第24話「その女、公爵令嬢失格 5」

カンナ:よく誘拐されるヒロイン。今頑張って地下から地上に向かっている。隣にいる誘拐犯がうるさい。

アオ:よく事件に巻き込まれる保護者。今頑張ってネネの攻撃から誘拐犯共を守ってる。見捨てていい?

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 前回のあらすじ。公爵家のとんでもない闇でネネが闇落ち。ついでに逆紫の上をしちゃいました。


「うああああああああああ!!!」

『チッ、めちゃくちゃしやがって! いい加減にしろこのクソガキ!』


 闇魔法で魔法が使えない今の状況は、正直言うとかなりやりづらい。しかも、このガキの部下が逃げきれてないから守らないといけないし……。あー! ムカついてきた!!


「なんで、どうして私が! 私がこんな目に合わなくちゃいけない! どうして!!」

『知るか! 何でもかんでも物に当たりやがってこのヒステリック娘! テメェの闇魔法が、魔法どころか周囲のものまで吸うブラックホールになって大変なんだよ!』


 そうなのだ。アンチマジックが魔法を吸い取るだけで終わるはずなのに、物理的な干渉まで始めたのだ。もはやこれはアンチマジックじゃない。それの上位互換、全象消失アンチ・ホールという魔法だ。まじでどんな鍛錬していたら覚醒に近い魔法を使えるようになるんだ。


「無茶するガキだな……っ」


 アンチホールはとんでもない効力を持つことで有名だが、無論その強力な効力には代償も存在する。というか単純に魔力を使いすぎるのだ。それも、生命活動に支障をきたすレベルの魔力消費を。


「このままじゃ、間違いなく死ぬな」


 まぁ、別にこのまま逃げていればこの女が死ぬってだけで私は困らない。と、思っているのだが。


「――お嬢様! お嬢様!!」

『あーもう! 来んなって言ってんだろこのバカガキ!!』


 突然、本当に突然だ。全く気配を感じなかったところから湧いて出てきた深緑の髪を持つ男がネネ・ゴールデンに飛びつこうとしたのだ。受け身も武器も持たずに。そう、つまりは自殺願望者である。


『死にたいならまた後でにしてくんない!? 今は忙しいんだよ!』

「ですが、このままではお嬢様が!」

『そうだよこのままだと死んじゃうから止めるんだよ! でもお前いたら出来ないの! 分かれ!!』

「俺は、俺はお嬢様が死んだら……っ」

『その話は後で聞いてやるから! って! おいこら!!』


 何だよこいつ。さっきからお嬢様お嬢様って。こいつのせいで私はこの女を助けなくちゃいけないだろうが。くっそ、めんどくせぇ!!


「お嬢様! ヴァンです! お嬢様、正気に戻ってください!」

「いや、誰か、うああああああ!!!」

「お嬢様!!」


 もう、見捨てよっかな。だってこのヴァンっていうやつ言うこと聞かないし、ネネ・ゴールデンも死にそうになりながら魔法使って正気無くしていくし。そうだよ、このままこいつら放置してカンナを助けに行けばいいじゃん。そうだそうしよう。カンナには頑張ったけど無理だった的なこと言ってなんとか言いくるめよう。しばらく泣くかもだけど、真実さえ隠しときゃいいだろ。そうしよっと。


「ね、ネネさん!!」

『……すぅーーー』


 カンナの声が聞こえてきて、私は動きを止める。おい誰だよこいつここまで連れてきた阿呆は。おかげでまじで助けなくちゃいけなくなったじゃんくそったれ。


 そうして過激な戦場から逃げれない私は、覚悟を決めるしかなかったのだった。


 ****


 破壊されていく周囲の景色。真っ黒な穴から全てを吸い込むそれは、まさに最凶の魔法の力とも言える光景。そして、そんな魔法を使うたびにネネさんの体から魔力が抜けていくのが分かる。え、やばくないこれ?


「ネネさん、魔力がだんだんと」

「カンナ! 無事か!?」

「! アオ!!」

「お前なんでこんなところにいるんだよ! 大人しく地下に潜ってろ!」

「うん無事……っておい! いきなり会って言う言葉それぇ!?」


 何だよせっかく脱出してきたっていうのに! ほら見てよアオ。隣にいる誘拐犯が呆れたような顔でこっち見てるよ! 「だから言っただろ」って言ってくるよ! と言うか仮にも従者ならまずはわたしの無事を確認しろぉ!


「とりあえず、いまカンナを守っているほど余裕はねぇ。足手まといは一人でいいんだよ」

「足手まとい……? あ、もしかしていまネネさんの近くにいるあの男の人のこと? 何あれニンジャみたい」

「そうだよ」


 確かにアオの言う通り、深緑髪の男の人が必死に暴れるネネさんに食らいついている。あれ、でもあれよく見れば武器なんて持ってなくない? 足手まといって、そういうこと!? 自殺願望者!?


「状況は読めたな? なら今すぐ地下に潜ってろお前がいると色々やりづらい」


 アオの言う通り、ここにわたしがいても足手まといになるしかないと思う。いまネネさんのことを止められるのはアオだけだと思うし。……うん? でもなんか言い方がおかしいな。色々やりづらいって何? 戦うだけだよね。……まさか。


「……ねぇそれってわたしの勘違いならいいけど、見捨てるとかそういう選択をとるから戻れってことじゃないよね」

「ソンナワケナイダロ」

「おい! こっちを見ろ! 今完全に見捨てる目をしてたでしょ! 考えてたな? 考えてただろ見捨てる算段を!」

「チッ、こういう時だけ勘がいいなこのガキは」

「この鬼悪魔!」


 やっぱりこういうところは完全に悪魔みたいな性格しているな! でも、アオの性格上。やる気を無くしたらそこまでだ。実際すでにアオはネネさんを助ける気は薄そうだし、わたしを助けに来ただけだったのならアオはきっとこのままわたしを連れて帰る可能性が高い。


 え、じゃあまじでわたし来ちゃ駄目じゃん。選択肢間違えた!!


「そもそも、私がアイツを助ける義理がどこにある? アイツが勝手に自滅するだけだ」

「ぐぬぬ……」


 言うと思っていた。やっぱりすでにやる気を無くしているアオを、ここからどうやってやる気にさせれば……。そう思っていたその時、今まで私の隣で黙っていた誘拐犯がアオに飛びつくようにすがりついた。


「そんなっ……頼む! お嬢様を助けてくれ!」

「ゆ、誘拐犯!?」

「あ”? 何だこいつは。抱きつくな気持ち悪い」


 男に対して辛辣すぎでしょ。蹴っちゃ駄目だって。


「お嬢様はただ、ただ自由になりたいだけなんだ! もし協力してくれればお嬢様はアンタを悪いようにはしないし、カンナ・リーブルだって守るはずだ! だが、ここでお嬢様が死ねば公爵家はお前を必ず殺す! そこにいるカンナ・リーブルだって家ごと潰されるぞ!!」


 誘拐犯の話を聞くに連れ、面倒くさそうにしていたアオの顔が冷たく変わっていく。でもたしかにその通りだと思う。守る云々はわからないけど、ネネさんになにかあったら間違いなく公爵家の報復が起きる。


「……――つまりなんだ、ガキ。お前は私を脅す気か?」

「っ、そ……そうだ! お前だって公爵家の報復は」

「報復が怖い、とでも私がいうと思っていたか?」


 アオの凍りつくような声に息が止まりそうになる。もしかしたらアオにはなにか、公爵家ですらも手出しできない何かを持っているかも知れない。誘拐犯のお願いは一蹴される可能性はでかい。


 でも、ごめんねアオ。今回ばかりはこのまま行かせない。アオにはネネさんを助けてもらうから。


「――じゃあ、わたしが前線に立ってネネさんを助ける」


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