第53話「それは悪魔の後悔 8」
アオ:冷静になって泣きつかれて眠ったことに顔から火が出るほど恥ずかしくなっている。オレもう20歳なのに。
ロト:合法的にアオの寝顔を見れてハッピーな気分になっている。だがナイトメア、お前は絶対に許さん。
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前回のあらすじ。屈託のない愛を知ったアオは罪を抱えて生きていくことを決意した。
「目の腫れが取れたな。良かった良かった」
「もう言わなくていいですから。忘れてください」
「絶対に断る。俺の魂に刻みつけて絶対に忘れん。ずっと愛してる」
何だその覚悟は。人の泣き面を忘れろって言ってんだよ。
ナイトメア戦から3日という時から流れた。あの時、疲れて眠ってしまっていたオレを連れてロトはダンジョンから脱出し、すでに団長への報告を終わらせたらしい。らしいというのも、その間オレは部屋から出ることを許されず無理やり休息を取らされていた。
「働きすぎだぞアオ。2日も眠っていたんだ。それにナイトメアの悪夢のせいで精神的にも参っていたらしいし、しばらく仕事は禁止だぞ」
「だからといってなんでアンタが居るんだ!」
「だってぇ、アオが心配だったんだもん。旦那である俺が側に居て支えねばならんだろ?」
オレが眠っていた間も、そして今もロトは側にずっと居たらしい。お見舞いに来た団長がニヤニヤと笑みを浮かべながら教えてきたから確かだろう。部屋の鍵をどうやって開けたんだこの男……っ!
「全く、今度からは俺の側で任務を受けてもらわないとな! はい、リンゴ剥けたぞ。あーん」
「……」
「はい、すんません」
差し出されたリンゴはわざわざウサギリンゴになっている。完全な子供扱いだ。しかもずっと一緒に任務って、無理に決まってるだろ。あんな事があっても何も変わらないロトに呆れしか無い。
「……ウサギリンゴ、初めて見たな」
でも、それが少し嬉しかった。しょんぼりとした顔でウサギリンゴを引っ込めようとするロトの腕を掴んでかぶりつく。甘酸っぱいリンゴのみずみずしさと、目の前でぽかんと口を開けて驚くロトに思わず口元が緩んだ。
「助けてくれて、ありがとう。ロト」
起きてすぐいいたかったけど、それよりも先に泣きながら飛びついてきたこの男のせいで言いそびれた御礼の言葉。本当にありがとう。何も変わらず側に居てくれて、何も変わらず愛の言葉をくれて。助けてくれて、本当にありがとう。
「……」
「ん、あれ? ロト?」
「…………」
「き、気絶してる……」
白目向いて気絶した男が起き上がるまでの数分。ウサギリンゴを食べながらオレは頬の熱を取ることに専念した。
****
ジョン、元気か。養成団を卒業してすでに3年も経っているんだなんて信じられるか? そっちでの生活も慣れたって言ってたよな。オレも慣れたよ。この3年で色々あった。
「アオ・クロード。貴殿を王国近衛騎士団騎士団長に任命す。王国と王家のために忠誠を」
初めて入った王の間に、初めて着るような豪華で堅苦しい制服。ジャラジャラと揺れる勲章がオレがここまで来たのだと実感させる。
「はっ、謹んで拝命します。このアオ・クロード、我が剣に誓いブレンスノーブル王国とノーブル王家に永遠なる忠誠と獅子奮迅に勝る活躍を誓います」
割れんばかりの拍手と歓声が響く。何度も挫折しかけた苦悩に溢れたこの3年は何も無駄ではなかったと思う。真っ白い制服に流れるマントが翻り、胸元に光る騎士団長として証であるバッチが輝いた。
まァまた西方に遊びに来るよ。その時は祝い酒を用意しててくれ。
「アオー!」
「! ロト!」
「本当におめでとうアオ! さっすがは俺の嫁だなぁ〜!」
「ありが、誰が嫁だ!!」
この男は本当に言質を取ろうと抜け目がないな。ロトだけは3年経っても何も変わらないままだ。少しは落ち着いてほしいんだけどこのアホは。
「というか! ロトだって近衛騎士副団長になったんだからそれにふさわしい行動を心がけてくれ!」
「それは勿論。アオの恥にならないようにするからな!」
「じゃあ抱えるのやめてくれない?」
もうすでに恥しかいてないんだよ。見ろよ周りにいる人達全員生暖かい目で見守ってんじゃん。みんな菩薩の顔だよ。
「何だよ! あんなことやこんなことをした仲だろ! 俺達はもうすでに夫婦みたいなもんだろうが!」
「
「もっとあるもん! あんなことやこんなことにはそれ以外にいっぱいあるもん!」
「喧しい!」
「ふふ、お二人は本当に仲がよろしいですわね」
言い争う近衛騎士団のトップの間に割って入ってきた女性の声にピタリと動きを止める。この声は。
「カルミア・アーク侯爵令嬢様。ご機嫌麗しゅう」
クリーム色の髪に、紫色の瞳を持つ美女。
「? ……アオ、誰だ?」
「……この国有数の有力貴族、アーク家の次女だよ。それぐらい覚えて」
「ふへへいい匂いする」
「ひっぱたくぞ??」
全く人の話を聞かないロトの耳を引っ張るが、喜んでやがるこいつ。もういいや。
「それで、カルミア嬢。なにか御用でしょうか?」
「いいえ、特に用はないわ。ですが最少年で近衛騎士団長にまで上り詰めた方がどんな方なのか興味がありまして。ごめんなさい?」
なんだろうか、この女。この女に見られるとなにかこう、嫌な予感というかゾワッとする。言っていることはその他に居る令嬢と変わらないのに、その目の奥になにかどす黒いものがあるような気がしてならなかった。
「そうでしたか、カルミア嬢にまで興味を持っていただけて光栄ですよ。なにせ社交界の花ともっぱらの噂ですからね」
「あら嫌だわ。お上手ですこと。それではわたくしはここで。御機嫌よう、アオ様、ロト様」
「はい」
パッと華やぐような笑みを浮かべて去っていくカルミア嬢。なんだろう、やっぱり気の所為だったかもしれない。
「変な女だったな。……それにしてもアオも言葉遣いが治ってきたな! 私を使うアオは可愛いな!」
「……流石に騎士団長になったんだ。オレ……私だって治す」
「俺は別にどっちでも好きだけどな。オレっ娘アオも可愛いぞ」
「はいはい。早く戻るぞ」
この時、オレ、私はまだ気づかなかった。このときのことが、見逃したことで後に悲劇を生むことを。
失いたくないものを、失うことを。
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