#011 実技試験と尊い犠牲

 召喚勇者は強力なギフトを保有しているが、戦闘面やギフトの活用術など何かと未熟な状態で召喚される。そのため国は、貴重な勇者を守り育てるために育成期間を設け、王選のルールとして各陣営に徹底を呼び掛けた。


「相手はあの狼か……」

「"ウルフ"な。日本語的には同じだけど、この世界では魔法生物かどうかを区別する、重要なポイントだから注意しろよ」

「へいへい」


 施設に運び込まれる檻の数々。その中には狼の魔物・ウルフが捕らわれており、基礎課程の実技試験としてコレと戦う。ちなみにウルフの強さは『武装した(一般的な)成人と同等』となり、後衛に属する立場でも自衛のために『最低限ここまで出来ないと戦場にさえ連れていけない』レベルとなる。


「本当に、殺さないとダメなの? 私、血とか無理なんですけど」

「知ってるか? 俺たち魔族と戦争するために召喚されたんだぜ??」

「知ってるわよ!」

「まぁまぁ、人には向き不向きがある。今は試験だから我慢してくれ。そこさえクリアすれば、血を見なくてもいいポジションにつくこともできるし」

「さすがはトーヤ君、やっさし~」


 俺もアイツラと同じ立場だと思うと、心底反吐が出る。


 実技試験は生きた魔物と戦う都合で、あるていど人数を集めて一気におこなう。普段、主力メンバーたちと絡む機会はないが…………本当にあのお気楽ムードは受け付けない。あの調子では、いつか取り返しのつかないことになる。口には出せないが、そのためにも『早めに誰か死んでくれ』と思ってやまない。


「コウヘー君、やっぱり試験に参加するんだ。さっすが~」

「…………」


 『戦えませ~ん』とか言い出しそうな寄生虫組なんかは、特に早めに死ぬべきだと思う。


「へ~、お前も試験に参加するんだ」

「戦力外認定されているくせに、本当に戦えるのか?」

「辞退するなら今のうちだぞ? 下手をしたらマジで死ぬんだからな」


 さっそくA班の取り巻きが集まってきた。ビッチは積極的に他班の有力者にも取り入っているようで、S班のリーダーがトーヤ、そして各班を繋ぐマネージャーがビッチという構図になっている。


 そしてビッチが俺を妙に気にかけているので、取り巻きは俺をライバル視してくるようになってしまった。


「まぁまぁ、みんな、仲良くしよ~よ。ねっ、コウヘー君も……」

「そのつもりは無い。意見にかんしては、取り巻きに賛同させてもらう」

「おっと、言うじゃないか」

「そうだな。ちなみに~、合否だけでなく"点数"も付けられるらしいぜ? どれくらいの差がつくか、楽しみだな」

「…………」


 公平性を確保するためだろうか? 試験は採点方式で、最後に点数も発表される。この試験は運転免許証試験で言うところの仮免試験なので、高得点を取ったからといって何か特典がつくわけでもないのだが…………いちおう騎士たちも見ているので心証がよくなり、待遇や発言権が向上するかもしれない。


 まぁ俺が騎士の立場なら次の班決めと…………『最初に死んでほしい勇者リスト』の作成に活用するだろう。


「準備ができましたので、試験に参加される方々は集まってください!」




 こうして俺たちは実技試験とはいえ、魔物との初戦闘に挑む。

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