#010 怨念と武器運用思想
寝ようと思ったら、隣の部屋の住人がホラー映画を鑑賞しだした。爆音とまでは言わないが、意識を集中すればギリギリ内容が聞き取れる。そんな状況で安眠できるか?
『憎イ……苦シイ……殺シテ、ヤル……』
まったく、仮にも勇者だぞ。もうすこし神聖な場所に召喚してくれよ。
牢屋に残った怨念は兵士に植え付けて一掃したが、"牢屋に"残る怨念なんてたかが知れている。
『違ウ、俺ハ、ヤメテクレ……』
いちおう受信は意識的に抑制できるが、見えるところにある以上、気になってどうしても意識を向けてしまう。そしてそこにあるのは、無修正の殺人シーン。死に際に残した強い意思が、綺麗なものであるはずも無い。
「いい加減手を打たないと、体調だけでなく精神まで汚染されそうだ」
いや、もう遅いのかもしれない。俺の能力はあくまで残された"意思"の知覚。ようするにサイコメトリーで、不鮮明なものが多いものの音声記録というよりは"追体験"に近い感覚だ。それらは大半が拷問や殺される瞬間の記憶と、それらの体験で膨れ上がった形容しがたい負の感情の塊。
そんなものを毎度見せられるのだ、すでに血や死体は見慣れたもの。軍事施設なので仕方ない部分もあるが、それでもこの国そのものに対しての信頼は完全に消滅している。
「恨みを晴らす。それも1つの…………勇者の仕事か」
*
「これなら…………良いですね。このまま仕上げてください」
「それで鞘は……。……?」
勇者の特性は多種多様で、施設には様々な装備が保管されている。ゲームと違ってフィッティングにいちいち職人の手を借りる事になるが、だからこそ自分専用の装備が出来上がった時の感動はひとしおだ。
「ずいぶん半端な長さですね」
「あくまで、サブウエポンですし」
この国や騎士の運用思想にあわない武器に、興味を示すフィーアさん。
用意して貰ったのは、浅いそりの短い片刃剣。地球でいうところの"脇差"だ。
「メインはロッドで…………サブに曲剣。それなら大剣に魔術回路を埋め込む(魔法剣)とか、もっと短い両刃短剣でもいい気がしますが……」
この国の運用思想は極端で、剣でも
「"短剣"は、支給して貰えるんですよね?」
「いや、アレは……」
ちなみに基礎訓練が終わった勇者には、<勇者の証の短剣>が支給される。これは武器ではあるものの"身分証明書"の意味合いが強く、たぶん、紛失するとめちゃくちゃ怒られる。
「まぁ、開けた場所や、大物と戦うばかりではありませんし」
そう、大物武器が珍重されるのは、魔物との戦闘が想定されるから。熊やドラゴン相手に、短剣が役に立つかって話だ。
「まぁ、メインが魔法なら……。でも、勿体ない、あれだけ動けるのに」
「重武装の戦士スタイルなんて、性に合わないので」
こうしてようやく初期装備が整い…………つぎは基礎課程試練となる。
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