#030 従者候補とモチベーション

「ドナドナド~ナ~、ド~ナ~」

「ちょっと、やめてよ、マジで出荷されている気分になるじゃない」


 荷馬車に揺られ、草原地帯をいく。ようやく外に出られたわけだが、軍事兵器である私たちに自由など無い。このまま二ノ砦に運ばれ、そこで王子様が雇った部隊と合流して…………その後は戦場で血で血を洗う生活に、なるのだろう。


「なぁ、あれ! なんか大勢いるぞ」

「うぉ、ホントだ! もしかして出迎えか??」

「いや、出迎えって、早すぎだろ。そもそも砦はまだ」

「つかさ、兵士じゃないよね? なんか布面積、少ないし」


 アニメの世界から飛び出してきたかのような(露出度の高い)デザインの服を纏った女性の一団が見えてきた。


「少ないが、男もいますよ」

「え?」


 それまで黙っていた馭者が語り掛けてきた。


「グレゴルド様のご配慮です。あの中から好きな者を選び、"従者"に出来るんです」

「え? 従者??」

「多少は戦えますが、どちらかと言えば世話人や荷物持ちですね」

「え? 専属メイドってこと??」

「まぁ、"ある意味"、そういった立場ですね」

「「おおぉぉッ!!」」


 この異世界に来て一番の歓声があがる。今まで勇者とは名ばかりで、ファンタジックな冒険ものっぽい扱いをうけなかった私たちだが…………ここに来て、異世界の美男美女がお供に加わるのだ。


 そう、美男美女。


「いったん休憩にしますので、ごゆっくり」

「よっし! それじゃあ俺は……」

「あぁ……」

「「??」」

「同意していれば…………というか、大抵は"夜の相手"もしてくれるはずなので、そのつもりで(パートナーを)選ぶといいですよ」

「「!!!!!!??」」

「い、異世界ィィィ、キターーーー!!!!」


 早くも更新される異世界一。私としては飴と鞭みたいで気に入らないが、たしかに専属の従者がつくのは助かるかも。


「くぅぅ……。俺の、俺のチーハー伝説がようやく、始まるのか……」

「うわっ、ガチ泣きしてるよ、コイツ」

「お、おぃ、みんな落ち着いて。それに、そんなこと……」

「良いじゃないかトーヤ。せっかくのご配慮だ。べつに、嫌なら同性を選ぶとか、そういう事を頼まなければいいだけだしな」

「そ、それは……」


 馬を休ませるついでに、とつじょ始まる集団お見合い。いや、これはいわゆる慰安婦的なものなのだろう。極限の状況でたまっていくストレスの捌け口として、異性をあてがう。落ち着いて考えてみれば、相手にもメリットはある。勇者は地球基準で言えば、国家代表レベルの俳優やスポーツ選手。その愛人となれば、私だって志願したいと思ってしまう。


「キャアーー! 勇者様ァ~!!」

「お待ちしていました~」

「いや~、まいったな~~」

「ハァ~。これだから男は。しかし……」


 伸びまくる男の鼻を呆れつつも、女性陣もそれなりに目をギラつかせている。(1軍メンバーは大半が男なのもあり)集まった従者候補は女ばかりだが、男もそれなりに居る。しかも美男美少年揃いで、目の保養だけでなく、護衛としても期待が持てる。


 ともあれ私の見立てでは、集まった従者の能力は低い。(性別の問題もあるが)よくて一般兵士と同等。大半はそれ以下の、本当に一般人なんだろう。


「トーヤ君は、行かないの?」

「いやぁ、苦手なんだよね。こういうの」


 まぁコイツは地球でもかなりモテていたらしいので、今更。本気で困惑しているのだろう。あるいは…………隠れホモなのか。


「それなら! 私が相性の良さそうな子を、選んであげるよ」

「え、でも……」


 有望株を見抜く能力は、普段活用する機会が無いのもあって秘密にしている。今回は能力と関係ないものの…………やはり! 美男美少年という組み合わせは、心躍るものがある。


「いいからいいから、モモヨさんを信じて!!」

「ちょ、力、つよっ!?」




 こうして勇者御一行のやる気ゲージは、一気に跳ね上がった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る