたところで、あなたになんのメリットもないのよ。アオ」

「はぁ……やれやれ、妙なこと調べやがって。人の秘密を調べようなんていい趣味じゃないか?」

「あなたは人ではないでしょう? それに、二百年前は空白の歴史。その時代にあなたがいたという証言はすでに取っている。この空白の歴史とあなたは無関係じゃないのでしょう?」


 バチバチににらみ合う二人。どうやら話的には、アオが居たとされる二百年前はわたしたちには空白の歴史とされているけど、その理由にアオは密接に関わっているのではないか? ということのらしい。と言うかその証言って間違いなくわたしの男色文化だよね。あれ? まずった?


「どうだったかなぁ? んな昔のことかけらほども覚えてねぇや」

「あくまでも白を切るつもり? では言ってあげましょうか? アオ、あなたが自分の過去をあまり話したがらないのは、この国が原因だからって」

「……」


 そう言えば、この国トーラ王国の建国時期も確か200年前だって言う話だったような。そんで、200年前にアオはこの国に居て……そんで? どういう意味だ?


「……はぁ、そんなに人の過去話を聞きたいかねぇ」

「話す気になったのかしら」

「話す気も何も、話さないと離してくれなさそうだし。そこにいるアホ娘は考えすぎて頭がショートしそうだしな」


 ンへぇ、何がどうなっているんだ? 分かんない、わかんない。……そう言えば今日の晩御飯ってなんだっけ?


「おいカンナ帰ってこい。もう参加していいぞ。それと今日の晩御飯はサーモンだ」

「んハッ!! 一体、わたしは何を……。また魚かぁ、牛肉が良かった」

「文句あんなら晩御飯は抜きだぞ」

「いやだ! 許してください!」

「いいから早く話の本題に戻りなさい」


 話の本題に戻ろう。つまりアオは二百年前の歴史と密接している可能性がとても高い。だからこそ、アオの秘密を知ろうとネネは公爵邸に行ったというのがあらましらしい。アオの過去に、一体何があったんだろうか。


「んじゃまぁ、私の過去について話してやるよ」


 ****


 このトーラ王国にはダンジョンと呼ばれるものがある。旧文明の遺跡やらなんやらを取り込んで、巨大な財宝箱になっているそこは、夢とロマン溢れる場所という話だ。だがそんなダンジョンにも危険がある。そう、魔物と呼ばれる人界には決して存在しない怪物だ。


 魔物はダンジョン外では生きていけない。だから普通ではお目にかかることはないが、そのダンジョンの宝を手に入れるために危険を犯して探索する者たちがいる。それが冒険者。冒険者は己の身一つで夢とロマン。金銀財宝を手に入れるために日夜危険あふれるダンジョンに挑むのだった。


「で、そんなダンジョンになんでわたしたちは来ているんだぁーーー!!」

「ま、魔法修行の成果発表みたいな感じだな。大丈夫だ。お前なら最下層まで行ける」

「行けるかぁ!」


 そう、そんな超がつくほどの危険スポットに何故かわたしたちは来ていた。この鬼悪魔に連れられて。


「なんでアオの過去話聞くのに、こんな危険でデンジャランスなところ来ないといけないんだよ!」

「意味が重複してんぞ。あんな穏やかなところで語るにはちょっと恥ずかしいもん。ここならいいよ」

「もんって言うな!!」


 無駄に目をキュルキュルさせるアオにハリセンを振り回す。ちっ! 避けんな!


「カンナの言う通り、なぜここにつれてきたの? それにここはトーラ王国最大のダンジョン、巨大迷宮『栄華の夢魔』。最下層どころか10階層すらも攻略出来ていない未踏破のダンジョンじゃない」

「ふーん、今はそんな呼ばれ方してんのか。でもま、ここを突破しないとまず話が進まんのだよ諸君。というわけで、このダンジョンを一週間で攻略するぞ」

「「「一週間!?」」」


 この悪魔は何を言っているのかしら! いや本当に! 人の話聞いてた? 未踏破でこの国最大のダンジョンって言っているじゃん! それをネネもヴァンくんもいるとは言え素人みたいなわたしたちが行けるわけ無いじゃん! しかも一週間で!


「ま、正規のルートで行けば一週間で突破なんてまず不可能だ。というわけで、私達はこれから裏ルートでいく」

「裏ルート」

「まぁちっときつい道だけど、お前らの成果を確認するのにちょうどいいだろう」

「何が? 何がいいの? アオがきついって言ったところが正気なルートと思えないんだけど???」


 ドヤるアオに怒りを覚える。もう絶対に正気じゃない。絶対に頭おかしいルートに行くんだ。だってこいつ鬼悪魔だもん!


「一体どういう道なのかしら?」

「雑魚全無視階層ボスだけ倒して最下層に行こうぜルート」

「頭おかしいとちゃう!?」


 わたしという足手まといがいるなかで、なに地獄の煮凝りみたいなルートに行かせようとしてんだこの鬼悪魔は!!


「よーし逝くぞー。おやつは持ったか?」

「おい待て!! 今おかしな文字が見えたんだけど!? 逝くって言ったよね? 行くじゃなくて、逝くだったよね!?」

「ハイしゅっぱーつ!」

「人の話を聞けぇえエエエエエエ!!!!」


 わたしの抗議虚しく、こうして無理やり鬼悪魔による突発クエスト。トーラ王国最大のダンジョン、巨大迷宮『栄華の夢魔』を攻略することになった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る