#040 仕掛けと覚悟

「痛イヨォ……、怖イヨォ……」

「助ケテ、殺サ、ナイデ……」

「何デ、助ケテクレナイノ…………憎イ、憎イ」


 悲痛な叫びを残すゾンビたちを、次々と蹴散らしていく勇者一行。動きは遅く、何より脆い相手だが……。


「なぁ、本当に、倒さないとダメなのか? これだけ弱いなら……」

「後ろッ!!」

「へぇ…………ウギャァァァ!! 噛まれ、ハナ、せえ!! い、いだいよぉ、だすけで! 魔法! 回復魔法を!!」


 背後から組み付かれ、首筋を噛みつかれる。皮膚はえぐれ、激しく出血しているが、回復魔法は傷口を繋ぎ合わせるのに長けている。完全に肉を持っていかれない限り、その場で元通りに治せてしまう。


「油断するな! 力は強いぞ!!」

「この、よくも、よくも俺を! せっがぐ、だずげで……」

「いいから落ち着いて、動くと綺麗に治らないわよ!」


 噛まれていくらか錯乱するものの、戦闘の高揚もあってそれほど痛みは感じない。しかしそれ以上に、精神の疲弊が激しい。


「なぁ、変じゃないか??」

「変って、何が? おかしいのなんて全部でしょ??」

「そうじゃなくて、コイツラ、なんで道を塞いでいるんだ?」

「え? 塞いでいるっていうか、近づいたら…………あっ、そうか、そもそも何で、道にとどまっているって話よね!!」


 ゾンビものの映画なら、定番は音に反応するパターンだが、このゾンビは声を発する。本能的にゾンビ同士は見分けられるにしても、それなら一ノ砦に群がるなり、逆に散っているはず。それが都合よく道の周辺に陣取り、勇者の行くてを阻むのだ。


「つまり、コイツラを操っているヤツが……」

「「近くに居る!!」」

「あるいは、何か魔道具が仕掛けられているか」

「つまりソレを何とかすれば、コイツラは!!」


 一筋の光明に安堵の色が蘇る。しかしその展開を、こころよく思わぬ者が……。


「なにを悠長な!! 仮に司令塔がいたとしても、コイツラは助からないし、散るのをいちいち待っていられるか!!」

「それは……」

「こうして希望的観測にすがっている間にも! 仲間はまた一人、また一人と死んでいくのだぞ!!」

「「ぐっ……」」


 一ノ砦は、謎の爆発で上層階が倒壊している。石造りゆえに、その倒壊に巻き込まれた者はまず間違いなく即死。そして倒壊から逃れた者は、混乱に乗じて魔族に襲われる。優先目標は潜入している魔族であり、にゾンビを操る者が本当に潜んでいたとしても、それを探す余裕はないのだ。


「それなら!!」

「なっ! なにを!!」


 とつぜんトーヤが、地面に剣を突き立てた。


「道を切り開きながら、ついでに道の掃除もすればいいんだ!! ……うおぉぉぉぉぉ!!!!」

「なっ、そんな無茶な!!」


 体中から光魔法を放ち、道を斬り裂きながら疾走する。司令塔と思しきゾンビが居ないなら、いや、いたとしても、道に沿ってすべて蹴散らせば済む話。魔力消費を無視した荒業だが、少なくとも仲間の体力と、なにより精神力は温存できる。


「うおぉぉぉぉぉ!!!!」

「ハハッ、本当に凄いよ、トーヤは」

「もう、全部アイツ一人でよくないか?」


 無差別に放つ光魔法。一つ一つは弱いものの、アンデッドには有効な属性であり、なにより繊細な魔道具を破壊するには充分な威力があった。


「なにバカ言ってるの! せっかく切り開いてくれた道よ! 遅れないで!!」

「「おぉ!!」」

「なっ! 道が! これでは…………くそっ!」


 当然ながら道は荒れてしまうが、無数に散乱するゾンビを考えれば些細な問題。


「どうしますか? まだ、戦っていない者も……」

「こうなっては仕方あるまい。いくらか経験はつませられたので、この場は良しとする」

「ハッ!」


 実のところ予想外の展開は今に始まったことではない。本来、砦を襲うのは農民が主体であり『勇者に人を殺す経験を積ませる』ことを第一目標に掲げていた。そのために農民に情報を流し、砦を襲うよう仕向けたのだが、そこに魔族が紛れ込んでしまった。情報を流す以上、その展開は想定しており、対策もしていたのだが、理想の展開からは完全に外れてしまった。


「我々は勇者トーヤ、および主力の護衛を最優先とする。もし…………魔族が生き残っていたなら、そして挑んできたなら! 命を賭してでも守るのだ」

「ハッ!! 心得ております」




 すべては王国のため、そして人族の未来のために。

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