#026 お姫様と建て前
「お連れしました」
「…………」
「おもてをあげてください。あと、発言も許可します」
案内された部屋にいたのは、フィーアさんと幼い令嬢…………いや、服装や状況からこの人がモニス姫と予想し、とっさに黙って膝をついた。
「察しがついているようだが紹介しよう。このお方がガスト大正義王国第五息女にしてグレゴルド様の副代をつとめるモニス様だ」
「……その、お目にかかれて光栄です」
モニス姫は、フィーアさんと面識があり、いちおうグレゴルド派閥では(立場上は)ナンバー2の人物になる。しかし幼いことと、そもそも側室の子と言う事もあって実際の権限は持たない、慣習をなぞるために用意された"お飾り"となっている。
もちろん、それでも雲の上の存在である事は変わりないが。
「そなたの活躍はフィーアから聞きましたが……」
「??」
「本当に、目つき、悪いんですね」
「えっ?」
「ひ、姫さまぁ!!」
「じょうだんです。その、場を、和ませようと……」
「「…………」」
和ませるどころか凍り付く空気。会社でも高圧的な上司は嫌われるが、もっと厄介なのが無駄にフレンドリーに絡んでくる腰の低い上司だ。悪い人で無いのだろうが、現代人としてはビジネスはビジネスとして割り切った方が、かえって楽だったりする。
「その、自分は高貴な言い回しに疎いので…………良ければ単刀直入に用件を言ってもらえると、助かります」
「そ、そうですね。用件は2つあって…………まず、生き残ってください」
「はぁ……」
言われなくてもそうするつもりだ。口には出せないが、それはグレゴルド陣営の勝利よりも優先される。
「王選が終わったあと、そなたを、私の"臣下"に迎え入れるつもりです」
「それは…………光栄なのですが……」
「適性については、かまいません」
ようするに姫様付きの側近。これは勇者のその後としては勝ち組の部類で、本来は活躍した
まぁ、モニス姫の立場は(王族の中では)最下位で、手放しに喜べない部分があるのも事実だが。
「そう仰っていただけるのでしたら、是非に……」
正直、お断りしたいところだが…………相手は王族。ここで断って、不敬罪で頸を落とされでもしたら目も当てられない。(目どころではないが)
「お察しかと思いますが、私の立場は、あまり良くありません。ですが! だからこそお姉様たちのところに行くよりは、気楽で…………何より、忠誠を疑われずに済みます」
「…………」
「コウヘー。お前が王国に良くない印象を抱いているのは、わかっている」
バレテーラ。
「それは無理からぬこと。責める気はありません」
「モニス様の母君は、友好国"キスティス"の生まれでな。しかし友好国とは名ばかりで、実情は属国同然。それもあってお立場は弱く、その…………まぁ、より良い関係を築いていければと、思っているわけだ」
要するに現在の政治体制を変えたいと思っているのだが、今はそれすら口にできないほどの独裁状態なのだ。
「そうですか。まだ、この戦いを生き残れるかも分からない状況ですが…………お力になれる事があれば、是非」
じっさいに受けるかはともかく、内定先としてキープするくらいはいいだろう。最悪、何かあった時に交渉材料として使えるかもしれない。
「そう言ってもらえると、助かります。それで、もう1つの用件なのですが……」
「ハッ! "これ"を」
受け取ったのは小さな木箱。魔法的な力は感じないが、蝋で封印されており、いかにも"極秘"な雰囲気を感じる。
「そなたには、近い将来、大きな試練が降りかかります」
「…………」
「そのさい、これを開けてください。きっと、そなたの助けとなるでしょう」
「……ありがたく、頂戴します」
その後、自室にかえった俺は、速攻で箱の中身を確認した。
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