#025 4人の姫と4重の防衛線
「ガスト大正義王国、ミリオンヌ姫、ムリエル姫、メラリーナ姫、モニス姫、ならびに大司教アドバーグ様のおな~り」
「「…………」」
謁見の間で、膝をついて4人の姫様と大司教を迎える。
ちなみに偉い順番は、すでに嫁いで不在だが長女のマリオンヌからはじまり、ミリオンヌ、ムリエル、メラリーナ、モニスで、その下に貴族としては最高位のアドバーグが来るらしい。司教はともかく…………なんとなく姫様の名前がいい加減と言うか、機械的なものを感じるが、それもそのはず、長女と次女の○○オンヌは正妻の子で、その後は(正妻の年齢的な問題で)側室に産ませた子にあたるそうだ。
ガスト王国の継承権は男児が優先されるので、まずは男児を4人確保して、あとは予備として産めるだけ産ませ…………男4人女4人を残して、残りは他国に結婚や養子として送ってしまう。(男8人ではなく)女4人を残すのは、男では継承権をめぐって殺し合いが起きてしまうため。暗殺や病気などで継承者が不在になった場合は、それぞれ対応する姫が一時的に代役を務め、その間に養子に出ていた王族も含めて正式な後継者を決めなおす仕組みらしい。
「おもてをあげよ」
「「…………」」
「其方たちを勇者と認め、祝福と証の剣を授ける」
「「………………」」
相変わらずの上から目線。いちおう勇者は、人類を魔族の支配から解放してくれた大恩人のはずなのだが…………最初の召喚勇者が活躍したのは500年くらい昔の話。なにより私たちは、伝承になぞらえて用意した
「それではミリオンヌ姫より、祝福のお言葉を賜ります」
「うむ、其方にはガストの繁栄のため……。……」
勇者を王族同様の待遇で迎えていた時期もあるそうだが、国が大きくなる一方で、勇者は相変わらず『異世界から来たただの一般人』、数十人召喚しての数撃てば当たる方式なのもあって、釣り合いが取れなくなってしまったのだ。建前は。
「それでは勇者・暁、剛腕、賛美よ、ガストの、そして人族の繁栄のため、奮闘を期待する」
「「…………」」
ほんとうに、ひと言も喋らずに儀式は終わってしまった。その方が楽でいいけど、本当に、君主制ってダメだと思う。
*
「残念だったね、選ばれなくて」
「気にしていない」
今日は姫様たちの警護もあって訓練そのものが禁止となり、勇者全員に豪華な食事が振る舞われることとなった。異世界の御馳走に喜ぶ勇者もいるが…………俺としては昔の記憶。上司のおごりでひらかれる"親睦会"とかいう罰ゲームに思えて、不快極まりない。
「そもそも、戦争に行くって話、だし……」
「あはは、まぁ、手放しで喜べないか」
「いちおう、誉れ高いこと、なんだろうがな」
あれから装備の調整もあって、エイミとミヤコの3人でつるむ機会が増えた。別に浮ついた話は無いが…………2人も他では浮いた存在で、他に話す相手が居ないのだ。
「明日には出発なんだっけ?」
「らしいな」
この施設がある場所は"ワロス大草原"という場所で、地球で言えばサバンナだろうか? 多少の起伏はあるものの平坦な土地で、自然にできた起伏も利用して4重の防衛線が構築されている。
この施設は最終防衛ラインに併設された多目的施設で(勇者の育成以外だと)兵站や予備戦力の待機所、そして捕らえた捕虜を尋問する場所にもなっている。
「王子様が用意した部隊の人たち、良い人だといいんだけど……」
「傭兵も居るらしいし、期待はしない方がいいだろうな」
この施設を便宜上、一ノ砦として、第二防衛ラインにある二ノ砦が最終試験の場所であり、王子が用意した部隊はそこに待機している。
そして現在、王国軍が第三に陣取り、第四を占拠している魔族と睨み合っている。勇者をくわえたグレゴルド部隊は三ノ砦を経由して、一気に四ノ砦に奇襲をかけ、さらにそこから魔族領へと侵攻する作戦だ。
「私たちは、防衛側だから…………まだ、良いと、思う」
「だといいな」
防衛戦は既存の兵士と、2軍以下の勇者が担当し、ここには試験を合格していない勇者も含まれる。俺たちは第三第四の攻防に奮闘しつつも、魔族の注意をひき…………その間に奇襲のような形でグレゴルド部隊が魔族の主要拠点を襲う流れになる。
「勇者コウヘー」
「ん?」
式が終わったころ、兵士が俺を訪ねてきた。
育成期間は、すでに終わったようなもの。これからは実戦も交えて己を磨き、その中で活路を探す事になるのだろう。
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