第8話「その誘拐犯、油断につき失格」
いやぁああ”あ”あ”あ”!! こんな、こんなテンプレにわたし巻き込まれちゃったんですが!? よくよく考えたら喧嘩して分かれたその瞬間って、完全にこれフラグじゃないですかヤダーーーーー!! そりゃそうだよね!? だってわたしヒロインなんだからそりゃ誘拐されますよねぁああああああああ!!
「いやぁあああ! こんなのもうアオに顔向けできない! もう駄目! 囚われのお姫様しちゃったらもう駄目!! もう何言っても「お前誘拐されたんだから大人しく……私のそばにいろ(イケメンフェイス)(イケメンボイス)(顎クイィィ)」って言われちゃうじゃないですか! 恥ずかしい!! 誰か殺せぇえええーーー!!」
「うるせぇえええええ!!!」
誘拐された自分自身への恥ずかしさと愛しさと切なさで叫ぶ私。そんな部屋に入ってきたのは先程私を誘拐した黒フードさんだった。
「この人質、目が覚めた瞬間から騒がしくなるじゃん! もう外からメッチャクチャ響くわお前の声! それでも女か!? 女なら大人しくしてろ!!」
「ひょええええ!! 今の時代言ったら炎上ものをこうも大きい声で!!」
「やかましい!!」
「ヒェエエエエエエエ!! 殺されるぅーーー! もしくは同人誌みたいに乱暴されるぅうああああああ!!」
「おい待て待てそんなこと大きな声で叫ぶちょま――」
閑話休題。
「おい、もう落ち着いたか?」
「ぁい……騒いですみませんでした……ミルクティー美味しいです……」
誘拐犯からもらったミルクティーでなんとか落ち着いたわたし。この状況に酷くデジャブを感じる。前にも一度合ったなこれ。そんなことを思っているわたしに、わたし以上に冷や汗をかいていた誘拐犯は、やれやれとため息を付いてわたしの前でしゃがんで目線を合わせた。
「いいか、よく聞け。てめぇが大人しくしているんだって言うなら俺から何かをすることはない。あの悪魔が来るまで大人しくしてろよ」
「それは……」
「俺の狙いはあの悪魔だけだ」
つまり、わたしはアオのとばっちりを食らったってこと……? あの鬼悪魔ほんとにわたしの生活をめちゃくちゃに……って、まって。
「それ……アオはどうなるんですか? そもそも、一体どうやってアオの存在を知ったん、ですか……?」
「……お前が知る必要はない」
見下される、冷たい目。この目、見たことないけど多分、人殺しの目だ。
あ、これは駄目だ。このままじゃアオはこの人に殺される。いや、殺されなくてもまずいことしか起きないような気がした。コミュ障のわたしが他の人とこんなに話せているのは、こんな状況に過ぎないから。でも冷静になってきたら……めちゃくちゃこの状況が怖い。わたしがこの人の言った通り、無事でいられる保証がないのもそうだし何より、アオになにか酷いことが起きそうな気がした。
アオに、酷いこと……。
「とりあえず、お前に話すことはなにもない。いいからここで大人しく」
「……め」
「あ? なにか言ったか?」
「――それは……駄目!!」
この時を振り返って、わたしは本当にとんでもなく命知らずなことをしたと思っている。魔法は封魔鋼の手枷で使えない上に、戦う力はない。逃げるための足が速いだけ。なのに、わたしの体は勝手に動いていた。
「おりゃああああああ!!!」
「うぐっ……てめ、このガキ!!」
わたしは体全体を使って誘拐犯にタックルし、さっき誘拐犯が入ってきた扉を勢いよく体をぶつけて部屋から脱出する。後ろから男の声と、起き上がりそうな布の擦れる音が聞こえた。
「ハッ、ハッ!」
心臓がバクバク音を立たてる。緊張でもつれそうになる足を必死に動かし、古臭い家の玄関からなんとか脱出した。
「――あ? なんだ、お前」
「あ……」
外にも敵がいることにも、気づかずに。
****
タックルした誘拐犯と同じ格好をした男たちが5人。それら全員がわたしを見ている。急速に頭が冷えていく。この状況、流石にわたしだって分かる。
やばい。やらかした。確かに一人なんて、あの男は言ってない。
「なんでここに人質がいる? まさか、あいつしくじったか?」
「優しいからなぁあいつ」
「ま、ケツも青いからな。しくじることもあるだろ」
「俺達が来ていて助かったなぁ。もしいなかったらあいつ死んでたかも知れねぇからな」
「いいから、その人質捕まえろよ。あいつは説教だな」
「!」
まずい、あまりのことでボーっとしていたわたしは今の状況を正しく理解する。この人たち、さっきの男みたいに簡単にどうにかできないのは間違いない。それに、さっきみたいな不意打ちが成功するとは思えない。
そう考えたわたしは足を誰もいない方向に向ける。家の周りは森のようで、灰色の曇り空が少し暗くなっていた。どこかわからなくてもとりあえず逃げれば。
「チッ、逃がすかよ!!」
「!!」
逃げようとするわたしの首に誰かの腕が巻き付く。きつく締められ息がしづらくなる。捕まえたのは、わたしがさっきタックルした男だった。
「このガキ……っ、下手に出ていれば!!」
「おーおーやらかしの戦犯が来たぞー」
「全く、お前はだから半人前なんだよ。俺達がいてよかったな?」
「すいません先輩」
きつく締められる首。少しも身動ぎすることができなくて震えが止まらない。もう逃げれない、最悪。なんて最悪を決めつけていたわたしに、先輩と呼ばれた男がわたしの方を指さした。
「おい、さっさと人質の足を折れ。もう逃げないようにな」
「っぁ……」
「っ……わかり、ました」
最悪のさらに先の最悪に冷や汗が止まらない。これは本当に洒落にならない。足なんてポンポン折っていいものじゃないんだよ。これ一応全年齢制なのに、このままじゃR16指定にしないといけなくなる……っ!
「やめっ」
「大人しくしろっ!」
「っ……!」
伸ばされるごつい手に、わたしは目を瞑る。絶対痛いだけじゃ済まされない衝撃をなるべく視界で感じないように。どうしてこんなことに……。これもすべてアオのせいだ。あいつがわたしのところに来たから。
……守るって、言ったくせに。私が守れば安全だって。
「アオの……アオの嘘つき」
『――誰が嘘つきだ、このクソガキ』
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