#052 策略と決着
「クソッ! 勇者やアインたちは何をしている!!?」
「ハッ! 正門広場でもう一体の魔族と交戦中と思われます!!」
「こちらにも回せ! こちらは3体を相手にしておるのだぞ!!」
圧倒的な耐久力と攻撃力を誇る大型アンデッドに、高い機動力と戦士としての勘をいかして上手く立ち回る2体の人狼。グレゴルドの部隊もレイオスをくわえて善戦しているが、やや押され気味といったところ。
しかしながらアンデッドや人狼系の魔族が全力を出せるのは夜の間だけ。夜明けまで持ちこたえれば形勢は逆転するだろう。
「まさか…………ヤツラ、この期に及んで裏切る気か」
騎士は5人であり、王選の監督の意味も込めて他後継者候補の派閥から最低1人は騎士を受け入れなければならない。当然ながら隊長のレイオスはグレゴルド派閥だが、一軍勇者につけた騎士は他派閥。土壇場で裏切っても不思議は無い。
「くっ、せめて…………フィーアを連れてきていれば」
もちろん他派閥といっても、大枠では王国の誇り高き騎士であり、人選も吟味した。しかし吟味したからこそ、油断していたというか、獅子身中の虫を過剰に警戒してしまった。
もし自分に何かあった場合、代理として台頭するのは王女モニスであり、裏切りがあるとすればモニス派の騎士・フィーアだと睨んでいた。
「そこだ!!」
「なんの! 獣風情が、軽々しく殿下に触れられると思うなよ!!」
「でかしたぞ! そのまま押し返せ!!」
「ハッ!!」
しかし考えてみれば、フィーアを呼んでいた場合、さらに状況が悪化していた可能性もある。このまま守りに徹すれば、勝つのはグレゴルド。わざわざ不安材料を追加する必要は無い。
「いいか、焦る必要は無いが、攻めに転じるタイミングは見誤るな! こいつらは、この場で仕留めるのだ!!」
考えてみれば、今の状況はそこまで悪くない。魔族が本領を発揮するには、フィールドの相性が欠かせない。つまりこれでも有利な状態であり、ここで仕留められれば、のちの戦いが楽になる。
「くそっ、絶対に生き残ってやる。生き残って…………必ず、王となってやる」
極限の状態に長くさらされ、逆に落ち着きを見せるグレゴルド。甘やかされて育ったとはいえ、王にならんとする思いや素質は本物であった。
「危ない!!」
「な、どこから!?」
とつじょ飛来した脇差をレイオスが弾く。それは大型や人狼が居た場所からではなく、反応できたのはレイオスが優秀な"騎士"だったから。主の護衛を最優先に考える護衛としての立ち回りがあってこそだった。
「離れてください! ただの投擲では!!」
脇差から血のようなものが流れ出し、できた血だまりから無数の手が生え、生者を奈落へといざなう。
「魔法部隊、あの血だまりを撃て!!」
「ハッ!!」
「うあぁ、なんだこれは!? たすけで…………くださ……」
「ダメです!? 表面を吹き飛ばしたところで、本体は地中に!!」
「くそっ! ここに来て搦め手だと!? 魔法部隊! 殿下の守りを絶やすな! この手の魔法は、1つ1つは脆いものだ!!」
「「はい!!」」
大型や人狼に気を取られていると、闇に紛れて血だまりが忍び寄り、とつじょ地面に引きずり込まれる。その手は振りほどけないものではないが、陣形を崩壊させ、弱った者にトドメをさすには充分だ。
「こんなところで終わってたまるか。我は、我は選ばれし者。やがて王となり、この大陸を、そしてこの世界全土を統べる覇者となるのだ!!」
「者ども! 砲撃に備えろ!!」
グレゴルドの剣に、再び光が集う。狙うは大型。ここでアレを落とせば、まだ勝機はある。
「消し飛べぇぇぇぇええええ!!!!」
眩い光の波が、大型の巨体をえぐり取っていく。大型アンデッドの高耐久は、内部に攻撃が届きにくいからであり、核といえる部分を吹き飛ばしてしまえば、巨体を維持できずに自壊する。
「やったか!!?」
「おぉ、王子様もやるじゃねぇか」
「ハハッ、参りましたね」
まだ人狼は残っているものの、彼らは武人であり、敵でありながら足を止め、グレゴルドの奮闘を称える。
「や、やった、やったぞ…………へ??」
魔力を使い果たし、膝から崩れ落ちるグレゴルド。しかし勢いよく落とした股間に、ぬるりと冷たい何かが入り込む。
「油断したな、王子様」
「殿下ぁぁぁあ!!!!」
小さな破裂音と共に、ダメ押しの針がグレゴルドの腹部を貫通する。彼の体は国宝の鎧で守られているが、顔と…………股下は、守りが甘くなっていた。
「あぁ、そんな、こんな…………ところ、で…………」
股間を深々と貫かれ、グレゴルドの体が前のめりに倒れ込む。いくら魔法で防御を固めても、体内を物理と呪い、両方で斬り刻まれれば即死は免れない。
「悪いな。俺は(武人や勇者としての)美学なんて、持ち合わせちゃいないんだ」
「このぉぉぉおお! よくも殿下を!!!!」
半狂乱のレイオスが、地面から突然現れた小型アンデッドに襲い掛かる。このアンデッドは、今の今まで、根気強く気配を隠し、一瞬の隙をついてグレゴルドを打ち取った。気配を悟られないよう最低限の力しか持たないソレは、レイオスの追撃にあっさり斬り刻まれるが、もとよりソレは放たれた弾丸。その後の事など考えてはいない。
「守るべき主を失って、悔しかろう」
「戦争だし仕方ないが、同情するぜ」
「殺せ…………このまま生きては帰れん」
「そうか、ならばせめてもの手向けだ。介錯、仕る!!」
こうして、グレゴルド王子とその直属の騎士や部隊は、夜明けとともに全滅。巨大な呪いのバケモノこそ倒したものの、魔族を(本人たちは)1体も討伐出来ないまま敗北した。
「フフフフッ、本当にバカな子。扱いやすくて、助かったわ」
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