#024 二つ名とレールプレイ

「素晴らしい! すべての"ステータス"が100を突破しています!!」

「さすがはトーヤだぜ!」

「いやいや、ショーだって」


 また今日もステータス検査。もう何度目か忘れたが、今回は少し事情が違う。


 ちなみにステータスとは、魔力的に強化された能力値で、たとえば『素早さ:100』だと本来の動きを魔力で100ポイント強化出来るって事になる。(素早さがゼロでも、動けなくなるわけではない)じっさいには体格や体重の影響があり、いちがいにどれくらい早くなれるかは表しづらいのだが…………今のトーヤなら、自動車並みの速度で走れるらしい。


「これなら"襲名"資格は充分満たせていますね」

「正式な襲名は姫の到着を待ってからになるが、もう、決まったものと思っていい」

「これから僕は、"暁"……」

「おめでとうトーヤ君、あれ? もう暁って呼ばないとダメなんだっけ??」


 そして育成課程を終えた勇者には"二つ名"が授けられ、公の場では(本名ではなく)二つ名で呼ばれる事になる。


「身内では好きなように呼んでもらってかまわないが、二つ名で呼ばれる機会も増える。今のうちから慣らしておくのもいいだろう」


 二つ名は適性やステータスでパターン化されており、詳しい人からすれば『二つ名を聞いただけで大よその特徴がわかる』識別コード的な意味合いがあるそうだ。


 そしてショーの二つ名は"剛腕"、私は"賛美"となった。ほかの王子が召喚した勇者も含めると相当な人数になるので、こういった略称呼びは理にかなっているのだろうが…………なんとも、王位継承者を差し置いて勇者の名前が広まってしまうのを妬んだ王族に決められた、我儘制度なんじゃないかと勘ぐってしまう。


「それじゃあ俺は、今日から剛腕な!」

「あぁ、僕は、トーヤの方がいいかな? アカツキって、ちょっと名前っぽいし」

「私は好きな呼び方でいいよ。賛美でも、モモちゃんでも!」


 結局、S班の入れ替えは無し。くわえて1軍と呼べるB班までが育成課程の最終試験へと進む事になった。中には特定の科目で合格条件を満たせていない人もいたらしいが…………そのあたり、けっこう判定が緩いと言うか、お役所仕事で『余ほど酷くなければ予定通り』なんだろう。


 そしてコウヘーは、(私の見立てでは)実力的には充分合格ラインなのにもかかわらず、すでに不合格となって一次最終試験には参加できない。これは予定通りの原則もあるのだろうが、それよりも"儀式"への配慮が大きいようだ。


「それでは無礼のないよう、式の予行演習をしましょう」

「ハァ~~。緊張するな。俺、そういうの苦手なんだよ」

「私も……」

「ハハッ。得意な人って、居るのかな?」


 私たちが第四王子の陣営という事もあって、順番が逆転してしまったが…………お姫様と大司教様が各陣営に顔を出し、旅立つ勇者の代表に祝福を授ける。宗教までかかわっている事もあり、能力にかかわらず闇属性使いなどのネガティブ系能力の勇者は『原則として一次試験を通過できない』らしい。(儀式に参加させなければいいだけな気もするけど)


「なに、とくに喋る事もないので、緊張しすぎなければ問題無いだろう」

「そ、そうだよな」

「それより、これから会えなくなる者も多い。折を見て……。……」


 そして儀式が終わったら、翌日には出発。最終試験は次の拠点でおこなわれ、そして合格したらそのまま最前線。とうとう、私たちは戦場に投入される。




 こうして私たちは、気がつけばレールに乗せられ、王国の連中の思い通りに動いていた。

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