#032 黒幕と自覚
「うそっ、そんな事って……」
「マジかよ? あいつらが、ヤラれちまうなんて」
「ちょっと、本当なの!? ハジメとシンイチが、その……」
「間違いありません。その、確認も出来ます」
農民の抗議活動に紛れて起きた勇者殺害事件。当初は半信半疑だったが、やはりこの騒動はモニス姫が匂わせていた試練なのだろう。この事件の黒幕はグレゴルド王子。自陣の戦力にして、貴重な特殊ギフト保有者である勇者を殺すのは勿体無いと思うものの、王子からすれば王選で後継者に選ばれる事が最優先。俺も遠足気分な連中は間引いて喝を入れるべきだと思っていたので、その考えは理解できる。
「じゃあ、確認させてください」
「「なっ!?」」
確認を申し出た俺に、驚きと困惑が入り混じった視線が降りそそぐ。
「いや、確認しないとダメだろ? 犯人は農民か、あるいは他陣営の王子の刺客や、魔族って可能性もあるんだし」
「そ、それは……」
「で、でも、そういうのって、兵士の人に任せた方が」
あぁ、やっぱりコイツラは死ぬべきだ。現代人として死体に嫌悪感をいだく気持ちはわかるが、これから戦争をしようってヤツに許される態度ではない。
この事件、黒幕こそ王子だが、そこはあまり重要ではない。これは戦力外通知をうけ、処分される事が決まった勇者の処刑の儀式兼、"敗者復活試験"なのだ。基本的に刺客は全滅を狙ってくるので、及第点は隠れるなどして生き残る事。俺が黒幕なら、そこにプラスアルファの活躍を要求するだろう。
「確認は必要だと思うけど、迂闊に離れない方がいいかも。あの2人は……。……」
殺された2人は頭脳タイプの能力者だったものの、シンイチにかんしては万能型で一軍メンバーとも互角に戦えたそうだ。悪運が強く、これまでも危機的状況を機転と推理で乗り越えてきた過去があり、施設に残されたメンバーの中ではトップクラスの実力者であった。
「2人とも優秀なんだけど、好奇心が強いというか…………余計な事に首を突っ込んで、騎士の人たちとも衝突していたんだよね」
「なるほど、それなら(偶然の可能性もあるが、真っ先に殺されたのは)理解できるか」
「ねぇ皆!」
「「!?」」
「コウヘーを良く思わない子が多いのは理解しているけど…………ここは! コウヘーに従って動かない??」
「いや、俺は……」
ここぞとばかりに俺をプッシュするエイミ。俺は間引き肯定派であり、子守は御免なのだが…………だからと言って"全滅"までは望んでいない。
「相手は抗議デモを起こした農家の人たちじゃない! そこに紛れて侵入した殺し屋なの!!」
「それは……」
「あぁ、盛り上がっているところ悪いが…………俺はこの状況下で、武器も持たずに集まったバカの面倒を見る気はない」
「「なっ!!??」」
勇者の殺害はさておき、暴動が起きたから招集されたわけで、その場に着の身着のまま『早く寝たいんですけど~』みたいなノリで渋々あつまってきたバカは、能力にかかわらず人としてアウト。喜んで刺客に差し出してやりたい。
「そんな、呼ばれた時はまだ!!」
「俺たちは勇者で、これから戦争で、何百何万の命を奪い合おうとしているんだ。自覚、無さ過ぎだろ?」
「そ、それは……」
ここに集まった連中も、その事を予想できなかったわけではない。しかし平和な地球で育ち、生ぬるいというか、『下手に自分が頑張らなければ、他の誰かがやってくれる』と、都合よく考えていたのだろう。それは紛れもない"お荷物"の思考であり、間引かれるべき不良品だ。
「俺は死体を確認してくるから、ついてきたい人はどうぞ。汚名を挽回したいってやつは、装備をとりに戻るなり、バリケードを作るなり、好きにすればいい」
「「…………」」
しばしの沈黙。この場に例の2人がいたら話も変わったのだろうが、ここで率先して動けるなら間引き対象に選ばれていない。
「その、外の人たちは、どうしたらいいと思う?」
「ん? さっさと食料を渡して、そのかわり倉庫かどこかで、朝まで大人しく寝ていてもらえばいいんじゃないか??」
いけねっ。エイミにつられて、つい、考えを答えてしまった。
「私はコウヘーの意見に賛成するわ! 反対の人、いる??」
「「…………」」
「それじゃあ決まりね。兵士さん」
「で、ですが……」
「責任は、すべて私が取ります! というかこのままじゃ、たぶん皆殺されちゃいますし」
「わ、わかりました。すぐに、手配します!」
もう、エイミがリーダーでよくね? 自分で言うのもなんだが、俺は冷静な参謀タイプで、参謀ってのはリーダーには案外向かない。理想と言うか、無茶でも皆に希望と道筋を示す。……気に入らないが、実際トーヤみたいなタイプが向いているのだ。
「じゃあ、そういうことで」
ひとまず方針は纏まり、それぞれの行動にうつる。
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