#013 魔法装備と闇魔法

 実技試験は序列順であり、戦力外組で挑戦したのは俺だけ。当然ながら俺が最後の挑戦者となった。


「オイオイ、あいつ死ぬ気か?」

「戦力外がイキりやがって」

「よほど自信があるみたいだが…………1回怖い目を見て、現実を理解すればいいんだ」


 俺は今回、魔法使いとして試験に挑む。ゲームと違って無駄にヒラヒラしたローブは纏っていないものの、動きやすさを重視した軽装であり…………ウルフ戦のセオリーである『急所を金属防具で守っていれば安全』を無視する装備だ。


 くわえて、魔法適正を有する勇者は他にも居たものの、そいつらは全員、初回挑戦を見送った。つまり純粋な後衛スタイルで挑戦するのは、俺が初となる。


「その、そんな装備で……」

「大丈夫、問題無いです」


 もちろん侮っていないので、武器の最終確認もしておく。


 この世界は魔法が存在しており、石材を多用する建築スタイルもあって『中世ベースのファンタジー世界』に見えるものの、魔法科学と呼べるものが発展しており、一部では近未来的に見えるところもある。


 そんなアイテムの1つが、あらかじめ術式を刻んだ(形状は様々だが)タブレットで、わざわざ呪文を詠唱しなくとも決められた魔法を無詠唱キャストレスで発動できる。


 俺が使うショートロッドもその機能を有しており、見た目は杖というよりサイバー感あふれる斧、見方によっては特撮のヒーローがもっている武器にも見えるだろう。これには4つのスロットがついており、そこにタブレットをセットしておけば対応した魔法を即発動できる。


「わ、わかりました。それでは…………始めます!」


 檻から解き放たれる獰猛なウルフ。


「まずは"コレ"から」


 周囲の地面に闇魔法<ブラックホール>を展開する。この魔法は地面に黒い水たまりのようなものを展開するトラップ魔法で、物理的な妨害効果はほとんどないものの、魔力に対する抵抗が高く、移動魔法や対地魔法を妨害できる。


「なにあの魔法?」

「あれって、たしか効果が微妙だって」


 この魔法に完全な妨害・拘束効果はないものの、広範囲で対象数に制限がない。くわえて動物系の魔物は、こういった魔法を過敏に警戒する習性がある。まぁ要するに『牽制効果が高い』わけだ。


「次っ」


 続けて発動するのは<サイレントナイト>。これは闇属性の妨害魔法で、音や視界、さらには対空間魔法の妨害効果もある。


「あれって日よけ魔法だよな?」

「アイツ、さっきから意味のない魔法ばかり使って、いったい何がしたいんだ?」


 音や視界の妨害効果は"半減"止まり。本来は夜間の隠密行動を補助する魔法で、日中に使うとただの日よけ魔法とかす。まったく無意味とは言わないものの、やはり牽制の意味合いが強い。


「さて、そろそろ行くか」


 魔法使いとして充分な牽制を入れたところで、ようやく攻撃魔法の<ブラックサンダー>を打ち込んでいく。


「アイツ、本当にやる気あるのか?」

「初級魔法ばかりで……」

「あぁ、アイツ! 初級魔法しか使えないんだ!!」


 実際、使っている魔法は全て初級。<ブラックサンダー>も弾速が早く目立たない(音や光がほとんど発生しない)利点はあるものの、ダメージ量は同ランクの攻撃魔法の中では最低となる。


「怒ってる怒ってる。そろそろウルフも本気になるぞ!」

「いっけぇ! (コウヘーを)やっちまえ!!」


 ロッドにセットした最後の魔法は<ダークフレイム>。これは見た目こそ黒い炎だが、特性としては毒に近く、神経や魔法を直接破壊する。魔法生物である魔物に、この魔法はクリティカルではあるものの……。


「アイツ、あんなに動けたんだ」

「あぁ、反撃を回避するためだったのね。軽装だったのって」


 このタイプの魔法は相手に使われると厄介だが、自分で使うと途端に弱く感じる。なぜかと言えば相手を絶命させるまでにタイムラグがあり、その間に反撃を受けてしまうリスクがあるからだ。


 その中でも<ダークフレイム>は射程が短く弾速も遅い。イメージは油を染み込ませた松明で戦うようなもの。防御されても燃焼効果を押し付けられるのは良いが、最初から高い攻撃力の剣で攻撃した方が早くて確実だったりする。


「それまで! ウルフの絶命を確認しました!!」

「…………」


 冷めた眼差しでウルフの亡骸を見据える。予想はしていたが、ウルフを殺しても感情は動かなかった。前世の俺なら…………いや、ギフトになれる前の俺なら、それなりに動揺していただろう。




 こうして実技試験は、脇差を披露せずに終わった。俺はあくまで闇魔法使いであって、呪術師ではない…………事になっているから。

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