#045 総指揮と人を殺す理由
「状況はどうだ?」
「はい、不要な勇者の処理もすすみ、主力勇者も進めておりますゆえ、概ね順調かと」
一ノ砦からほど近い丘に、グレゴルド王子が率いる私兵部隊、そして騎士のレイオスが陣を構える。
「反乱を起こした農民はどうした? ゾンビ程度、殺したところで何がかわる??」
ゾンビといっても人の部分を残した、半分は人殺しといえる相手なのだが…………それはさておき予定では、農民は反乱をおこして砦を攻め込み、勇者に完全な人殺しを経験させる予定であった。
「ご、ご安心を、雇った者は臨機応変に攻める機会をうかがっているだけにございます。それに、もし、もし臆していたとしても……」
「はぁ~~。念のため、次の"仕掛け人"を用意しておけ」
「ははぁ、畏まりました」
農民の男児を数人徴兵し、そこで女をあてがって子供(家族)を作るよう仕向ける。あとは家族をたてに反乱を助長させ、最終的に『戦闘の混乱に乗じて逃がしてやる』という約束で殺せば作戦完了。勇者に人族であり、"裏切者"を殺す経験をつませられるはずであった。
しかし蓋を開けてみれば、魔族の介入もそうだが、農民の反乱が穏やか過ぎた。計画がお粗末だったといえばそれまでだが…………そこには、作戦として『野盗に襲われてかくまって欲しい』という理由付けで潜入した事や、そのご食料などを譲歩したコウヘーらの判断が影響していた。
「あぁそうだ、生き残った農民の処分も忘れるなよ。理由は何でもいい。とにかく一人残らず皆殺しにしろ」
「はい、それは既に、ドライ様に向かっていただいております」
ドライの目的は3つ。1つは仕掛け人の抹殺。作戦が漏れぬよう、勇者と対峙する前に該当者を抹殺する。そして次が生き残った戦力外勇者の抹殺。これは砦内に仕掛けた幾つかの爆弾により大半が生き埋めになる予定であり、優先順位は低いものの仕掛け人と接触している可能性もあるので念のために全員殺す予定になっていた。
「まったく、知能の差というべきか、
「まことに、度し難い者たちですねぇ」
そして最後が魔族の介入があった場合の対処。魔族は爆発に巻き込まれて死ぬか、勇者と対峙させれば済むのだが、それでも行動のよめない相手だけに監視と、非常時には勇者に先んじてドライが始末する手はずになっていた。
「レイオス」
「ハッ!」
「人殺しの訓練を強化しろ。野盗でもなんでも雇って、とにかく(勇者に)もっと人を殺す経験をつませろ」
「ハッ!!」
なぜここまでして勇者に『人殺しの覚悟』を迫るのか? それは魔族軍の構成にある。たしかに魔族は強力だが、そのぶん個体数が少なく、純血の魔族だけで国家を形成するのは難しい。それではどうやって国家や軍を維持しているのか? それはゲームのように都合よく雑兵がポップするからではなく…………亜人のみならず少なくない人族が魔族側についているから。人族はその昔、勇者と共に魔族の支配から独立したものの、王国の支配を拒否して魔族側につく人族が、年々増加しているのだ。
「報告します!!」
「なんだ、騒がしい」
「勇者です! 勇者コウヘーが、コチラに来ています」
「ん? 誰だ??」
「例の、呪いの勇者です」
「なんだ、戦力外か。殺せっ…………いや、少し話を聞いてみるか。内部の状況などを聞き出してから殺せ。レイオス、まかせた」
「ハッ!!」
*
「止まれ! 勇者コウヘー!!」
「これより先はグレゴルド様の本陣! 厳戒態勢ゆえに勇者でも通せぬ!!」
いちおう仲間なのだが、まぁ、魔族が俺の姿に化けているって可能性もあるし、そういうものか。
「施設の中から脱出してきた。中の状況を伝えたい」
「それなら……」
「私が対応しよう」
「ハッ! お願いします!!」
騎士の親玉の登場。ほかの騎士は見当たらないが…………一軍に同伴しているのと、二ノ砦にも残しているのか? まぁ、フィーアさんが居ないのは好都合だ。
「勇者コウヘー、よくぞ無事帰還した。休ませてやりたいところだが…………そのまえに状況を聞かせてもらっても良いかな?」
「そうですね。えっと…………なんだっけ?」
「ん??」
「いや、すいません、ちょっとド忘れしちゃって」
「????」
「えっと、ほら、騎士の……」
「もしや、ドライのことかね?」
「あぁ、そう、その人です!」
「「…………」」
「襲ってきたので、殺しました。俺が」
凍り付く空気。ようするに宣戦布告だ。
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