#031 暴動と責任者

「……ん? 騒がしいな」


 夜、外から人の騒ぐ声が漏れ聞こえてきた。


「勇者コウヘー、至急、食堂に集まってください!」

「暴動でも、起きましたか?」

「それは…………その、そういうこと、みたいです」


 抗議デモとでも言うべきか。いちおう俺たち召喚勇者は、人族の独立と繁栄、そして伝説をなぞらえる超常の存在として好意的に受け取られているはずなのだが…………そこは地球も同じで、反発する勢力も出てくる。それより問題なのはタイミング。王子様や一軍メンバーが出ていった直後っていうのは、さすがにキナ臭すぎる。





「コウヘー、大丈夫だった!?」

「あぁ、そっちも」

「……いやな、予感がする」


 食堂に行くと、すでに大半の勇者が集まっていた。


「予感もなにも、ここは軍事施設だぞ? そこに一般人が突入してきたんだ。……すでに死者が出ていても、不思議は無い」

「「!!?」」


 本来なら門前払いで終わるところ。それが今回、外周をすでに突破されている。いちおう内部までは入られていないようだが、とっくに、武力行使が許可されるラインはこえているはずだ。


「ねぇ、ちょっとどうなっているの!?」

「えっと、まだ全員揃っていませんが、状況は現在……。……」


 押しかけたのは近隣の村の農民で、どうやら野盗に村を追われてここまで逃げ延びてきたらしい。要求は3つで…………1つ目は彼らの保護。外周部分を突破されたのは、見張りが少なかったのもあるが、野党や魔物から彼らを保護する意味もあったようだ。


 そして2つ目の要求は、食料の提供。スジとしては領主に頼むべき事柄だが、ワロス大草原は辺境と言うだけあって土地は無駄に広い。着の身着のまま逃げ延びた彼らをタライ回しにしてしまえば、道中で全滅、そしてこの施設も最寄りの食料の調達先を失うことになる。


「それなら、食料を分けてあげればいいじゃない」

「そうよね。別に全部ってわけでもないんだし」

「なんなら明日にでも、領主様のところまで護衛してあげればいいんじゃない?」

「それは、それだけの問題ならよかったのですが……。……」


 そして大問題の3つ目、彼らは『王選の中止』を要求してきた。当然ながら勇者は召喚済みであり、今さら引けるものでも無いのだが、どうも彼らの状況はそれすら許容できないほどに追いつめられていたようだ。


「はぁ!? それじゃあ悪いのはコッチじゃないか!!」

「呆れた。餓死者が出るほど(食料などを)徴収していたなんて」

「それは……」

「まぁまぁ、彼を責めても」


 どうせ結果ありきのズサンな計画や、中抜きがあったのだろう。最終的にそれらの責任者は処分しなければならないが、当面の問題はそこではない。


「それじゃあ、とりあえず食料をあげて、明日にでも(領主に)引き渡しでいいんじゃない? いい加減、眠いんだけど」

「それが……」

「「??」」

「現在、そういった判断をできる階級の兵士が、不在で……」

「「はぁ~~」」


 王子様の護衛とは言え、誰も残っていないのはバカ過ぎる。いや、本来の『軍事的な決断』ではなく、これは民間相手の『政治的な決断』なので、毛色が違うと言うか、想定していないのは分からなくもないが。


「いいじゃん、もう。分けてあげれば」

「そうもいかないだろ? 国の、それも貴族どころか王子様の食料だぞ。絶対に責任の押し付け合いが起きて、最終的には……」

「「…………」」


 ただでさえ彼らの立場は悪い。農村の完全な壊滅は領主としても痛いだろうが『自分の首か農村1つ』となれば、迷わず首を守りに行くはずだ。


「た、大変です!」

「「!!?」」


 鬼気迫る表情の兵士が、駆け込んできた。


「侵入者が!」

「いや、それは……」

「違います! 内部に! 内部に何者かが入り込んで…………勇者ハジメとシンイチが、殺害されました!!」

「「なッ!!!!??」」


 犯人は農民か、それともその背後に隠れる黒幕がいるのか。それはともかく、どうやら賊の狙いは…………俺たち"勇者"だったようだ。




 こうして何者かの侵入を許し、長い夜がはじまった。

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