#047 大将軍と泥試合

「おい! 不味い状況なんじゃぁないのか!!??」

「グレゴルド様、ご安心を。仮設とは言え、守りは万全にございます」


 グレゴルドが構える仮設陣。強固な城壁こそ無いが、有能な兵士や魔法使いに守られ、充分な防衛力を誇っていた。


「そうだ! 勇者だ! 勇者を呼びもどせ! 相性のいい能力者の一人や二人、居たであろう!!」


 狼狽えるグレゴルド。彼は王位継承者として実戦経験も積んでいるが、そこは王族であり兵士や軍師とは違う。安全な遥か後方で、部隊を鼓舞し、最高権限を握っていただけ。身に纏う武具は国宝級で揃えられているものの、それらは飾りとしての意味合いが強く、実戦で使用された記録は無い。


「彼らは現在、正門から侵入して内部で魔族と交戦中です。今、呼び戻すのは得策ではないかと」


 たしかにレイオスは苦戦しているようにも見えるが、戦いは始まったばかり。くわえて仮設陣には充分な兵力が残っている。対して一ノ砦は、魔族の出現とドライのかじ取りが無くなった事により酷い混戦状態。この状況で主力を下がらせれば、最悪、魔族や反乱分子に仮設陣を取り囲まれてしまう。


「そ、それなら…………陣を! 陣をさげよ! 充分な距離をとるのだ!!」

「この場で守りを解くのは、いっそう危険です。どうか、ご再考を」


 陣には、魔族の奇襲を避けるため、すでに複雑な結界魔法が張られている。それがなくても有利な地形を捨てて、敵に背後を見せるのはあまりにも危険であり、なにより王子が率いる勇者部隊の戦いとして"誉れ"がなさ過ぎる。


 どんな事をしてでも勝たなければ意味が無い。勝った者が"勝者"であるのは当然だが…………国を支えるものとして、そして他の後継者との駆け引きもあり、砦や勇者を犠牲にしたグレゴルドは、すでに際どい状況にあった。このまま王として相応しい振舞を欠き続けるようなら、元老院議員やほかの継承者から王選の儀を降ろされてしまいかねない。


「そ、それなら引き込み、総力で…………いや、それは。そ、そうだ! 兵だけ前に! これだけ居るのだ! いくらか加勢させてすぐに終わらせるのだ!!」


 グレゴルドについている軍師は、けっして無能では無い。たしかに覚醒したコウヘーは脅威であるものの、不完全(ニノ砦にいくらか戦力を残している)とは言え魔族と渡り合えるだけの戦力は連れてきた。今、必要なのはドッシリ構え、的確な判断をくだしていくこと。充分ではあるものの、兵力に余剰は無い。トカゲのシッポ切りを繰り返せば、ジリ貧になるのはこちらだ。


「グレゴルド様…………いえ、そうですね。兵を割きましょう。今、レイオス様を失うのは惜しい」


 軍師が『引き込み、総力で叩き潰す』という選択を飲み込む。総力戦が確実だと思われるが、たしかに王子を危険にさらすのは得策ではない。そしてなにより…………相手は冷静さを欠いた絶対権力者。これいじょう意に反する発言を重ねれば、処刑もありえる。





「覚悟を決めろ! 動ける者は防御魔法をかけて突撃する! 我につづけ!!」

「「おぉ!!!!」」


 突撃してくる騎士の親玉。ハッタリで場を繋いできたが、非常にまずい状況だ。


「けっこう、脳筋だったんだな!!」

「ほざけ!!」


 必死に回避に専念する。じっさいのところ呪いは遅効性であり、自滅覚悟の短期決戦に弱い。


「おっと! それなら、こんなのはどうだ!!」

「死霊術か、小癪な……」


 地面から這い出る無数の獣人。血肉のストックはあるていど溜まっており、絶賛増加中。アンデッドが得意とする泥臭い消耗戦に持ち込んでやる。


「御下がりください! 砲撃します!!」

「任せた!!」


 魔法の爆撃。こちらも魔法で軽減するが、さすがは王子様直属の部隊。自分の身を守るだけで精いっぱいだ。


「やったか!?」

「お気をつけを、まだ悪しき気配は充満しています」

「隠れたか…………あるいは、すでに人の身を捨てた存在になり果てたか」


 なにそれ怖い。そんな事をしなくても、場所は夜の草原であり、茂みや岩など、隠れる場所は案外事欠かない。もちろん索敵妨害は必須だが、闇魔法はそのての絡めてに事欠かない。


「レイオス様、加勢します!」

「おぉ、助かる!」




 増援も到着して、いよいよ後がない状況。なにか、もうすこし攻め手が欲しいところだが…………ん??

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