#020 銃身とコラテラルダメージ
「うそっ! 避けられるものなの!??」
櫓から堂々と身を晒すコウヘーさんを狙撃するも、当然のように回避された。さすがにライフル弾よりは遅いと思うが、それでもエアガンよりは早い。ギリギリ、目で追えるかってくらいの速度になる。
「次は、撃ってこないのか?」
「そ、その手には乗らないわよ!」
正直焦ったが、別に弾がすり抜けるとか、弾道を予知されているって雰囲気ではない。私の動きを見て、純粋な反射神経で避けている感じだ。これなら接近するか、不意打ちならちゃんと当たってくれるはず。
たぶん、コウヘーさんの狙いは無駄撃ちさせての"魔力切れ"。練習用の魔法なので1試合で魔力を使い切ることはないが、さすがに3試合撃ちっぱなしってのは無理。
「そうか。それなら……。ん? 遅いな」
私の盾となっている壁に、魔法弾が叩きつけられる。もちろん練習用なので貫通されることは無いが…………狙いは"確認"。魔法は銃弾と違って弾速や弾道に個性がある。私の動きに対応できるよう、偏差具合を確認しているのだ。
「ショートロッドだからね! べつに、
「あぁ、加速術式が組み込まれているのか」
マジックシューターは銃身の長いロングバレルタイプと、短いショートバレルタイプに分けられ、王国の戦術的に弾速や照準に優れるロングバレルが多用される。対してショートバレルは機動性重視で、こういった魔法戦では重宝されるものの…………そこは剣と魔法の世界。近距離戦は『剣や前衛部隊に任せておけ』といった風潮だ。
そして私が持ち込んだマジックシューターは2丁で、ロングには相性のいい<ウインドショット>を、ショートには爆風で意表をつける<ファイアボム>をセットしてある。いちおうタブレットの付け替えはできるものの、まず初戦は基本構成で勝負するつもりだ。
「私たちに協力してくれれば、そのあたりの細かい調整も、出来るわよ!」
「たち、と言うわりには、あまり歓迎されていないようだがな」
牽制を撃ちながら、徐々に距離をつめていく。純粋なサバイバルゲームで負けるつもりは無いが…………それを理解しているのか、こっちの土俵にはのらない作戦なのだろう。演習場の障害物はそこまで密集していないので、櫓から見張られると奇襲は決まらない。
「それは! その……」
「気遣い不要。好かれる性格でないのは理解している」
そう、正直に言ってコウヘーさんの評判は悪い。私たちは弱者で、彼はそんな『弱者を切り捨てるタイプ』。弱者にとっては、やはり『仲間は死なせない! 皆で地球に帰ろう!!』なトーヤさんの方が魅力的に見えてしまう。
「それでも、私は……」
「まぁ、俺も"アイツラ"を指示しない理由は、理解できるからな」
しかし私は、軍事的な知識が多少なりともあるので分かる。コウヘーさんは『冷徹な指揮官タイプ』で、トーヤさんは『少年漫画の熱血主人公タイプ』。本気で戦争を生き残りたいなら犠牲を許容できるコウヘーさんを選ぶべきなのだ。
諦めなければとか、根性で掴める奇跡はあるのだろう。しかし、次々と命が散っていく戦場で、奇跡頼みや奇跡待ちが許されるわけはないし、相手に奇跡が起きる可能性だってある。だから私は、本当に追い詰められたら…………犠牲を。仲間の死を、許容する。
「ここまで近づけば!」
「ようやく来たか」
「えっ!!????」
眼前に広がる<ファイアボム>の雨。さすがにコレは、避けようがない。
こうして私は、魔道具使いと魔法使いの格の違いを見せつけられ、敗北した。
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