#029 番外編・主力組①
*今回は番外編エピソードです。本編に差し込み損ねた話で、時系列は異なっています。
「みんな! 頑張って!!」
「おおっ! 体が軽い。これなら!!」
「モモちゃん、助かる!」
私の能力は味方の強化。自分は働かずに仲間を煽てて事を成すと言う…………なんとも私にピッタリな能力だ。しかし幸か不幸か、この能力は味方が強ければ強いほど強力になる。そのため勇者パーティーとも相性がよく、一番危険なS班に入れられてしまった。
「くそっ、俺たちも負けていられるか!」
「あぁ。早く平和を取り戻して、地球に帰ろう!」
「「おぉ!!」」
異世界に強制連行されたのに、なぜかやる気満々な男たち。たしかに嘘でも、国の言う事を信じて頑張らなければはじまらないのは、そうなのかもしれないが…………なんとも泥船に乗っている気分で、不安が拭えない。
「これ、作ってみたんですけど」
「ここの料理は終わってるからね。栄養バランスも計算してあるから、あとは効果的なタイミングで……。……」
当初は塞ぎ込んでいた戦力外組(その中でも女性中心)は、トーヤの働きかけもあっていくらか前向きになっている。しかし正直なところ、内心では私も国と意見は同じ。戦えないからと言って無理に活用法を考えるよりも、バッサリ切り捨ててしまい、私たちは主戦力の育成に集中した方がいいと思っている。なにせ……。
「うをっ!! ちょ、気をつけてくれよ」
「わりぃ、また、すっぽ抜けちまった」
あさってな方向に飛んでいく短剣(木製)。彼の能力は、なんと『体の収縮』。ようするにワン〇で見たやつだ。さすがの私も興奮したが…………実際の戦いぶりは、ただただ落胆するばかりだった。
「大丈夫かい? やっぱりナックルの方が良さそうだね」
「あぁ。鞭みたいな音速の攻撃が、出来ると思ったんだけど……」
すかさずトーヤがフォローを入れる。私の場合は上手くやり過ごすために周囲を煽てているだけだが、コイツの場合は本気で『友情と努力で勝利が掴める』と思っているようで…………頭が痛い半面、カリスマというか、やはり人を引っ張っていく力は流石だと思う。
「せっかく面白い能力を貰ったんだ。絶対! モノにしよう!!」
「おう!!」
たとえば収縮能力は、蓋を開ければとんだ欠陥能力だった。体が伸び縮みするので防具が着用できず、武器も頻繁にすっぽ抜ける。防御面も貧弱で、柔らかくなることで骨折などは防げるが、衝撃が分散されるだけで受けるダメージ総量は同じ。なんならちょっとした怪我も、収縮させる事で一気に広がり、致命傷になってしまう。
なにより、結局やっている事はただの格闘技。剣道三倍段だったか、伸びる利点を加味しても、普通に剣や防具を利用して戦った方が強い。しかしこんな欠陥能力でも、戦闘向きなだけまだまし。なかには暗算が速くて正確(発想力などはそのまま)とか、視力が回復しただけって人もいた。
「あまり、能力に頼りすぎるなよ。けっきょく、最後に頼れるのは普段の努力と、筋肉だ!!」
「わかったわかった。だから、いちいち脱がなくていいから」
「筋肉はともかく、基礎が大切なのは賛成だね。攻撃力や防御力は装備である程度補える。必要なのはそれらを使いこなす頭脳と、覚悟さ!」
脳筋組のA班が、ここぞとばかりに力説する。能力頼りのイロモノなB班と違い、A班は明確な特殊能力こそないものの、運動が得意で、ステータスと呼ばれる魔法的な肉体強化値が高いのが魅力だ。
「モモちゃんも、そう思うだろ!?」
「そ、そうだね。基礎は、しっかりしているに、こしたことはないよね」
「俺たちは能力面で劣る。だからその分、ステータスを伸ばして補おう!!」
ちなみに私は相手の"潜在能力"がわかるのだが、これはステータスとは別物らしい。ステータスは魔法的な各種強化値で、さらに筋力や素早さなど細かい分類にわかれていく。対して私の場合は、潜在能力なども加味しているかわりに、その人の得意分野などはサッパリ分からない。まぁ、分かりやすくひと言で表すなら『寄生するべき有望株がわかる』能力になる。
その点で言うと、1番はコウヘーで、次点がトーヤとなる。能力を信じるなら、私もエイミのようにコウヘーにつくべきなのだろうが…………この能力を信用しきれていないのと、人望などの総合評価で、ひとまずトーヤ、というか『トーヤ御一行』を選んだ。
この船が泥船なのか、それとも異世界をめぐる豪華客船なのか。それはまだ…………わからない。
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