第15話「そのヒロイン、警戒心失格」
カンナ:コーヒーは飲める。ミルクがないとダメ。ブラックは嫌い。
アオ:コーヒーは飲める。ココアのほうが好き。
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前回のあらすじ。アオの太ももは低反発マクラ。
すべてを思い出した。そうだった、どうしてわたしは忘れていたんだ。昨日わたしは確かにこの学園の有名人、ネネ・ゴールデンさんのことを助けたんだった……。これもそれもすべて、昨日のアオの膝枕と男色文化のせいだっ。記憶が全部吹っ飛んだわ!
「理不尽な当たりヤメロ。お前の記憶力の無さが悪いんだろ。後レポート」
「くそう、アオめっ」
「聞けや、頭ひっぱたくぞ」
「やれるものなら――あ、やっぱやめてくださああああああ!」
閑話休題。
そして断れないわたしをいいことに、ネネ・ゴールデンさんに引っ張られること中庭のガゼボ。上級貴族しか使えないここに、私とアオは来てしまった。はわわ、男爵家の娘である私が……はわわ。
「フフ、お二人は本当に仲がよろしいのですね」
「今の仲良しに見えましたか? 見てくださいこのたんこぶ。こいつ本当に殴りやがりましたよ。この鬼! 悪魔!」
「折檻です、オジョウサマ」
「ふふふ、本当に仲がよろしいのね」
ガゼボでガチガチに固まるわたしは、アオのいつも通りの姿に少し気を緩める。というよりたんこぶの痛みでそれどころじゃない。じわじわくるんですけどっ。
「カンナさん、アオさん。先日は本当にありがとうございます。すぐにでもお礼を申し上げたかったのですが」
「必要ないですよ、ゴールデン公爵令嬢様。私もオジョウサマもお礼のために助けたわけではないのですから。そうですね、オジョウサマ」
「え、アオが敬語……明日は槍でも降るの!?」
たんこぶが追加された。さっきまでいい感じに従者だったくせに! 私に対する優しさと温もりと切なさと愛おしさが足りないんじゃないの!? この鬼悪魔は!
と、憤慨するわたしを空気にするがごとく二人のディベート戦は激しくなっていった。
「昨日もそう言ってお断りしましたね、アオさん。そこまで他人行儀でなくていいのに」
「いえいえ、高貴なるゴールデン家の姫君に対して、一介の従者が気安くするわけには行きません」
「あら、昨日はとても気安かったと思うのだけれども?」
「それは大変失礼いたしましたゴールデン公爵令嬢様。先日のお一人のお忍び、きっと護衛にも秘密で出てきたのでしょう? そのような方にこのような態度をしていてはお忍びに気づかれてしまうという私からの心遣いでしたが、無用でしたね」
「あらあら、随分とお優しい気遣いですのね。嬉しいですわ」
なんだろう。二人の背景に吹雪が吹き荒れているような。若干ここの空気も冷たく張り詰めていて……さ、寒い。寒いし場違い感が半端ないよっ。後アオの言葉が段々と怖いものになってきている。ここは、ヒロインであるわたしがなんとかして、アオを止めねばっ。
「えっと、えーっと。あ! そうだアオ! わたしさっき移動教室で教科書忘れちゃった! とりに、行ってきてくれないかな?」
二人の話を遮り、絞りきったわたしの言葉はなんというかあまりにも苦しい。これがコミュ力が少なすぎるものの障害というわけか。
「あ? お前何言って…………はぁ、わかった」
「! ありがとう!」
ものごく呆れたアオの顔。きっと嘘であることに気づいているのだろう。けれども深いことは何も聞かずに席を離れたアオに、わたしは胸をなでおろす。……そういえば、わたしの荷物って基本アオが持っていなかったっけ?
「そ、それで! わたしになにか用があるんですよね、ゴールデン嬢」
「……ふふ」
大丈夫だよ、アオ。わたしだって流石にわかっている。この人が何かを企んでいることぐらい。じゃないと、ここまでわたしに対して興味を持つわけがない。本当はもう知らない人と話すのは怖いし、今すぐ帰ってきてほしいけどね!
「では、そうですね――」
ここで今、わたしがこの人の企みを暴いて見せる!!
****
あいつの忘れてきたという教科書。勿論そんなものは存在しない。そもそもあいつの荷物を全部持っていったのは私だからな。
「ま、貴族同士の交流に従者は不要か」
それにこういうことにまで口を出してたらあいつの成長にもならねぇ。ガキの世話に教育。それにお守りか。今までやったこともない、昔の私が見たら驚くようなことばかりだと私は笑った。
「第二の人生……悪魔生か。悪くねぇ」
それはそうと、あいつ本当に一人で大丈夫なのか? なんだか考えがあるみたいだったが、正直あのアホの考えなど不安以外の何物でもない。だが過保護に手を出すのもまた違うだろう。親なんてあんまり想像できないから、どうするべきかよくわからんな。
「とりあえず、もう30分だ。戻ってもいいだろう」
柱時計を確認し、私はアイツの好きなお菓子を持って中庭のガゼボに向かう。それにしてもあの女、何が目的だ。貴族の女ってのは、腹の中に何を飼っているのかよくわからねぇから苦手だ。
「……ん?」
その瞬間、何かふと妙な気配を感じた。なにかに見られているような、そんな感覚だった。けれども私の気配察知には何も引っかかってない。あるのは中庭にいるあのゴールデンとか言う女の巨大な魔力と、カンナの光の魔力のみ。
「気のせいか……」
この学園に、暗殺者みたいに気配を殺せるようなやつがいるわけがない。そう考えた私はすぐに中庭に向かった。
「――そうなんだよっ! アオのやつ人の本勝手に見るし、勝手にわたしのベットを使うしで本当にあいつわたしの従者なのか謎なんだけど!!」
「あらあら、本当に面白いですね」
「こっちは面白くないよ!!」
ギャイギャイと騒ぐカンナと、それを軽く流すゴールデンの姿。さっきよりも明らかに仲良くなっているその姿は、まさに心を開いた犬と飼い主の姿だ。
「そうだった、アイツの警戒心赤ん坊以下だったんだわ……」
私はなにか、重大なミスを一つ犯したらしい。こいつ一人にするべきじゃなかった……。
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