#012 魔物と実技試験
「悪いがソッコーで、終わらせてもらうぜ!!」
ショーがナックルを構え、飛びかかってくるであろうウルフにカウンターを狙う。
ちなみにこの世界にも拳闘士というカテゴリーは存在するが、これは一部の獣人向けの戦闘スタイルで、鉤爪などを持たない人族が使う事はまず無い。その点ショーのナックルは大型で盾の意味合いが強く、状況に応じてタンク役もこなせる。
「遅いッ! オラオラオラオラオラオラァァ!!!!」
首めがけて飛びかかるウルフに、怒涛の連撃が吸い込まれる。野生動物として高い反射神経を持つウルフだが、ひとたび宙に浮いてしまえば無意味。打ち上げるように拳を放ち、地面に落ちる前に絶命まで持っていく。
「シャア!! どんなもんだっての」
「やったな、ショー!」
「ハー、ハー。ま、まぁ、このくらい、ヨユーよ」
終わってみれば一方的な戦いだったが、ショーの息は思いのほかあがっている。これは連撃を放ったからでもあるが…………生き物を殺す罪悪感を覆い隠すための、作為的な興奮状態でもあった。
「これ、ちゃんと死んでるのよね?」
「ウルフの死亡を確認しました! 次の挑戦者は……。……」
倒れたウルフの体が、煙のようなものを吐きつつ一回り小さくなる。これが魔法生物の特徴であり、魔力依存度が高い種族は死体すら残らない場合もある。
「まるで、風船だな」
「魔力で能力を盛っているんだ。じっさい、似たようなものなんだろ」
死亡すると抜けてしまう魔力だが、残った部位に魔力が宿る事もある。それらは魔法素材として高い性能を有しており、珍重され、高額で取引される。
「それでは次、勇者トーヤ。前にお願いします」
「はい!」
本命のお出ましで、場の空気が引き締まる。
グレゴルド王子は観戦していないものの、騎士やそれを支える上級兵も観戦に来ており、勇者内トップの実力と称されるトーヤ戦は、単なる中間試験以上の意味合いを持っていた。
「それでは、檻が開け放たれたらそのまま開始です。準備はいいですか?」
「お願いします」
「それでは……」
放たれるウルフ。武装した成人と同じ程度の強さを有するこの魔物だが、単体での強さは(魔物の中では)弱い部類。とくに手首や首などの急所を金属装備で覆ってしまえば、相手に有効な攻撃手段は無くなり、比較的安全に狩れる魔物となる。
「悪いが一撃で…………決めさせてもらうよ」
十字架を思わせる大剣が掲げられ、トーヤの周囲に透明の膜のようなものが展開される。
彼は全ての能力が非常に高く、そして属性は"光"。基本的に物理主体で前に出て戦うものの、それらを補助する魔法も多彩で…………何より、勇者として華があった。
「そこダッ!!」
微動だにしないトーヤに対し、ウルフは背後に回り込んで飛びかかる。しかし膜、つまり間合いに入った瞬間、雷を思わせる一撃が…………ウルフの体を両断した。
「それまで!」
「「おぉぉぉ!!」」
「さすがはトーヤ君!」
湧き上がる歓声。トーヤの実力はすでに一般兵士を凌駕しており、それでいて誰よりも美しかった。
「……ごめんよ。せめて、痛みなく逝ってくれ」
「「…………」」
奪った命を悼むトーヤ。そしてその物悲しい背中を、冷めた視線が静かに見据える。
こうして主力メンバーのうち前衛職は、無事、実技試験をクリアした。
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