#019 練習魔法と性格
「あっちの障害物アリの演習場で、両端の櫓からスタートして、相手に…………この練習用の魔法弾を当てるか、相手の櫓を奪ったら勝ちってわけ」
正直なところ、コウヘーさんが勝負にのってきたのは意外だった。たまたま魔法銃のような武器を求めていたのだろうが、それだって無理を言えば国が用意してくれただろう。
「杖は自前のを使っていいのか?」
「あぁ……」
どうしよう、思い付きで申し込んだ勝負だから、ルールが全く煮詰められていない。似たような勝負は何度もやったけど、そもそも
「それじゃあ、とりあえず自分のを使わせてもらうから、問題があったら次の試合から禁止でいいな?」
「あぁ、うん。じゃあそれで。ハイ、これが練習用のタブレット」
練習用に、威力制限のかけた魔法のタブレットを手渡す。当たり前だが、演習場と言っても殺傷能力の高い実戦級魔法の使用は厳しく制限されている。
「<ファイアボム>に<ウインドショット><アクアウイップ>に<ヘビーストーン>か」
「知っているの?」
「当たり前だ。これでも魔法使いだぞ」
「そ、そうだよね。でも、練習用だし、いちおう説明しておくね。まずは……。……」
練習用の魔法弾で、主力となるのは弾速と射程に優れた<ウインドショット>。ライフル弾的な立ち位置だが、近距離連射仕様のマジックシューターもあり『迷ったらコレ』と言った立ち位置だ。
そして次によく使うのが、着弾位置に小規模の爆風を起こす<ファイアボム>。これはうまく使えば障害物に隠れた相手を仕留められるものの、弾速が遅く射程も短い。あと今回はあまり関係ないが、一番魔力消費が激しい魔法で、実戦では連射出来ない。
あとはタイマン勝負であまり使わないグループで、近距離特化の<アクアウイップ>。これは射程が一番短く、短時間ではあるものの断続的な攻撃が可能で、見た目は鞭と言うよりゲームの斬撃エフェクト。本来は乱戦で同士討ちを避けるほか、もっと狭い室内戦闘向きの魔法となる。
そして最後が<ヘビーストーン>。これは極端な低速魔法で山なりの弾道が特徴となる。膠着した状況や、大人数での対戦で輝く魔法で、今回は使わないだろう。
「なるほどな。それで、他の魔法は使ってもいいんだよな?」
完全に禁止したいところだけど、それだと私の奥の手も封じてしまう。実力勝負で負ける気はしないけど、お互い勇者として特別な力を持っているので過信は禁物。なによりベストを尽くして戦いたいので…………とりあえずOKにして、ダメそうなら交渉するか、最悪、負けてもその時はその時だ。
「あぁ、うん。でも、防御魔法や広範囲の妨害魔法は禁止ね。フィールド全体を真っ暗にするとか」
「えっ。あ、あぁ、そうだな。じゃあ単体の補助魔法のみで」
危ない、完全にヤルきだった。そういえば闇魔法って、威力は低いけど広範囲で特殊な挙動の魔法が多かったんだ。これは早まったかもしれない。
「と、とりあえずやってみて、問題点はあとから修正でいいかな?」
「あぁ、問題無い」
しかしこうして話してみると、コウヘーさんは案外フェアで、話が分かる。性格の大枠は、冷徹で合理的なのだろうけど…………可能なら助けるし、何より感情(好き嫌い)で判断しない。その点トーヤさんたちは感情論が先行しすぎていて、私は到底『リーダーに相応しい』とは思えない。
*
「それじゃあ、始めるね」
「あぁ、いつでもどうぞ」
お互い櫓の防壁から身を乗り出し、開始のタイミングを確認する。
「あの…………はじめてもいい?」
「だから、どうぞと言っている」
「いや、それじゃあ……」
いっこうに隠れないコウヘーさん。いちおう、"有効"射程範囲なんだけど……。
あまりにも大胆な行動に戸惑いつつも、まずは1本目が始まる。
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