#053 後日談と天職
第四王子の死亡により、その陣営は王選脱落となった。しかし勇者がある程度生き残っていた事と、王子の死亡を隠すため、代役の姫が秘密裏にそのあとを引き継いだ。
「しかし、我が兄ながら……。国民など、勝手に生えてくる雑草か何かだと思っていたのでしょうね」
「そもそも食料などは、国が支給するものなのでは?」
「もちろん出ていますが…………その分を私兵の増強にあてていたようです」
書類の山に頭を抱えるモニス様。
俺はあのまま死亡した事となり、モニス姫直属の部下として素性を隠して就任した。いちおうフィーアさんの腹違いの弟であり、準貴族って事になっている。
「その私兵は? かなり残っていましたよね??」
「素性に問題の無い者は、マリオンヌ姉様が雇い入れたようです。たぶん…………まだ(王選を)諦めていないのだと」
本来なら同じ派閥のモニス様が後を継ぐはずだったのだが、なんと後任は第一王子派閥についていた姉姫となった。理由としては『第四王子の問題行動にモニス様が関与していた』ってことなのだが、これはもちろん難癖。派閥の力が圧倒的に弱く、そのあたりの対策を怠っていたのもあって見事に出し抜かれた。
「そもそも、魔族を招き入れた張本人って可能性もありますからね。全部、筋書き通りというか…………他派閥を崩壊させ、あわよくば自分も権力を拡大する、みたいな」
「それは…………そうかもしれませんが、外では絶対、口にしないでくださいね」
第四王子の作戦は、国も黙認するものだったが、だとしても被害が大きすぎた。半数以上の勇者と、重要な軍事拠点や兵力、くわえて周辺の農村も無理な徴収で壊滅させてしまった。さらには領地内に進入された魔族4体のうち3体が行方不明ときている。それを本格的な会戦前にやらかしたのだから、無能を通り越して大戦犯だ。
モニス様はその尻拭いとして、周辺地域の調整と、行方不明になった魔族(たぶん帰ったとは思うが)の探索と討伐が命じられた。しかしながら姫様はこのような仕事の経験や人材は持ち合わせておらず、ようするに厄介払いで適当な仕事を押し付けられたのだ。
「そうですね。まぁ、拾ってもらった命ですし、大事に使います…………よっと」
俺はと言えば、姫様を頼らない選択もあったものの、状況がよかったのもあって素直に姫様を頼った。正直なところ、勇者として戦地に送られるのも嫌だが、だからといってトイレもない未開の地でサバイバル生活ってのも御免こうむりたいところ。落ち目とは言え、特権階級の側使えとして書類整理を手伝い、たまに気分転換もかねて(極秘の)お使いをこなす。元庶民の俺には、このくらいが丁度いい。
「もう終わったのですか? あいかわらず、早いですね」
「これでも元会社員ですからね」
「はぁ……」
「それに、次のお仕事が」
「えっ!? し、失礼しました」
扉を開けると、そこには証書を抱えた使用人の姿。この世界は(戦争以外にも)魔物や盗賊の被害など、トラブルに事欠かない。
「いや、手がふさがっているようだったからね」
「その、お手を煩わせてしまって……」
まぁちょっとした悪ふざけ。準とはいえ特権階級にあると、こういった気遣い1つでも周囲が恐縮してくれる。少し違うが、水戸黄門にでもなった気分だ。
「それで、報告は?」
「あっ、はい。再開発中の村で魔物被害が出て、その、魔族の仕業だという声も……」
「はぁ~、お願い、できますか?」
「ちょうど、体を動かしたくなっていたところなので、助かります」
大半は勘違いや誇張だが、定期的に魔物や盗賊を討伐するのも、気分転換になっていい。もちろん面倒なうえに血なまぐさいので、立て続けは勘弁だが…………あいにく俺は性格が歪んでおり、悪人なら気兼ねなく殺せる。地球では考えもしなかったが、あんがい殺し屋が天職なのかもしれない。
こうして俺は、ひとまず召喚勇者としての使命を忘れ、権力と暴力を己の裁量で振るう生活に落ち着いた。まだ王選や魔族の問題は、片付いていないが。
『俺はクズだが悪事は許さない!~呪いの勇者は世界を破壊し、世界を救う~』 第一章・完
*
ひとまず本作はここで終了です。カクヨムコンにエントリー予定であり、しばらく止めていた他作品を更新したあとに、順次修正版に入れ替えていく予定です。それまでは完結済状態にしておき、逆に言えば完結が解除されていたら「リメイクが始まったんだな」と思ってください。
それではまた他作品でと言いたいところですが、その前にコメントやレビューしてもらえると非常に助かります。まじで。
それではまた。
俺はクズだが悪事は許さない!~呪いの勇者は世界を破壊し、世界を救う~ 行記(yuki) @ashe2083
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